25 金策(あと因縁)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。
ユゼス:グロウが領主を勤めるスロウ村の神官。
オニクス:元魔王軍のダークエルフ。グロウに敗れて従者となる。
その日の夜。グロウは藁布団の中で一人考えていた。
セレス国へ向かい、エルシオ公爵と会う……そこまでは決めた。
だがエレナから聞いた所によると、公爵は自領を代行者に任せて自分は首都にいるそうだ。エレナもエルシオ領で暮らしていたのは幼い時だけで、その後は父に呼ばれ首都に住んでいたという。
セレス国に3家しかない公爵ともなれば、政治にも他の貴族にも深く関わる事になる。地元より都に住む方がなにかと都合が良いのだろう。
ただそうなると、セレス国のほぼ中央まで行く必要がある。
(……銭、どうしよ)
内心悩むグロウ。
冒険者時代の稼ぎは結婚指輪になってしまったので、実はあまり現金を持っていないのだ。
年貢の取り立てはまだ先の話。さて、どうしたものか……。
――教会――
「というわけで知恵か金を借りたいんだが」
グロウの相談を受け、神官ユゼスは三角頭巾を被った頭で頷いた。
「では急ぎ街へ戦利品を売りに行きましょう」
「?」
首を傾げるグロウ。
ユゼスは教会の裏の戸を開けた。そこには数台の大八車があり、武具や木材が山と乗せられ、雨避けの布を被せられている。
しかも乗せられている物がいくらで売れるのか、大まかな額も既に【鑑定】で見極めて羊皮紙に記録し、ユゼスの手元にあった。
「領主殿が蹴散らした魔物兵どもの武具、建造中の砦にあった資材で売れる物……それらを街の商人達へ叩き売れば、1回ぶんの旅費なら十分に出る筈です。その用意は領主殿の指示でやっておいたのですが、そのままになっておりますな」
「……あ、そうか」
自分の不覚に気づくグロウ。
敵を倒して得た戦利品を金に換えるなど冒険者時代には仕事の度にやっていた事なのに、戦いの後にいろいろあったせいで完全に忘れていた。
――森の中の川――
数珠繋ぎになった小舟が、町へ向かって川をくだる。各船には新魔王軍から得た戦利品が積まれ、先頭の船にグロウが乗っていた。共にエレナも。エレナの肩には飛竜のエリュトロスも。そしてエルフの従者も。
換金する物資は多いが人手は少ない。陸路を運んでいては何往復も必要になってしまう。よって船で運んでいるのだ。
もちろん、これだけの数の船を連ねていては、上流にある村へは戻れない筈だが――
「なるほど。帰りはまた奥方様のあの魔法で川を遡るわけですね」
エルフの従者はグロウと共に棹で操船しながら感心していた。
以前エレナが見せた魔法による小舟の移動。あの推進力があれば、複数の小舟を牽引して村へ戻る事ができる筈である。
今回はエレナも同乗しているので、速度や方向変換に細かい調整を随時行う事ができる。
このエルフがなぜそれを知っているのか。それは彼が変装したオニクスだからである。
変装させたのもエレナだ。
村を出る前、彼女はオニクスに魔法をかけた。すると黒い肌が白く染まり、普通のエルフと同じ外見になったのだ。
「なるほど。幻覚系魔法の一種か。あまり気分の良い物ではないが……」
自分も簡単な物を習得している事もあり、オニクスは物の色を一時的に変える呪文の存在を知っていた。
そんな彼が複雑な顔を見せたのは、エルフのふりをするのがダークエルフには不快だからである。
とはいえ人間の町へ行く用事があるのだ。この状況で突っぱねるほど、オニクスは我儘ではなかった。
「仕方ないか。しかし今かけても途中のどこかで持続時間がきれてしまうのでは?」
魔法の持続時間は、各呪文と術者の力量、それに注ぎ込んだ魔力によって変わってくる。オニクスが見た所、エレナは汗一つかいていないので、大した力を注いでいない筈だった。
エレナの返答は――
「まぁ一週間は続くわよ。けど村に戻ったら解除するから、それまで我慢してね」
「えっ!? そんなに?」
いくら力量が関わるとはいえ、そこまで長く持続させるのは並大抵の事ではない。オニクスの故郷で一番の魔術師でも到底無理だろう。
だがエレナはいたずらっぽく笑った。
「まぁ夫のおかげで私の魔力も上がりまして」
「その増加具合は妻のおかげで上がりましたがね」
側にいたグロウが肩を竦めた。
その側で飛竜のエリューが「ゲー」と鳴いていた。
そんな流れでエルフのふりをしているオニクス。
だが操船しながら、彼はグロウへ訴えた。
「しかしあくまで魔術での変装。グロウ様、もしセレス国の都に移住するなら俺は共に暮らせません。解雇してください」
別れたいと言われてグロウは面食らう。
しかしダークエルフは人類側から敵として魔物として扱われている種族なのだ。その事もグロウは重々承知している。
「うーむ……まぁ都ともなれば人は多い。長く住めばちょっとしたきっかけで変装を見破られる事もあるか」
「人もですが、あの都ファディスは昔からエルフ族との交流も多かったはず。奴らに見つかれば間違いなくその場で刃傷沙汰になります」
それを聞くと側のエレナが驚きを見せた。
「そこまで? 私達が思っているよりも、エルフとダークエルフの確執は根深いのね」
オニクスは面白くもなさそうに言う。
「二派に別れた原因を辿れば、神話の時代……神々の戦争に行き着くのですがね。大昔の事とはいえ、我らは寿命が長いもので。まぁ派閥争いなど人間でも場所を問わずやっている事。我々エルフ種とてやりますよ」
「なるほどなぁ」
グロウは己を追い出したかつてのパーティメンバーを思い出していた。
「そう言われると仕方ないわね」
エレナは妹を、その味方を全面的にしていた両親を思い出していた。
地球にも自分が産まれる前の事で他所を憎んでる奴らがいるからな。
同じ事を数百~千年生きる種族がやれば神話の時代の話にもなるだろう。




