23 兄の言い分(真意)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。
キャスタル男爵:グロウの父。
話はほぼまとまった。
キャスタル男爵はグロウへ厳しい顔で告げる。
「セレス国の騎士になるというなら、この国と戦になった時、私と戦場で闘う事になるかもしれん。その時は手加減せんぞ。全力で討ち取る」
故郷がどこであれ、移住するというなら移住先に同化せねばならない……それが道理。そして職業軍人なら生まれ故郷と戦う事になった場合も考え、覚悟を決める必要がある。
それを男爵は息子に念押ししているのだ。
それに対し、グロウはニヤリと笑った。
「お、そうかい。俺はオヤジの命だけは助けてやるぜ」
「大口を叩きおって……私が教えた剣で、できる物ならやってみろ」
茶化しているかのような物言いに顔を顰める男爵。
しかしふざけているように見えて、グロウは断言している……有事の際には肉親とでも戦うと。そしてその意は、男爵にも伝わっていた。
だが当事者同士が納得している所へ、口を挟む者がいた。
キャスタル男爵の長男・スパイクだ。
「僕は反対だ」
「またかよ、兄貴」
兄の横やりにグロウは困った顔を見せた。しかし口ぶりからはある程度予想しているようでもある。
そんな弟に、スパイクの口調はどこか叱るようでもあった。
「聖獣を召喚できるようになったから奥さんが実家に出戻らねばならない……それはわかる。だがグロウとてブライダ国が誇るべき『真の魔剣使い』なんだ。セレス国聖女の都合に一方的に合せる必要はないだろう。むしろ父さんの跡継ぎになるべきだと、今でも思っている」
その意見に今度はエレナが驚かされた。
(え? 不機嫌だった理由って、弟の方が跡継ぎに相応しいと思ってるからなの!?)
てっきり嫌いあっているのかと思っていたが、どうやらエレナの予想とは全く違ったようである。
エレナの見ている前で、グロウは兄へ溜息混じりに肩をすくめた。
「剣で跡継ぎ決める貴族家もこの国にはあるけどな。他所は他所。ウチは兄貴が継ぐと決まっただろ」
しかしスパイクはムッと眉を寄せたままだ。明らかに納得していない。
「グロウが父さんとケンカして飛び出したから、なし崩しにそうなっただけじゃないか。僕に遠慮は要らない。ブライダ国公認の書記認定試験に合格したから、一人で食べていく事もできるようになった」
「おいおい……それだけで兄貴の方が頭いいのは間違いないじゃねぇか。領主に向いてるのはどう考えても兄貴だって。魔剣なんぞこれから出せるかもしれないだろ。地元のため、良い領主になってくれ」
そう言ってグロウは父を見る。
キャスタル男爵は相変わらずの厳しい顔で「ふん」と鼻を鳴らした。
「真の魔剣使いでありながら家督を継ぐ気にならんような責任感の無い奴に、大事な家を継がせる事はできん」
しかし男爵がそう言っても、スパイクはなお食い下がる。
「けれど婚姻の継続をセレス国側が望まないかもしれない。貴重な聖女の夫が外国人というのは、地元貴族達にとって面白くないだろうし……その中にエルシオ公爵自身がいる可能性もある」
「そういやそうか。難しい問題だな……」
そこを指摘されるとグロウは悩んだ。
聖獣と崇めても一種の召喚モンスターであり、戦いになれば戦力として投入される……むしろそこをあてにして古来よりずっとありがたがられているとさえ言える。
自国にとっての貴重で強力な戦力の使い手――セレス国の聖女にはその一面があるのだ。
その配偶者が外国から来た者で良いのか。そこまで簡単に信用できるのか。これは綺麗事だけでは済まない話である。
エルシオ公爵がグロウとエレナの離婚を決めれば、セレス国内で反対する者は……できる者はいないだろう。
悩むグロウにスパイクは言い渡した。
「その時には仕方がないだろう。帰って来るんだ。いいな?」
そんな話をされたらエレナも我が身の事を考えざるをえない。
(聖女になったから価値を認めてやる、離婚して国に残れ……もしそんな話になったら、私はどうするべきなのかしらね。セレス国で生まれた者としてはその通りにしろって事になるでしょうけど)
思い悩みながら、肩にいる飛竜のエリュトロスを見た。
視線が合うと、小さなエリューは「ンゲー」と気の抜けた鳴き声をあげる。いつもの調子で全く変わらない。
(そもそも人の話が理解できるのかしら。伝説だと人間を超える知恵を持っている筈なんだけど)
そう考え、エレナは伝説の方を疑っていた。
――キャスタル男爵が帰った後――
夕食の支度をしながら、エレナはテーブルに着いて考え事をしているグロウへ声をかけた。
「家族仲はいいのね」
テーブルに寝そべるエリュトロスをぼんやりと眺めていたグロウは、思いにふけるのを中断されてハッとする。
だがすぐに気を取り直し、エレナへ笑いかけた。
「へえ……そう見えたか?」
「そうとしか見えないわ。親が一方的に結婚を決めたみたいだから、もっと険悪なのかと思ってた」
そう言いながら鍋をかき混ぜるエレナ。
グロウは腕組みして昔を思い出していた。
「正直、親父とはちょっとな。せっかく自分が騎士から成り上がって貴族に婿入りできたのに、子供の俺が地位を捨てるような進路を選んだんで、家を出る時は親父と少々揉めたのさ。結婚を俺に相談なく決めやがったのもそういう経緯があっての事だ」
その時の事を思い出し、グロウはちょっと苦い顔を見せる。
だがいつになく穏やかな表情になって言葉を続けた。
「ついでに兄貴とも初めて口論したっけ。読み書き算術に魔法、全部兄貴から教えてもらったが……デキの悪い俺に一度も怒った事のない、いつも物静かな兄貴に、あの時は叱られたよ」
そう言ってそこで溜息一つ。
しかしすぐに、また穏やかに微笑む。
「でもまぁ、兄貴は俺に爵位を継がせたがったが、きっと領民だって兄貴の方がありがたいさ。それは自信もって言えるぜ」
それを聞きつつ、鍋を煮つつ、エレナはちらちらと背後のグロウを窺っていた。
互いにパートナーとしてなんとか上手くやっていこうとしている相手だが、自分の実家を思い出すと、妙に違いを感じて寂しくなってしまう。
(なーんか……羨ましいなぁ)
男女で実家の境遇をコピペするのも芸が無いかと思い、男側は「いい奴らなんだがすれ違ってる」という形にしておいた。




