27 公爵一家(相変わらず)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。
オニクス:元魔王軍のダークエルフ。グロウに敗れて従者となる。
エルシオ公爵:エレナの父。
フィリス:エレナの妹。聖獣フェアリーパピヨンを召喚できる聖女。
リュカ:元エレナの婚約者、ルヴェル侯爵家の跡取り。
――都への街道の終点――
数日かかるはずの道程だったが、馬車が到着したのは翌日の朝だった。
大きな街道が山道を登り、高くぶ厚い防壁へと行きつく。そこには大きな門が開いている。何人もの番兵が街に出入りする者達を確認し、その順番を待つ人が列を作り始めていた。
その人々を爆速と横滑りブーレキで仰天させながら馬車は止まる。壁を見上げて呟くグロウ。
「これが首都ファディスか。山中にこれだけの都市を建造するとは大したもんだ」
――翌日。エルシオ公爵別邸――
都に滞在している貴族達は、街中に別荘を買って暮らしている。それはエルシオ公爵も同じ事だ。
グロウ達はエレナの案内で邸宅に着いた。
公爵一家に加え、元はエレナの、今は妹の婚約者となったルヴェル侯爵家の御曹司リュカも共に居て、着いた二人とその従者を出迎えた。
応接間でグロウは初めてエレナの父と対面する。
「初めまして、義父上。グロウ=キャスタルです」
「予想より遥かに早い訪問だな。お初にお目にかかる。ダモン=エルシオだ。手紙は読ませてもらった」
目つきの鋭い初老の男・ダモンは見るからに油断ならない雰囲気の男だった。彼の手には一通の手紙――早馬でグロウが送った物がある。
それには今回の用件をあらかじめ記し、自ら訪問する旨も記しておいた。
「エレナが聖女として覚醒したとあったが、聖獣の名は記してなかったな? 直接見せるとは書いてあったが」
そこでエレナが父へ告げる。
「お父様。飛竜のエリュトロスです」
そう言って連れて来た小さな竜を皆の前に差し出した。
銀と金の金属の小竜が、注目されて「ゲウー」と緊張感の無い声で鳴く。
「「「「……」」」」
見事な金縛りにあう公爵一家。
それから一早く回復したのは、冷たい視線を送る妹のフィリスだった。
「姉様。こんな事でおふざけとは何のつもり?」
「エレナ……フィリスへのコンプレックスでこんな茶番をやっているのかい?」
元婚約者のリュカも幻滅の視線を向けてくる。
父のダモンは大きな溜息をついた。
「竜系の魔物を捕え、使役するのが、相当高度な事だと知ってはいる。まさかエレナがそれを果たすとは、親として喜ばしいし誉めてやりたい。だがこの小さな子竜は伝説の飛竜とあまりにも違い過ぎるだろう」
当たり前だが見事に誰も信じていなかった。
108の聖獣は姿も名前もはっきりと記されている。伝説に残る最強の飛竜・エリュトロスはこんな小さな愛玩動物ではないのだ。
(まぁ元の姿を見せれば納得するしかねぇだろ。床は抜けるかもしれんが、得られる物を考えれば我慢の範疇だろうしな)
グロウがそう考えていると、その横でエレナは「ハッ」と何かに気づいたようだった。
そして彼女はエリュトロスをその胸に抱き、家族の前から引っ込めたのだ。
それから顔を伏せるようにして、沈んだ声で悲しげに告げる。
「そう……そうですか。自分を認めて欲しかったという気持ちがあった事は否定しません。愚かな娘のつまらない戯言……どうか忘れてください。でも、私の夫のもっと真剣な話は、どうか聞いてくださいませ」
そう言うと後ろに退いたのだ。
(え? 元の大きさに戻さないのか?)
面食らうグロウ。
しかしダモンが「コホン」と咳払い一つ、気を取り直して頷いた。
「新たな魔王軍の胎動か。この国にも拠点が造られていると。それが本当なら今からでも王へ直接伝えるが」
「私の夫が交戦しました。捕虜もいます」
そう言ってエレナは呪文を解除した。
オニクスにかけた幻覚の呪文が消え、その肌が本来の黒を取り戻す。
一家が驚いた。
「だ、ダークエルフ!」
「元新魔王軍のオニクス。今は私を破ったグロウ様の軍門に降り、配下についている」
そこでグロウが一つの筒を取り出した。中には一通の巻物が入っている。
「彼から得た情報はこの書状に記しました。今からここで直接話させる事もできますが、いかがいたしましょうか」
口伝えでは人から人へ伝わるうちに内容が変化してゆく。だからグロウは文字に残し、自分が得た情報は変わる事なく参照できるようにしたのだ。
これを公爵に渡し、その後、誰に伝えてどうするかは任せるつもりだった。
そんな応接間に入ってくる者があった。
長い髪に尖った耳の少女。薄く軽そうな鎧と細身の剣で武装してはいるが、表情は朗らかで剣呑な様子は全く無い。
陽だまりの小動物を思わせるそのエルフ族の少女が、声を弾ませて応接間を見渡した。
「お邪魔します。エレナが帰ってきたと聞いたんですが……」
そしてオニクスを目の当たりにする。
一瞬でその目に怒りが漲り、躊躇いなく剣を抜いた。
「ダークエルフ!!! おのれ、許すわけにはいかんぞ!!!」
先祖代々の敵、慈悲は無い。




