7 ユージン VS レティシア
「……却下です」
ユージンは、レティシアが自信満々に提出した『アステリオン・ロドニア合同大夜会計画書』に容赦なく「不採用」を叩きつけた。
「なっ、何よそれ!」
レティシアが机を叩いて、身を乗り出す。
「これはタダの遊びじゃないのよ!ロドニアとアステリオンの若き貴族たちを交流させ、貴方が次の王に相応しい器だと国際舞台に知らしめるための、完璧な政略結……コホン、政治的舞台よっ!」
「理由は三つあります、レティシア様」
ユージンは死んだ魚のような目で、羊皮紙に鉄筆で数字を書きなぐり始めた。
「第一に、不経済です。この計画書にある最高級ワインと特注ドレスの調達費、さらに隣国からの楽団の招待費用……これだけでも我が国の今期の予備費の15%が消えます。第二に、生産性の皆無。貴族共が生産性のないステップを踏んで酒を飲むこと……翌日二日酔いで使い物にならなくなるだけでしょう?国家に対するリターンがあまりにも低すぎませんか。第三に……『俺はレンタル事務官』であることをお忘れなく。任期が来たらとっととアステリオンに帰りますので、どこかへ去るどうでもいい男の名前など売らなくでもいいでしょう。予算と時間の無駄の極みです!」
「な、なによそれ……!私は貴方の為に、わざわざ寝る間を惜しんでこの計画を__」
「そんな時間があるのでしたら、まずお休みください。貴方の睡眠不足は、翌日の書類確認の判断力を鈍らせ、俺の残業を増やす原因にもなっているのですよ。……貴方のお肌にも精神面にも悪いです。では反論の時間も終了です。お引き取りを、以上です」
「くっ……!だったら、アステリオンの使節団はどうするのよ?かれらを歓迎する『お祭り』は絶対に不可欠なのよ!!」
勝ったー、とレティシアの目が輝く。国際外交の建前ばかりは、いかに冷酷な事務官といえど無視できないはずだと。しかし、ユージンはフッと冷たい笑みを浮かべた。
「ええ。ですから、歓迎の為の『祭り』は行います。__ただし。場所は王宮ではなく、城下町(下町)です」
「……は?下町ですって⁈」
「王宮で貴族だけを集めて金を浪費しても、金は身内で循環するだけです。だがこれを『下町の収穫祭』と合同させて、アステリオンの使節団をそこへ放り込んだらどうなるでしょうか?使節団は下町の宿に泊まり、下町の酒場を使い、下町の職人たちが作った土産物を買うのです。彼らが落としてくれる外貨はそのまま下町の領民たちの利益となり、巡り巡って我が国の『消費税収』として国庫に跳ね返ってきます。これこそが正しい『国際歓迎イベント』の予算の正しい使い方です」
「な……っ、貴族の面子はどうするのよ⁉」
「面子では、お腹一杯になりません。文句がある貴族には、下町の屋台でアステリオンの使節団に自らを売り込む……営業をさせます。働かざる者食うべからずだ、モラン!!」
「はい、主様」
影からモランが現れ、新たに書き換えられた『下町合同、使節団歓迎祭・実施計画書』をレティシアの前に提示する。
「おやおや、レティシア様。主様の計算によれば、これで王宮の支出は通常の10分の1に抑えられ、かつ下町の経済効果は過去最高を記録する見込みです。王女殿下としても『民を愛する慈悲深き王室』をアピールできて一石二鳥ですね」
モランは口角を上げる。
「う、嘘でしょ……私のロマンチックなこの舞踏会プランが、ただの平民の『地域経済活性化計画』に……」
レティシアはぐうの音も出ず、真っ白に燃え尽きたように書類を抱えて後退りした。
「分かったら、さっさとその計画書を下町の商業ギルドに回して下さい。俺はこれから、下町から届く『露店の出店申請書』の精査に入ります。とっとと、こんな仕事の時間を早く終えたいのです」
「あ、あんたって男は、本当に……!容赦ない人ね」
レティシアは悔しさに顔を真っ赤にしながらも、自分を完璧に論破し、同時に国にとっても民にとっても「完璧すぎる正論」を叩き出したユージンの横顔に、ますます胸の鼓動を高鳴らせながら、執務室を飛び出していくのだった。
貴族の贅沢を叩き潰し、下町の経済を回すことで、結果としてクラリスたちのいる「下町」を守り、盛り上げることになったユージン。
一方のユージンにとっては、政などどうでもよく、早くレンタル期間が終わってとっとと去りたいという、ただ一つの願いだけを胸に、必死に仕事をしているだけなのであった。
二人の間に幸せは訪れるのか……?(笑)




