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5 ランプの真実※

キイン


 夜の砂漠で満月を背景に二つの影が切り結ぶ。時折ときおり月の光を反射する刃は青白い光を発した。ナイフの軌跡きせきが流れ星のように目の前を交差する。


 速い、二人とも速い!うっかり見入ってしまってはっとする。援護えんごしなくては!

 もうここまできてしまったら後戻りなどできないのだ。


「落雷」


 私の雷魔術はララピア王子の首筋を狙った。願わくばいい具合に失神してほしいものである。ララピア王子は顔だけこちらに向けてにやにやした。


 すいと身体をひねらせてクラリスさんを盾にする。私は息をんだ。


 バチッ、大型獣でも気絶するほどの出力の雷がクラリスさんの身体を走った。


 やってしまった。私の蒼白そうはくな顔つきをみてララピア王子はにやにやする。


 そうだ、こういう人だったわ。クラリスさんが砂の上に倒れ、ララピア王子がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。


「うーん、君を争って決闘してしまうくらい、僕は君を好きみたいだ」


 自分に言い聞かせるかのようにララピア王子は言葉をつむいだ。


 勝手に決めつけないでいただきたい。おそらくきっとそれは恋ではないでしょう。私は息を吸い込んだ。あきらめたら、駄目だ。


 決して使うことのないだろうと思っていた短剣を太もものベルトから抜き取る。

 キラリと夜の月を反射して光るその刀身は金の色をしていた。


「まるで爪をたてる子猫ちゃんだ」


 ララピア王子はレイピアをくるりとまわして余裕の表情だ。私がナイフなんか扱えないと思ってる。私だって自信なんかない、でもここであきらめてやる気なんかさらさらないのだ。あがいてみせる。


 私のりだした一撃は、ララピア王子のレイピアの側面で簡単に受け止められた。つばり合いのなかララピア王子は顔を近づける。


「そんなに必死になっちゃって可愛いね」


 揶揄からかうような瞳に口元には酷薄こくはくな笑みを浮かべている。月明かりに照らされてその顔が陰影いんえいを濃くした。





砕破さいは


 私の感情のない声が砂霰すなあられを巻き起こした。


 手加減なんてできるのは上級者だけだ。SSSランク聖遺物がその真価を発揮する。


 砂塵さじんの結晶がまるでひょうのように鋭利な刃となり砂煙に巻き込まれながら刀身にまとわりつき、暴風と共にレイピアごとララピア王子の身体を吹き飛ばした。


 無数の追加斬撃が彼の身体を切り刻む。できれば使いたくなかったのに。


 動かない彼の身体に、私の足の震えは止まらなかった。


 パチパチパチと小さく拍手が聞こえて顔を向けると、クラリスさんがゆっくりとこちらに歩いてきていた。あれだけの雷撃をうけて無事だったのかと肩の力が抜ける。


「まさか、自力で倒してしまうなんて、予想外でした。頑張りましたね、ユリアさん」


 私たちの目の前で第二王子の姿が黒い煙になって消えた。


「見たところ、彼はもはや人間ではなかったようですね。気に病むことはありませんよ」


 クラリスさんの言葉に私の胸は痛んだ。


「そうだ、ランプがありましたね。これにダメもとで願ってみます?」


 クラリスさんが懐から取り出したのは二十センチほどの口の細いランプだった。


 金でできた全身と表面に幾何学きかがく模様の浅い彫りが入っているのはナイフとおそろいだ。私の心臓が苦しくなる。ジンはこの中に閉じ込められているのだろうか。


クラリスさんの白魚しらうおのような指が滑るようにランプの表面をぜる。ランプの細い注ぎ口から金色の煙がたゆたいながら立ち上り私は胸を押さえたのだ。





 金色の煙は単色でジンをかたどっていた。


 ぴょこんとした肩先までの三つみに、すこしぼさっとした髪、彫りの深い顔立ちに、釣り目がちな瞳、高い鼻に薄い唇、すこし不機嫌そうな顔つき……記憶のままの姿だ。彼は気体の身体に金の首枷、腕枷をつけ、腕組みをした姿で上半身だけランプから姿を現していた。


 その表情は目を見開き、そして心底にがにがしいといった顔つきになる。


「ジン……」


 私は声がまった。ああ、もう一度会えるなんて。


 口元を両手でおおい、感極まる私の横で、クラリスさんの瞳はかげった。


 まるで闇堕ちした瞳にも勝るその昏さに私は身体を強張こわばらせる。

 




「ユリアさんは本当に可愛いですね。何度も餌をまいてすっかり餌付けされたから…………私のことを信頼したでしょう?」


 ゆっくりとつむがれるその言葉の意味を理解して私は足元が崩れるような気持ちになった。私はすっかりクラリスさんのことを味方だと思っていた。ただ一緒にランプを探していただけだというのに。


「お前……雷神か」


 ジンが心の底から吐き出すようなため息をついてみせる。「なんでユリアと」と小さくつぶやいた。


「お久しぶりですね、ジンザーク。会いたかったですよ」


 クラリスさんは引きあがるようないびつな笑みを浮かべてみせる。


 「いい眺めですね。本当に。ハルファスで仕込んだかいがありましたよ……不完全品の銀のランプを金のランプにかえてくれるなんてね」


 クラリスさんの言葉に愕然がくぜんとした。どうやら私たちは誘い込まれ、まんまと引っかかったわけだ。


「ユリアさん知っていました? このランプは中に入っている魔神の等級によってかなえられる願いの上限が変わるのですよ。ジンザークは最上位レベルの魔神だからほぼ制限なく、なんでも叶えてくれるでしょうね。ああ、そうだ、私のこと誰だかもう覚えてないでしょうから記憶を取り戻させてあげましょう。ジンよ、彼女のに関わる記憶を、すべて思い出させてあげなさい」


 クラリスの言葉にジンの表情が強張こわばった。


「やめろ……」


 ジンの身体の拘束具が光り、ジンは身体をねじる。彼の両腕が合わさろうとするのを全力で拒否しているようだった。


「やめてくれっ」


 ジンの絞り出すような声に私の心は締め付けられた。


 ジンの抵抗もむなしく彼の手のひらは合わされ、まばゆい金の光が夜の闇を照らし出した。


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