12 グロウ敗北(真に強きモノ)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
ユゼス:グロウが領主を勤めるスロウ村の神官。
捕虜を連れて村へ凱旋するグロウ。
馬上の領主を村人達が歓喜して出迎えた。
「領主様万歳!」「領主様無敵!」「領主様天下一いい!!」
その声を聞いてダークエルフの捕虜は驚き、グロウを見上げる。
「領主なのか……これ程の強者がなぜこんな田舎の村で? 強すぎて中央では疎まれたとかいう事情でもあるのか」
「事情は……ちょっと説明できんな……」
「まぁ極秘で当然か」
自分の急激なパワーアップについては理解しきれていない事もあるのだ。グロウが言葉を濁すと、ダークエルフは勘違いで納得した。
――領主邸――
エレナは家の前で待っていた。
しかしグロウの姿を見るや、憤慨している事を隠そうともせず、家に入って扉を荒々しく閉めてしまう。
グロウは馬から跳び下りた。
丁度ユゼスが見張り櫓から戻ってきたので、彼へ声をかける。
「すまん、捕虜への尋問を頼む。逆らったら俺を呼べ」
そう言うと急いで手綱を引き、馬を厩へ連れていった。
後に残されたユゼスへ、ダークエルフを横目に村人が訊く。
「こいつ、どうします? 村に牢屋なんてありませんけど」
「空き家があるから代わりに使うか」
そう言いつつ、ユゼスは捕虜よりも領主邸を気にしていた。
――領主邸の居間――
馬を休ませ、鎧を脱いで、グロウは居間へ入った。
エレナは一人、テーブルについて椅子に座っている。グロウの方を見もせず、そっぽを向いて。
「ただいま」
「おかえり」
グロウが声をかけると一応は返事をするが、それ以降エレナは黙ったきりだ。
間が持たずグロウから話しかける。
「あの飛竜がえらく強化してくれていたんだな。まさかの快勝だったぜ」
エレナは黙ったきりだ。
グロウはわざと陽気に振る舞った。
「この通り無傷だ。まぁ多少のケガしても今の俺ならビクともしねぇし回復魔法でイッパツよな」
エレナは黙ったきりだ。
グロウは一転して静かに訊いた。
「怒ってるか?」
そっぽを向いたまま頷くエレナ。
「強くなってた事、わかって行ったわけじゃないでしょ。私はやめてって言ったのに」
「仕方ねぇんだ」
しかしそこでエレナは声を荒げた。
「理屈ではわかるけど! 快勝だったのも無傷だったのもたまたまそうだっただけで……私を残して自分の勝手にしようとしたじゃない!」
「理屈がわかってるならなんとか納得してくれんかねぇ」
そう言いながらグロウはエレナの肩に手をかけ、顔を覗きこんだ。
エレナが泣いている事に、そこでやっと気づいた。
グロウへ怒った視線を向けながら、エレナは大粒の涙を零している。本人にもどうにも止められないままで。
「わかるけど、わかってはいるけど……」
怒ってはいたが……エレナは手を伸ばし、グロウの服を掴んだ。
なんだかんだで怒っているだけではない事が伝わって、グロウは降参するしかなかった。
「……わかった。俺の負けだ。すまん、謝る、だから泣かんでくれ。な?」
そう言いながら妻の頭を抱えて抱きしめる。
妻は黙って夫に抱き着いた。
(まぁ考えてみりゃ、理屈であんたが死ぬべきだから早よ死んで来い……なんて言う嫁さんと上手くやっていく自信はねぇな)
できるだけ優しく妻の頭を撫でながら、彼女へ囁く。
「ありがとよ。エレナが呼んでくれた聖獣のおかげだ。ならエレナが守ってくれたようなもんだし、やはり最強はおかみさんて事なのかな」
そこでバッとエレナが顔を上げた。
「そうだ! あの飛竜、結局なんなの!? 聖獣なら聖女が呼んだら来るわよね? 妹はフェアリーパピヨンを好きなだけ呼んでたんだから!」
涙はどこへやら、今度こそ怒り心頭である。
面食らいながらも声を絞り出すグロウ。
「お、おう……細かい所は聖獣ごとに違うとか? ユゼスも言ってたが、なにせ最上位らしいからな。餌とか目印とか要るんじゃないか?」
――小一時間後――
(これは……俵おにぎり?)
テーブルに一皿、そこに盛られた数個の料理。それを見たグロウは地球での知識からそう思った。
米をずんぐりした筒状にした団子。中に野菜と肉を刻んだ具を少しだが入れてあるのでこういう形状になる。形を整えるために、ご丁寧に海苔も巻いてあった――山の国であるセレスでは、海産物を使う事で特別感が出るとの事らしい。
「セレス国での新年祝いは天空神の祝祭でもあるわけだけど、定番料理は神族に関連する物という事になっているわ。飛竜が好むのはこの米団子なの……伝承ではね」
餌が要るかもしれないというグロウの意見を駄目元で試す事にしたエレナは、米団子の皿を前に、掌を握り合せて祈る……エプロン姿で。
「108の聖獣、三つの巨いなる頭の1つ、猛き飛竜エリュトロス。これを捧げます」
するとどうだ、エレナの背にある魔法陣が輝きだしたではないか。
「本当に餌で!?」
グロウが驚くとともに外で騒ぎ声が聞こえ、大きな振動で家が揺れた。
扉が乱暴に開けられ、銀と金の体をもつ巨大な鼻づらが強引に突っ込まれる。扉の枠も壁もミシミシと悲鳴をあげてたわんだ。
「うわー、ちょっと、待って、タンマ! 壊れる、やめて! やめてってば馬鹿バカばか!」
大慌てでエレナが竜の鼻先を押し、平手でべちべちと焦りながら必死に叩く。
飛竜は動きを止め……金属のような体がグニャグニャと歪み、見る間に縮んだ。肩に乗るようなサイズになると、すいっとエレナの横を抜けてテーブルに着地する。
そして一心不乱に米団子を頬張り、次々と呑み込んでいった。
「……ごゆっくり」
呆然としつつグロウが声をかけるも、すぐに一皿たいらげ、飛竜は腹を下にしてテーブル上で寝そべる。
その姿勢で落ち着き、動かなくなった。
それを眺め、グロウは複雑な思いにかられる。
(とんでもねぇ客人が来たもんだ。冒険者をやめて十日もしないうちに色々あり過ぎだろ……元パーティの連中が聞いても信じないだろうなぁ)
自分を追い出した【ユグドラシル】のメンバーが酷い苦労をしているなどと、この時のグロウに想像できるわけもなかった。
最高位の聖獣ともなれば、人間の意思一つでほいほい動いたりはしないのだ。
だが捧げ物を出すぐらいの誠意があればそれを汲み取るぐらいには気を回せるのだ。
なお魔物軍相手に出てこなかったのは、敵が弱すぎて出るまでもないと思っていたから。




