9 公式外交直前、モランの罠
アステリオン使節団の到着が刻々と迫る中、王宮の奥深くカーテンを閉め切った暗い部屋。
前回財布を取りあげられた、現王オーギュストはシーツにくるまり「外には出たくない……もう誰と会うのも怖い……」と完全に隠居モードのただの爺さん化して、泣き落としの体制に入っていた。
昔、ゼノス亡きあと、ロドニアを恐怖で支配していた頃の、あの恐るべき王の威厳はどこへやら。今はみる影もない引きこもり老人だ。
「陛下っ!!いつまでもこんなことをされていては困ります!さっさと王としての威厳を持って、アステリオン使節団を迎える準備をして下さいっ!!」
ユージンは流石にブチ切れ、書類を叩きつけながら正論のコスト計算で怒鳴りつけているが、オーギュストの耳には一ミリも届かない。
「もういい……。もう面倒なことは、したくない。……お前がやれ。……ユージン」
「ふざけるなっ!!!」
ユージンは声を大にして、事務官のマニュアルを完全に無視した。
「これ以上サボるなら、あんたをこの書類ごと叩き切るぞっ!!」
例の殺意100%の脅しをかけるも、精神的隠居を決めたオーギュストには全く効果がない。
「フン、……叩き切れるものなら切ってみよ、お前がやれ……お前が王だ。わしの時代は終わった……」
かつてユージンがオーギュストに告げた言葉が、そのままそっくりブーメランになって返ってくる有様。
そこへ、音を立てずに静かにモランが入り込み、これ幸いとばかりにユージンの肩をポンポンと叩き、笑顔で声をかけた。
「……ユージン様。もはや陛下は当てにしないで頂きたい。使い物にはなりません。さあ、アステリオン使節団をの到着まで時間がありません!……仕方がありません。貴方が『レンタル王』として玉座に座るしか道は残っておりません」
「嫌に決まってるだろォォォォォッッ!!……却下だっ!! 契約書にはそんな条件含まれてはいなかったはずだっ!!」
ユージンは必死に「俺はタダの事務員(派遣労働者)であって、王のコスプレをして、他国の全権大使の前に出る契約など結んではいないっ!」と大正論を叫ぶが、モランもただ笑うだけで、彼の言葉を真に受けてはいなかった。巧みにユージンを追い詰めていく。『責任』という言葉で彼を追い詰めていく。
「今や実務全権握られている貴方だからこそ、陛下が安心して隠居されたのですぞ。そもそも原因を作ったのは貴方ですね?そうですね?」
「……レティシアは?……本来はあいつを玉座に座らせたらいいだけだろがッ!俺は知らんっ!」
「無駄でございます。例の一件から彼女には、公式の場では一言も話さずに、ただユージン様の隣にいるというお約束を忠実に守っておられますから。可愛いではありませぬか」
「な……」
エドワードを地下牢に放り込んだ時に、レティシアはユージンの恥ずかしいプライベートを本人にベラベラと話したのだった。後日モランとオーギュストに三時間もの説教を聞かされ約束したのだ。口は災いの元であることを。傍らでそれはユージンも聞いていた。
この「泣き落としのジジィ(オーギュスト)」と「悪乗りのジジィ(モラン)」の完璧なコンボによって、ユージンはまたもや無理やり玉座の大理石に座らされようとしていたのだった。
どうしてこうなった?(笑)




