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4 王太子の真実


…………


「お前は次期王太子。自覚しなさい。お前だけの人生ではないのだからな」


 父上からの言葉はいつも厳しかった。


 弟は何でも許されて、私は厳しくしつけられた。


 王としての自覚を持てと幼少から刷り込まれた呪縛は私の心をむしばんだ。


 弱みを見せるな、堂々とあれ、民の手本となれ。


 次から次へと課せられる課題に私の心は悲鳴を上げる。


 弱音をはくな。


 厳しい叱責しっせきが飛ぶ。私は愚痴ぐちを吐くことすら許されない。







「はじめまして、ベンジャミン王子。ユリア・フォン・イシュラルドです」


 目の前にて美しいイシュラルド式のカーテシーを披露ひろうする少女はその蒼色の瞳を微笑ほほえませた。髪色はイシュラルド岩の加護を受けた綺麗な赤砂色だ。


「お前が私の婚約者か」

「ええ、よろしくおねがいいたします」


 この少女は未来の国母だ。私とともにこの国を支える義務がある。


「よろしくたのむ」


 剣術に槍術に武術に、私は鍛錬を重ねた。帝王学ではイシュラルド王国中の情報をめ込まれた。私は孤独だった。人の上に立つものは常に孤独だ。







 いつものように鍛錬していると、桃色の髪の見慣れない女がれしく声をかけてくる。


「あら、ベンジャミン王子! こんにちは!」

「お前は……?」

「ユリアお姉さまの妹のシェリアです! はじめまして!」


奔放ほんぽうな少女だった。私の手に入らない自由を持っていた。


私は憧れるべきではなかった。








「ユリア、イシュラルドの法律でどこか改定すべき箇所など思いつかないだろうか」


「ええ……、現状でよろしいかと。なにか問題でもありましたか?」


 ユリアの表情は浮かなかった。その笑顔の奥では私をうとましく思っているようだった。


 お前もこの国を背負うのを重荷に感じているのだろう、私にも痛いくらいわかるさ。


 だからこそお前を国母にする。その弱音をすべて笑顔に包み隠せるお前ならば、立派に国を切り盛りしていけるだろうからな。








 庭園で鍛錬たんれんをしているとやってくる、ユリアの妹。


「あら! ベンジャミン王子! なにをされているので?」

「またお前か。ずい分と暇なのだな」


 私の嫌味など気にも留めない。


「私、未来を変えたいと思っているんですのよ」


 夢見がちなことをいう。変な女。


「ベンジャミン王子は変えたいと思ったことありませんか?」


 変えたいだと? そんなこと考えたって仕方がないだろう。私はやるべきことをやるだけだ。







 イシュラルド式のエスコートでユリアに腕をとらせる。にこやかにふるまう二人は理想の恋人だ。


 私にはわかる。もうずっと前からユリアが私をうとましく思っていることがもう手に取るようにわかる。


 私たちの心はもうどうしようもないくらいに冷え切っているのだ。それを上回る演技力が周囲の目をあざむいている。


 お前の覚悟を私も背負おう。お前だけの人生ではないのだからな。







「ベンジャミン王子! わたくしあなたに真実の愛を見出しましたの!」


 私の開いた口がふさがらない。しんじつのあい? なんだそれは。


「あれ? ご存じでない? 愛とは命を救うのですわ! 世界を救うのです!」


 まるで夢物語だ。ばかばかしい。


「あら、ベンジャミン王子。笑うと意外と可愛い顔するんですのね」




 私は……愛を……信じてしまった。




「は? 今何と言ったのだ」

「ええ、わたくし真実の愛に目覚めましたので婚約破棄していただきたいと申し上げましたの」





 そうだ、私は惑わされてはいけなかったのだ。この国を背負うと決めたのならば。





…………





「やあ、僕の可愛い小鳥。迎えに来たよ」


 ララピア王太子はそう言って甘やかに微笑ほほえんでみせた。


 砂漠の夜の闇にうすぼんやりと浮かび上がり、ぞっとするほど美しい。彼の背後には真っ白な月が照らしていた。


 彼はこの砂漠に似つかわしくないほどかっちりとした服を着こんでいる。


 その黒地に金の飾りひものついたイシュラルド王国の隊服は以前見かけた時と全く同じ服だ。


「こんなところまでわざわざ足を運んでしまうなんて、僕は君のことが好きなのかな?」


 そんなことをかれても、困る。私は口の中がかさかさになった。


「どうして、ここを」


 供の一人もつけずにこんな砂漠まで。恐怖しかない。


「ああ、君には発信機がついているからね」


 ララピア王子の悪びれない様子に一気に心臓が冷える。


 いつ、どこで……ってあの地下牢で肩を抱かれたときか!


 服は替えたはずなのにどうやってと身体をひねって確認していると、ララピア王子はああ、と口を開いた。


「君のうなじにつけたんだけど、もうついていないよ。落としたんだろう、どじだねえ」


 さっきの洞窟どうくつで落下した時だろうか。とにかくもうついていないのなら何だっていい。いや、すでに追いつかれているんだ。意味がないじゃないか!


 私が恐怖で立ちすくんでいるとすっとかばうようにクラリスさんが前に出た。


「ユリアさん、私が守ります」

「まってクラリスさん」


 私は頭の中を整理した。ちょっとまってこれって刃を向けたことを理由に私たちを不敬罪で投獄する流れじゃないか。んだ。おとなしくついていっても一度逃げた罪で監禁されそうだ。どうしたらいいんだ。

 

バチバチバチッ


 私の静止もむなしくクラリスさんの電撃がララピア王子を貫いた。ちょっとまって。不敬罪。もうだめだ。


「走って! ユリアさん! 大丈夫、気を失ってるだけですから」


 ぐいと腕を引かれ、夜の砂漠を走る。砂に足をとられ走りにくい。夜目も利きにくい。靴の中にどんどん砂が入ってきた。


 移動用の動物を繋いでいた場所まで走る。あのゆったりした動物で逃げ切れるとは思えないけれど、わらにもすがる思いだ。繋いだ場所に動物は……いない!

 






「ああ、おにごっこか。楽しいかい?」


 ふと背後からかかる声に悲鳴を呑み込んだ。


 どういうこと!


 見ればララピア王子は何でもないような様子で後ろに迫ってきていたのだ。なんて脚力。もしかしてイシュラルドからここまで走ってきたなんていいませんよね。


ひゅん


 先が輪になったロープが飛んでくる。うそでしょう! 私は野生の獣か!


ピッ


 クラリスさんの双剣が舞い、ロープを寸断した。


「ここで倒します」


 うそみたいなクラリスさんの言葉に私は息がまった。どうしてこうなった。


「ええ?」

「つかまったら終わりです」


 いや、それはそうでしょうね。もはや言い逃れができないくらいには不敬を働いている。とくにクラリスさんは刃を向けているのだ。良くて投獄、悪くて斬首刑だろう。そしてこのララピア王子は性格が悪い。もうどうしようもないくらいの状況だ。詰んだ。


「へえ、君が僕を倒す?」


 ララピア王子は腹を抱えた。あはははは、ととめどなく笑う様子に私の背筋に冷たいものが落ちる。まって、うそでしょう!


 ララピア王子は赤い舌で唇をなめた。どこかで見たことのあるしぐさだった。

 私は悪夢を見ているのだと思った。こんな悪夢みたこともきいたこともない!


「君が僕を倒せるかどうかためしてみようじゃあないか」


 ララピア王子は腰元のレイピアをすらりと抜き取った。夜の月を反射して冷たく光る。クラリスさんは双剣を構えた。



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