3 ロドニア宮廷 昼食のテーブル
豪華な装飾が施された昼食の刻。テーブルを囲む三人の間には、もはや「平和な食卓」とは程遠い緊迫した(あるいは一方的に弾んだ)空気が流れている。
ユージンは皿の上のベーコンをフォークで突き刺しながら、隣で機嫌よく野菜入りのオムレツを口に運ぶレティシアを睨みつけた。
「……やはり、納得がいかん。レティシア、なぜ『ハンス』が俺だと分かったんだ?変装までして……やっとエドワードを『表』に据えたところだというのに……」
ユージンの頭の中では、今も自分の「失敗」のシュミレーションが止まらない。
「それで……このレンタルはいつ終わるんだ⁈一か月か?半年か?……俺のアステリオンでの本来の生活にいつ戻れるんだ?」
モランにもう一度『レンタルの終了条件』を確認しなければならないが、あの策士のことだ。のらりくらりと『重要なこと』は、全部伏せられているような気がする。
そんなユージンの刺すような視線も、レティシアにとっては心地よい、そよ風にしか感じられていないようである。彼女は、ユージンの皿からベーコンを一枚取ると、幸せそうに頬張った。
「ふふん、そんなの私の勘がたまたま当たっただけに決まってるじゃない!……書類を見て筆跡だけで読まなくてもすぐに分かったわよ。『嫌味なほど正確で、まるで説教されているような威圧感』は、貴方だけしかだせないのよ。……ご苦労様でした。お帰りなさい、私の騎士様」
「……何てことだ。お前の勘だけで、俺の自由が奪われたのかっ!!」
ユージンは絶句した。レティシアの執着はもはや、ユージンの想定範囲をはるかに超えていた。
「いいじゃない。アステリオンへの支援金はたっぷりと払うことになったのだから。文句を考える暇があったら、私との今日の散歩コースをしっかりと考えてちょうだい。毎回同じでは困りますからねっ!」
「……っ!」
二人のやり取りの正面で、オーギュストの威厳はすっかり薄れ、小さくなってスープを啜っている。彼はこの「事務の魔王」の再来を内心では喜んでいるものの、やはり誰よりも恐れていた。国を任すことは既にモランと相談済みである。そのことではない。
彼が最も恐れていることは、亡き妻の後に通っている愛人の為の経費がユージンにバレることであった。
(ひ、ひぃぃ……ユージンの目が、今日は一段と据わっているようだ。あんなに怒らせては、わしの秘密の『特別社交費』を見つけられて、『不正支出』に振り分けられてしまう)
ユージンの執務室でイライラしながら怒鳴り散らす声が聞こえるたびに、オーギュストが身体をビクッと震わせる。……本当にどちらが立場が上なのか、判別しかねるくらいだ。
「あ、あの……ユージン君。食事中ににあまり怖い顔をしないでくれたまえ。消化に悪いし、ほら、その……君の不在で何よりも遅れていたサンオーレとの外交問題も、君のお陰で議論が再開したことだし、もう少し余裕を持ってだな……」
「オーギュスト様。その『のんびり』の維持費に、ロドニアの予算が年間どれだけ浪費されているか、数字ですぐ出して差し上げましょうか?」
「分かった、分かった!……もうわしも、口出ししない。すべてお前に任せることにした。わしには関係ない」
仕事の山に絶望するユージン、隣を見て歓喜するレティシア、そして蛇に睨まれたカエルのようなオーギュスト。
モランは、冷めた紅茶を下げながら傍らで静かにニヤリと微笑むだけであった。
こういう場面が、お馴染みになればいいなぁ。




