18 調査(部下を使うのがイマイチ上手くない)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。
オニクス:元魔王軍のダークエルフ。グロウに敗れて従者となる。
グロウが手紙を送って数日後。
鼻歌まじりで昼食の支度をするエレナと、側を飛び回りながら手伝う飛竜のエリュトロスをテーブルで眺める傍ら、グロウは早馬で届けられた手紙を読んでいた。
「ありがたい話だ。さすが元戦場の武人、この手の話は最優先で片付けるか」
呟くグロウ。
手紙は新魔王軍の胎動を伝えた便への、父親からの返送だった。すぐにこの村へ向かう、という内容の。
今頃は馬車に乗って道中にある筈だ。
父と前にあったのはグロウがこの村へ送られる直前の実家で、何ヵ月も前の話ではない。
だがなぜか、グロウはずいぶんと久しぶりに会うような気持ちになっていた。
――翌日――
今日中に父が到着するだろうと思い、グロウはクローゼットから正装を出そうとする。しかしエレナが飛竜のエリュトロスを連れて呼びに来た。
「グロウ、村の人が助けてほしいって」
「おっと、そっちが先か」
グロウは簡素な普段着に着替え、居間のテーブルへ向かう。
恐縮して座っているのは老いた漁師だ。彼はグロウが席に着くと慌てて話し出した。
「聞いてください、領主様。湖へいつも通り漁へ出かけたんですが、籠を背負ったでっかいワニがいたんです! その籠には人間もいて、ゴブリンやオークに何か命令しておりました。どう見てもまともな奴らじゃないんで、なんとかして欲しい次第で」
彼の言う湖は、村のすぐ脇を流れる川の上流にある。村で食べる魚は主にそこで獲った物であり、村の水産資源は大半がその湖に頼っていた。
その話を聞き、腕組みして考えるグロウ。
邪悪な人間が魔物を従えたり、手を組む事はある。そんな連中が村人の生活圏に来たというなら放置しておくわけにはいかない。召喚魔法という物もあるので魔物を連れているからといって悪党とは限らないが、それならそうだと確認しておく必要はあるのだ。
「わかった、行こう」
「どうか、どうかお願いします」
そう言うグロウを前にひたすら頭を下げてお願いしてくる老漁師。彼にしてみれば一つしかない職場を失うかどうかの瀬戸際なのだ。
――オニクスの家――
「というわけでお前も来てくれるか。もし昔の同僚だった場合は戦いたくないだろうが、敵の手の内を知る奴がいるといないとじゃあ、俺の勝率は変わってくるからな」
そう言うグロウを前に、オニクスは額を抑えた。
何やら戸惑っているのか呆れているのかしているようで、グロウは従者の様子を見て溜息一つ。
「やっぱり嫌か」
「俺はもうグロウ様の従者だから、同行しろというならするし、元同胞といえど命じられれば戦います。その覚悟はできていますよ。そうではなくてですね……」
オニクスはやっぱり呆れていた。
「グロウ様の強さで、誰への勝率がどう変わるんです? 私は軍一団を率いていても手も足も出ませんでした。話によると、今度の相手は10いるかどうかなんでしょう?」
だがグロウは腕組みして唸る。
「しかしな……10人ぐらいで新魔王軍の一団を超える相手かもしれない」
「そんな幹部クラスが自ら偵察任務なんてしませんよ。それに新魔王軍と決まったわけでもないし……油断しないのは良い事だが、それなら私が偵察してきましょう。というか普通はそう命じるのが先では?」
オニクスはやっぱり呆れていた。
グロウは武装してから家を出てきたので、既に全身に鎧を装備しているし、背嚢も背負って冒険者時代に使っていた道具類も入れている。オニクスを誘って2人パーティで湖に行く気だったのだ。
グロウは腕組みして唸る。
「なるほど、まずお前に見て来てもらうか。そういう考えもあるな。なにぶん、部下などいた事が無いから選択肢として浮かばなかった……というか俺が調査に行って金貰う側だったからな」
「冒険者をしていたならそうでしょう。けどもう領主ですよ。それに、今日父親がこの村に来て新魔王軍について相談すると、さっき言ってませんでした? だったらグロウ様はこの村にいるべきでしょう」
オニクスはやっぱり呆れていた。
だがグロウは腕組みして唸る。
「それなら情報源のお前には村へいてもらった方がいいと思うんだが」
「情報源だけ残して、相談する本人が不在なのはいいのか……まぁ湖までなら昼過ぎには戻れます。戻らなかったらその時には何かあったと思ってください」
この時点でオニクスの中では自分が見に行く事が決定していた。
グロウは腕組みし……少しの間、なにやら考える。やがてオニクスに訊いてきた。
「幻覚系の魔法は使えるか?」
「幻覚? まぁ多少は……」
戸惑うオニクス。
透明化する魔法で標的の側に忍び寄り、奇襲の機会を待つ……ダークエルフの暗殺者が好む戦法として有名である。
魔法が得意で器用で俊敏、そんな種族が自然といきついた戦法なのだが、これはオニクスの里も例外ではなかった。よって里の年長者にも幻覚系魔術の得意な者がおり、オニクスもいくつか呪文を教えてもらった。
とはいえオニクスは魔法戦士であり、正面から戦う職だ。幻覚魔法も知識・技術の1つとして学びはしたが、別に得意ではない。
そんな彼にグロウは言った。
「一つ考えた事がある。俺を呼ぶ時の合図を決めておこう」
幻術なんて本当に有ったら一番多用される使い道は「スケベエな映像を作る」だと思う。かなりマジで。
案外それが一番儲かる魔術の使い道になったりしてな。




