4 重鎮たちの反乱と魔王の「仕分け」1
ユージンの執務室の机上には、帝国を支えるはずの「重鎮」と呼ばれる年老いた文官や貴族たちが提出した、山のような書類が積みあがっていた。それは、普通二十歳そこそこの若造に出来る仕事内容と量ではない。
モランが嬉しそうに、悪意のある笑みを浮かべている。ユージンの背後に、時折見え隠れする偉大な元主人が彼だけには見えているのかもしれない。
「……今年のロドニア直轄地での収益は良いみたいだな。麦の生育状態と量は問題ないとの報告は受けている。関税は……そうだな、ガルディア側から頂くように持っていこうか。……さて、文官たちが提出した書類だが……面白いほど穴だらけだな」
「…………そうです。流石はオーギュスト陛下が重用した優秀な武官たちですな。素晴らしい。開いた口が塞がりませんな……ほっほっほっ」
モランが嫌味たっぷりに、蔑んだように笑う。ユージンはため息を一つ吐いた。
「……まずは……此処から始めるとするか……」
ユージンは謁見室に重鎮たちを呼び出した。傍らには、モランが控えている。
ロドニア王宮の謁見室は、傲慢な笑い声と衣擦れの音に満ちていた。玉座の一段下、山積みにされた羊皮紙の前で、冷徹な目で待ち構えるユージンを見下ろし、オーギュストお抱えの筆頭文官たちが肥大した腹を揺らす。
「……ほほう、アステリオンから誘拐同然で連れてこられた、二十代そこそこの、どこぞの野良騎士かと思えば、随分と熱心に帳簿を眺めておられるな。だが小倅、我がロドニアの財政は伝統と格式ある我ら宮廷文官が仕切る聖域であるぞ。今年の麦の出来が戻りつつあるとはいえ、直轄地での収益は既に我らの手で『正当に』仕分けされておるのだ。素人は黙ってレティシア様の愛玩犬を演じておればよいのだ」
集まった文官たちも、あの大評議会場をぶち壊した正体を知らない『オーギュスト派』の者たちばかりだ。集まった周囲の貴族たちからもクスクスと小馬鹿にしたような笑いが漏れる。彼らの目には、ユージンは「運よくレティシア王女殿下に気に入られただけの無知な若造」にしか映っていない。
だが、彼らは致命的な計算違いを起こしていた。目の前にいる若者に宿っているのは、かつて数多の修羅場を駆け抜け、圧倒的な武力と冷徹なロジックで大陸の半分を畏怖させた旧大国ロドニアの主あの「軍神ゼノス」の魂と共有しているのだ。
ユージンは眉一つ動かさず、ただ冷たい目でで頭の計算機を弾いていた。
「ふーん……成程。伝統……ね」
低く、地を這うような声が謁見室に響いた瞬間、笑い声がピタリとやんだ。ユージンは手元の羊皮紙からゆっくりと目を話し、文官たちを正面から見据える。その瞳の奥に宿る、底知れぬ「戦場(修羅場)」の気配に、文官たちは一瞬だけ背筋が凍るような錯覚を覚えた。
「今年の麦の収益が増加したのは、直轄地のインフラを俺が再編した(やらされた)からだ。……だがな、その利益四割ほどがサンオーレとの通商協議の帳簿に反映されてはおらんのはどういうことだ?……おい、そこの髭面野郎か。お前かっ、管理しているギルドの輸送ルート、サンオーレの闇ギルドと癒着して中間マージンを中抜きしているよな?帳簿の筆跡が、俺が下町で押収した裏帳簿と金額が狂いもなく一致しているぞ……三割程……か……」
「なっ、何だと……⁉な、何を根拠に―――」
「おっと……それよりも、こちらの方が重大だな。オーギュスト派の諸侯ども(おまえら)が、宮廷での華美な生活費を維持する為に、隣国ガルディアの高利貸しから天文学的な額の借入をしているのは把握済みだ。見栄の為に国を売るバカは後を絶たんが……お前たちは一線を越えているぞ。この『国境鉱山の採掘特権』の契約書、担保として勝手にガルディアに差し入れているだろう?他国への国家権利の流出―――これはもう法務的にも財務的にも、明確は【国家反逆罪】だ」
ユージンの口からポンポン飛び出す隠蔽されたていたはずの暗部。教会への不透明な寄進を利用した脱税、都市税の二重帳簿、癒着したギルドの腐敗。二十代そこそこの若造が知るはずのない「ロドニアの金の流れ」が、まるで戦場の敵陣を上空から見下ろす盤面のように完全に看過されていた。モランは静かに傍らで笑っている。
「ひっ、ひいいいっ……!これは、妄言だ!このような無礼、到底許されるものでは―――!」
「許されないのはお前たちの存在価値だっ!!」
ユージンが静かに立ち上がる。長身の体躯が余計に大きく見えた。見えない畏怖……。
その静寂がまるで嵐の前の静かさのように謁見室の空気を重くした。城内の兵士たちだけは、ユージンがもうただの護衛兵でないことは理解しているのだ。
「教会や都市の勢も今日を以て全て、俺がギルド事根底から再編(スクラップ及びビルド)する。お前たちの資産は全て没収し、ガルディアにふんだくられた鉱山特権の買戻し資金に充てる……ガルディアに貢いだ金はだな……」
とユージンは言いかけてふと気づく。ゼノスが内部から這いずりだす感覚……戦神の歓喜。
ゼノス:……ルシウスよ、安心しろ。これから我が、奴らの喉元に剣を突きつけて、賠償金ごと百倍にして毟り取ってやろうではないか。これからが……楽しみだな……。
戦場を支配したゼノスの冷徹な眼光とユージンの超一級の監査能力が完全に共鳴し、圧倒的な「数字の暴力」となって老害貴族たちを圧殺していく。文官たちはもはや声も出ず、その場にへたり込むしかなかったのだった。
もはやオーギュストの重鎮たちは名前すら呼んでもらえません。髭面のオッサンって一体誰?(笑)
ユージンより位は高いはず??あれ?




