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7 偽りの結婚式をぶち壊す

 

 私は……一体何回人生を繰り返してきたのだろうか。


 ちらりと目線でうかがったジンはこの世の終わりだとばかりにうなだれていた。

 クラリスは私のほほをつたう涙を見てまなじりを下げた。


「願いはあと二つありますね、なんにしましょうか。そうだ、ユリアさんと式をあげましょう、今すぐに。ジン、準備してくれますね?」


 クラリスの言葉にジンは声を詰まらせた。


「……っ!」


 ジンは全力で身体の動きを留めようとする、金のかせが光り、ぎこちない動きで彼の両手はゆっくりと合わさった。


 ぱっと視界が回り、気がついた時にはイシュラルド王城三階のバルコニーだ。


 私の服は先ほどの砂にまみれた冒険者の服ではなかった。薄い絹の生地が幾重いくえにも重ねられ、まるで花弁かべんのようなレースにおおわれたウェディングドレスだ。背中と胸元が大きく開いている。髪は結い上げられ、白いすみれの生花を魔石の飾りで留めてある。


 クラリスは胸元のポケットに白い菫をし、白いタキシードに身を包み、ポケットから白い手袋を取り出して右手にはめているところだった。


 私は愕然がくぜんとした。ジンはこの世の終わりだとばかりに両手で顔をおおい、こちらをちらりとも見ない。


「綺麗ですよ、ユリアさん。すごく」


 クラリスは口元に弧を描いた。私は金のナイフを思わず取り出す。


「来ないで」


 きゅっと自らの首元にあててバルコニーの方に後ずさる。


「あなたの命は私が渡した魔石が救ってくれるでしょうから安心してくださいね」


 クラリスは余裕の笑みを浮かべている。まさか私の行動まで読んでいたなんて。


 とんと私の後ろにバルコニーの柵が当たる。空はいまだ満点の星だ。


 夜風がほほぜる。私は振りかぶって髪に留めた魔石をバルコニーの外に思い切り投げた。


「私にはもう魔石の加護はない。ここで死ぬわ!」


「ユリアさん、まだ私には一つ願いが残っているのですよ?」


 クラリスは、みすみす死なせるわけがないでしょう、と唇のはしをもちあげる。


 私は目をつむり息を吸い込んだ。首元にあてたナイフの切っ先に血がにじむ。





「お姉さま死なないで!」


 バアンと室内の扉が大きく開いて、シェリアが飛び込んでくる。


 シェリアは私に抱きつきそのままバルコニーから飛び降りた。


 鮮やかな手口で二人して空中落下だ。

 

「な!」


 クラリスが思わず伸ばした手は宙を切る。

 

 ひらり、その一瞬の隙をついてカーテンの陰から飛び出したルークがランプを奪い取った。

 




「最後の願いだ。こいつとお前の立ち位置を入れ替えろ」

「仰せのままに」





 ジンの両手が合わされた。金色の煙がクラリスを包んでいく。

 クラリスの姿は紫の煙となってランプに吸い込まれていく。





「ユリア!」


 白いタキシード姿でジンはバルコニーから飛び降りた。


 バルコニー下では布をはった王太子ベンジャミンと宰相ナージル。


 その広い布地で私とシェリアを受け止めていた。


 ぼふんと追加で落ちていくジンを、バルコニー上ではルークがあきれたように見下ろしていた。


 ジンはぎゅうと私を抱きしめ、私も強く抱きしめ返したのだ。







「ユリア、俺はずっとお前と同じ時を歩みたかった!」


 ぎゅううと苦しくなるくらい抱きしめてくるジンの身体に締め上げられながら、私の頭は混乱していた。一体何がどうなっているのだろう。


 ジンと反対側ではシェリアが私にしがみついている。ええと……どうしてここにいるのかしら。


 足元の広い布から降りてその布地をまじまじと見る……これはカーテンだわ。王城のカーテンじゃないの。どうしてこうなった。


 タンとバルコニー上から行方不明になっていた義弟が飛び降りてくる。そのままさっきまで私たちのいた布の上に着地してぼわんと布をたわませる。


 ところでどうしてこの布をベンジャミン王子とナージル宰相が支えているのかしら。私の視線に気づいてベンジャミン王子は気まずそうに目を伏せた。


 「話せば長くなるのですが、簡潔にまとめると偶然ですね」


 ルークはさらっと何でもないように言った。宰相ナージルの顔には冷汗がにじんでいた。


 どうやらベンジャミン王子とルーク、ナージル宰相は消えたララピア第二王子の手がかりを得るべく王城中を巡って三階の部屋に入ったところで私たちとかち合わせたらしい。


 とっさに身を隠し、話の流れから私が飛び降りそうだと判断したルークによって、ベンジャミン王子はあごで使われたようだった。王子をあごで使うなんて不敬が過ぎる。


 そしたら予期せぬバッティングでシェリアが飛び込んできたと。


「わたくしはルークが王城にいると聞きつけてやってきたんですわ。三階にいると聞いたのに駆けつけたらお姉さまが自刃しようとしているのですもの。わたくしがせっかく救った命を無駄にするなんて許せませんわ!」


 言ってることは半分くらいよくわからないが、私のことを止めようとしていたらしい。バルコニーから飛び降りてどうするというのだろうか。


「わたくしもお姉さまも風魔術は得意ですから浮遊くらいなんとかなりますわ」


 そうだった。冷静さを欠いていたからすっかり忘れていたわ。



「ところでこのランプはどうします?」


 ルークの手には紫色の金属のランプがあった。


 そうだった、どうしたらいいのだろう、ララピア王子はもう……。


 私の告白にベンジャミン王子は沈黙した。


「いや、すまない。本来なら私がすべきことだったのだろう。ランプの力を使うかどうかはもう少し考えさせてくれ……」


 ルークはちらりと腕時計を見てベンジャミン王子の言葉をさえぎった。


「こんな夜更けにいつまでも騒いでいられませんね。ユリア様、城内の寝室をお使いください」


 すっと伸ばしたルークの腕をジンがとる。


「ああ、案内しろ」

「は? なれなれしいですね。ランプの魔神風情が」


 相性の悪い二人の後をついて寝室に向かいながら私はこれまでのことを思い出していた。今日だけで何回死にそうな目にったか数えるのもおそろしい。なんだか濃すぎる一日だった。


「おやすみなさいませ」


 バタンと扉が閉じられ、寝室にはジンと私の二人きりだ。


 私はウェディングドレス姿でジンは白いタキシード姿。


 あれ? 私たち結婚初夜みたいな恰好かっこうしているけれど、そんな関係じゃないですよね。


 ……ん? あれ、そういう関係だったっけ……。


「ユリア……」


 相変わらず後ろからぎゅうと抱きしめてくる。もう冗談にもならないからやめて。


「会いたかった……」


 耳元でささやかれる熱い言葉に思わず涙がこみ上げる。



「私も、会いたかったよ」




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