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11 ジン目線今回のユリア

ジンザークの記憶 今回のユリア


…………

…………


 俺はループしたらまずユリアを探すことにしている。いつものことだ。街中を散策し以前見かけたところを辿っていく。おかしい。どこにもいないじゃあないか。前回見かけた森も散策する。空はくもり、ぽつぽつと雨がふってきた。以前ユリアが雨宿りしていた洞窟どうくつに向かう。


 洞窟の入り口に、ユリアはいた。


 心臓がどくんと跳ねる。そうだ、一緒に雨宿りしよう。


 しかしユリアは洞窟の中にそのまま入っていった。


(なんだ、どういうことだ。俺がいなかったら洞窟を探検するのかユリア)


 本当に毎回毎回振り回してくれる。俺はユリアの後を追って洞窟に入った。鍾乳洞しょうにゅうどうでできたここの洞窟は王城の地下の俺のねぐらにもつながっている。


 後をつけながら俺は後悔した。こんな薄暗い洞窟の中で声を掛けたりなんかしたらユリアはますます警戒けいかいするではないか。立派な付きまといだ。


 ユリアと距離をとりながらもんもんとする。そうだ、一旦出入り口に出て、雨宿りしているほうがいいかもしれない、この通り雨はもうすぐやむのだから。洞窟からでてきたユリアと自然な形で出会おう。


 俺がきびすを返そうとしたときだった。前を歩いていたユリアがついと足を滑らせて後頭部から背後に倒れかかったのだ。


(ユリア……!)


 ユリアのもろさは筋金入りだ。ちょっとでも目を離したらあっけなくしぬ。俺は条件反射で身体を受け止めた。くせみたいなものだ。


 俺の腕のなかでユリアは俺をじいと見つめていた。いままでの人生で一番距離が近かった。俺は胸がいっぱいになった。


 ユリアが口をひらく、俺はユリアにくぎを刺される前に謝罪の言葉をさしはさんだ。思いもがけない好印象なユリアの返しに俺の心臓はますますうるさくなる。おもわずユリアと口をついて出そうになって言葉を飲み込んだ。そうだ、俺はいつだって名前をきかれてきたじゃあないか。


 初めて俺から名乗りをあげるとユリアはファミリーネームを教えてくれた。いつもあれだけ隠したがっていたというのに。その気持ちが嬉しかった。


 俺の腕の中で気まずそうにするユリアにはっと思いだされた。きっとこんな暗い閉鎖空間でこれ以上俺といたくないとでも言われるのだろう。俺はユリアに拒絶される前に外に誘導した。


「ええと、初対面、ですよね?」


 やっぱり、訊いてくるんだな、ユリア。俺はもうこれ以上お前に知らない顔されたくなくて、自分から名乗ったのだというのに。俺の心はいつだって浮かび上がるたびにくぎをさされる。


 ユリアにとっては毎回初対面なのだと自分に言い聞かせた。絞り出すような声で肯定する。ああ、このやりとりがどれだけ俺を傷つけているかなんてお前にはわからないだろうな。


 ユリアは外にでたらあからさまにほっとしたような顔をする。どうしても俺を振り払いたいようだった。俺は意地になっていた。このまま放っておいたらまたあの王太子に冒険者ギルドで連れ戻されるだろう。明日の昼過ぎにはユリアをどこか遠くに連れ出さなくてはならないのだ。


 俺のわがままにユリアは微妙な反応をする。押し切って宿に押し掛けると、意外に押しに弱いのか初めて同じ部屋に入れてくれた。俺は胸がいっぱいだった。冷たいシャワーを浴びて心を鎮めた。だめだ、高等魔術式でも考えろ俺。ここで手を出したら何もかもまた一からやり直しだ。


 風呂から上がってベッドに転がって煩悩ぼんのうを必死に押し殺す。俺は今、いままでのユリア史上最大の信頼を得ている。これを崩すわけにはいかないのだ。俺はほほをはたいてきたユリアのことを思い出そうとした。ただ単にかわいそうだから泊めてくれた、ただそれだけなんだ。


 ユリアのシャワーの音が響き、鼓動こどうが痛いほど早くなる。心臓が締め付けられそうだ。俺は必死に寝ようとした。このままではどうかしてしまいそうだ。


 ガチャリと扉が開いて、こちらに近づいてくる気配がある。ごくりと生唾なまつばを飲み込んだ。ふわりと甘い香りがして、人肌の呼気が鼻先をくすぐった。


 我慢……できなかった。


 思わず押し倒したはずみでユリアの瞳が絶望の色を示す。俺は体が動かなかった。この目はいつだっていつだって見てきたんだ。俺の前にひざまづいて助けをこう時の目じゃあないか。俺はそんな目をさせたくなくていままで頑張ってきたというのに。


 俺の絶望とは裏腹にユリアは優しかった。どうしたんだ、ユリア。今回はずい分優しいじゃないか。酒場ではずむ会話に俺はいつもより酒が進んだ。気がつけば宿屋のベッドの中だ。俺の腕の中ではユリアが寝息をたてている。添い寝を許してくれたのだと胸が熱くなった。このユリアと一緒に俺はこれでループを終わりにしたい。

 

 そうだ、国外に出よう。俺はイシュラルドの地に縛られているが、召喚士の使役下であればこの地を離れられる。ユリアの夢見る冒険者とやらになって世界中を二人で旅しよう。俺ならお前の願いをかなえてやれる。


 冒険者ギルドでユリアが王太子を振ったとき俺の世界は変わった。やっと王太子の呪縛からユリアが解き放たれたのだ。ユリアはりんとしていた。俺と、ユリアの、未来はこのとき確かに変わったんだ。


…………

…………


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