10 世紀の公式謁見式
「ようこそおいでくださいました、アステリオン公国の誉れ高き使節団の皆様!私はロドニア王国事務長官代理のモランにございます。……本来であれば我が国の至高なる光、オーギュスト陛下が直々にお迎えするべき正路なれど、あいにく陛下は『国政のさらなる深淵なる思惑』(ただの引き籠り)に入られておいでですので……」
モランは、大げさに手を開き、漆黒の玉座を指し示した。
「よって今宵は、陛下より全権を委託されし我が国の『王代理』__ユージン閣下が、皆様との公式外交の全権を執り行いまする。さあ、レティシア王女殿下、誓いの先導を」
レティシアは言いつけ通りに極めて淑やかに頷いた。
約束通りにこれ以上彼に嫌われないように固く決意しているレティシア。口角を上げ、唇をピッタリとガムテープで止めたような静かな微笑みが、漆黒のユージンの隣で並ぶことによって、逆に彼の「底知れない冷徹な処刑人」の威圧感を周囲に与えている。はたから見れば、それはそれは立派な淑女である。
一方玉座に鎮座するユージンは、かつてガルディア使節団を追い返した時の豪華な衣装、あの黒いガウンを羽織り、胸元にはシルバーのアクセサリーをつけ、あろうことか頬杖を突きながら、ため息交じりにモランの宣言を聞いていた。モランとの口喧嘩に敗れ悲壮な顔つきで、まるで全力で戦い疲れ切った兵士のようだ。
表立っては大っぴらに私語を口にすることのできない空間の中で、二人は頭の中で必死に目で伝えようとしていた。
玉座にはユージン、傍らにはレティシア王女。ユージンの傍にはモランが立っている。
両サイドには、ロドニアの王宮兵士たちが並ぶ。
一方のアステリオン使節団。中央にはエドワード王子。傍らにはガストンと辺境部隊長数名。
後ろにはバザル筆頭のハイエナ再編部隊が控えていた。
ユージン:……おい、おい、アステリオン使節団。エドワード、バザル、俺の目を見ろ。どうして俺がこんなところに黙って座らされているかをどうか察してくれ。あの引き籠りおっさんとモランのジジィのせいで、こんなやっかいなものを着せられて、ここに居るんだ。
エドワード、空気を読め!俺はレンタルだっ!今はただの代理でこのコスプレをしてここに座らされているだけなんだ!助けてくれ!
頼むからお前らが外交権を行使して、俺の身柄を今すぐアステリオンへ返還するようにロドニア側へ強力に働きかけてくれっ!!
エドワード:……ユージン、君はロドニア出向だといきなり姿を消したのだが、そうか、この日のこの為だったのだな。その不機嫌な態度……なんという禍々しくも圧倒的な威厳だ……。周りの護衛兵も最少人数で、ただ直立不動に立たせているだけ……恐ろしい魔王だな、ユージン。……君のその睨みつけるような怖い顔で、僕は全てを理解したよ。君はアステリオンの安全保障の為に自らこの『恐怖の象徴』になり、ロドニアの『真なる魔王』になる道を選んだんだね。そうだね……いよいよ僕も覚悟を決めなきゃならない時が来たのかもしれない……。
「__ロドニア王国、王代理ユージン閣下。アステリオン全権大使エドワード、此処に拝謁いたします」
エドワードの言葉の隣で、直立不動の姿勢を取る護衛バザル。
かつてあのゼノスが目をかけ、その強さと忠義を認められた過去の精鋭若武者。
彼は「ユージン」の過去は知らない。しかしアステリオン伝説、あのアルベール隊長が、このゼノスの忘れ形見を、この青年を我が子としてどれほど大切に慈しんで育て上げたか……その事実だけは彼の魂に刻み込んでいた。その若君が再び王になって……ロドニアに帰ってきたのだ……。若きゼノスのお姿で。
「ユージン閣下。我がアステリオン国より、今後の両国の善隣友好、並びに閣下の今後の待遇に関する親書を携えてまいりました。これより、その文面を__」
エドワードが親書の封を切ろうとしたその瞬間!
横からスルスルと滑り込んできたモランが「ああ、恐悦至極にございまする」と大音声で叫びながら、エドワードの手からスッと取り上げ、自分の手へと回収した。
「いやはや!アステリオン国からの温かき『友好の親書』確かにこのモランが仲介として、責任をもって、お預かりいたしましたぞ!後ほど閣下の執務机へ直接計上させて頂きます(改ざんして)」
「えっ?あ、いや、今から僕が読み上げ……」
エドワードの言葉を、モランは敢えて遮った。悪意のある笑みを浮かべる。
「いえ、これは閣下のご意向でして……無駄なセレモニーを省いて徹底した効率化を図っておりますゆえ__」
……すぐに、ユージンは察した。
(モラァァァン!このクソジジイ、お前今、エドワードから俺のアステリオンへの返却要求を奪ったな?)
謁見の間の両国の兵士たちや力のある貴族たちの見守る中で、式半ばにして玉座から立ち上がり、再びあからさまにこの大勢の面前で、大喧嘩をすることは、到底出来るわけがない。これは体裁だけ保つための中身のない儀礼式なのだから。形はきちんと成さないといけないのだ。
形だけの『式』は速やかに行われていった。
そして……こうやってユージンの退路を裏から少しづつ消していく、モランなのであった。
形だけの「式」がつつがなく行われていきます(爆笑)




