↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/43

10 王城地下の秘密


 特徴的なこぶを背中に持つその生き物は、砂漠に適応したかたい皮膚と砂から守る毛で全身覆われていた。クラリスさんが私の背中を支えるようにして二人乗りをする。動物の背が高く、上に乗ると視点が二メートルほど高くなる。


 私の頭には、先ほど関所で購入された砂除けの布が軽く巻き付けられ、魔石の髪留めで布の端を固定されていた。吹き付ける砂は広漠たる荒野を縦横無尽じゅうおうむじんに走り抜けている。ゆったりとした足取りで砂漠の生き物は私たちを乗せて歩を進めた。


 砂漠地帯に入ると、クラリスさんは嬉しそうに目を細めて時折私の後ろ髪をいては髪についた砂を落としている。移動手段としてこののんびり歩く生物を選択したことといい、彼は私ほど急いだ気持ちではないようだった。本当に旅として楽しんでいるらしい。


 砂漠の砂丘にオレンジの夕陽が落ちて、幻想的な赤が一面を彩る。空の青は水平線の辺りからオレンジに浸食しんしょくされ、砂漠の砂の影がまるでひだのように鮮やかに浮かび上がる。


『きれいな髪色だな。まるで赤い砂漠の砂の色だ』


 ああ、こんなときにまで思い出すなんて。本当に、私はどうしようもないな。いつまで未練たらしく心の中に住まわせているのだろうか。


「ああ、ユリアさんここの洞窟どうくつですよ」


 クラリスさんの嬉しそうな声ではっと我に返る。見れば、砂山に隠れるようにぽっかりと口を開けた底の見えない洞窟があった。岩のつららのれ下がる入り口はまるで蛇の牙のようだ。その奥の暗がりに身震いがする。砂漠の陽は落ちかけていて、空はうすぼんやりと闇が近づいてきていた。


「さあ、入りましょう」



…………


 

「なぜ私がこんな目に合わないといけないのだ!」

「うるさいですよ」


 ベンジャミン王子は、ルークに引きずられながら王城地下の王家の隠し通路を歩かされていた。


 玉座の裏の隠しスイッチを押すと現れる地下の階段は、地下空洞に存在する古の鍾乳洞しょうにゅうどうにつながっている。時折ときおり天井からしたたる水滴に髪を濡らし、ルークはれ羽色の髪の毛を湿しめらせたまま感情のないあおい色の瞳でベンジャミン王子を冷たく見下ろした。


 二人の後ろでは居心地いごこち悪そうに宰相ナージルが歩いていた。ナージルの黒い長髪は歩くたびにれた。


「王太子が代々継ぐこの地下の鍾乳洞には強大な魔神が封印されている。あなたも知っているでしょう。それを、あんな、化け物殿下に与えてどうするのですか。あなたは馬鹿ですが、異常者ではないだけまだましです。まあ馬鹿ですが」


 ルークは辛辣しんらつな言葉をあられのようにベンジャミン王子にたたきつけながら薄暗い鍾乳洞の中をきびきびと先導した。行きついた先には鍾乳石の巨大な壁があった。


 壁にはなにやら落書きのようなものが描かれている。円にぐにゃぐにゃした線がいくつもミミズのようにのたくって描かれているではないか。


「おい、行き止まりだぞ」


 ベンジャミン王子が仕返しとばかりに皮肉ると、ルークはその無表情から薄く唇の端だけわずかにもちあげた。


「ああ、節穴でしたか。その目は飾り物だったようで」


 ルークが腰元から引き抜いた刃にベンジャミン王子は腰を抜かしたが、ルークは気にすることもなく、自らの手のひらを浅く切り、その血を行き止まりの壁になすりつけた。


「な……な……」


 しりもちをついた状態で口をはくはくさせているベンジャミン王子の目の前で鍾乳洞の壁は両開きで道を開けるかのように消えていった。


 ナージルははっとした。これは王家の血によって開錠する封印の紋。


 すっと目線で黒髪の男の横顔を見る。髪の色は違うものの、瞳の薄紫といい、顔の造形はわずかにベンジャミン王子と似たものがあるではないか!


「なにいつまで地面と仲良くいちゃついているんですか、踏みますよ」


 ルークは冷めた目で、腰を抜かしたまま座り込むベンジャミン王子を一瞥いちべつすると靴先で軽くり上げ、すたすたと先に進んでいく。


 ナージルはベンジャミン王子を支え起こして彼の肩を担ぎながらルークの後を追った。


 しばらくぐねぐねと鍾乳洞内部を突き進むと大きな大扉があった。ここまでに何度か魔獣が登場したがすべてルークが切り払った。


「おかしい。封印が解けている」


 その事実にナージルは心臓が冷えた。


 宰相としてこの地下の空間にイシュラルド建国の祖となる守護神が魔に堕ちた状態で眠っているのだと知っていた。ここに眠っている悪しき魔神が解き放たれてしまえばこの国など簡単に滅びてしまうだろう。


 なんせそれだけの恨みを我らが王家は背負っているのだ。忌々(いまいま)しい人間の欲は天上の神を地に堕とし自由を奪い縛り上げてここに閉じ込めた。何千年もの間、他国との抑止力のためだけに囚われた古の神ジンザーク。彼はこの国を恨んでいるに違いなかった。


 ルークは大扉をためらいなく開け放ったが、中はがらんどうだった。室内の金きらきんの調度品はほこりをかぶっておらず、つい最近ここを巣立ったのだろう。


「どうやら逃げたみたいですね。逆に安心です」


 ルークの無感情な言葉にベンジャミンが悲鳴を上げる。


「ななな、逃げただと! 魔神が! ああ、そんなおしまいだ!」


 ナージルも棒のように身体を固まらせた。ルークはさげすむような目でベンジャミンを見下ろした。


「はあ、やっぱり馬鹿ですね。おしまいなら今頃私たちが生きているわけないでしょう。どうせ自由になって喜んで旅にでも出たんじゃないですか? よかったですね、悪魔第二殿下に悪用されなくて」


 ルークはぱんぱんと手を打って手のひらの砂を落とした。どうやら大扉は砂がついていたらしい。


「あなたはもしかして陛下の隠し子なのでは」


 宰相ナージルが遠慮がちに述べると、王子ベンジャミンは声をあらげた。


「お前のような奴が兄などと認めないぞ!」


 ルークは心底めんどくさそうに口を開く。

「僕を祭り上げたらあなたの首がとびますよ。そんなことより目の前に最適解がいるではありませんか」

 ナージルの言葉をひろってルークは靴先でベンジャミン王子を指す。ベンジャミン王子の言葉は無視された。


「ほら、いるでしょ。目の前に、王太子・・・サマが」


 ナージルは震撼しんかんした。


「ララピア第二王子には表舞台を去ってもらわないと」


 ルークはそのあおい色の瞳をすがめ無感動に淡々といってのけたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。