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6 ダンジョン「猪突猛進の獣」


 クレアさんは明るく言った。ぞろぞろと帰りながら、クラリスさんが声を掛けてくる。

「ユリアさん、かっこよかったですよ」

 どこかできいたようなセリフだ。ジンもこんな気持ちだったのだろうか。

「ありがとう」

 私は苦笑した。

(これは気恥ずかしい)


 ギルドの待合席で待ちながら、クラリスさんと顔を突き合わせて、彼の手にした猪突猛進の依頼書をじっくりと読んだ。


「この獣は直線に移動するんで、ユリアさんが魔術で気を引いた直線状に私が待機して横から切り払う……と」

「なるほど。そのときは防護壁で一応強化しておきますね」

「このダンジョン罠が多いから気を付けないと……」


 どうやら今まで潜った迷宮のものと違い、遺跡タイプのダンジョンのようだ。そこかしこに踏んだら困る罠があるらしい。直線的なボスと相乗効果がある。回避した先で罠も発動するということか。


「この獣型のボス、意外と小型で小回りもきくんですよね」

 なるほど厄介だ。たしかに一人では狩りたくない。


「ユリアさーん」

 受付からクレアさんの声が響いた。

「はーい」


 席について更新情報を確認する。ランクはBだ。ソロでこれならなかなか強いほうだろう。


「ユリアさんは魔術タイプで攻撃力が強く、回避が弱いですね。今回みたいに先制攻撃をとれる場面では力を大きく発揮しますが、タンクタイプや戦士タイプの防御に強い敵にはじり貧になる危険性がありますのでお気を付けください」


 すごい、あの短時間でいろいろ分析結果が出ている。


「属性は岩が共鳴率を百越えしていて、これは王家に次ぐかなり高い値を示しています。おそらくイシュラルド王国でも一、二を争うほどずば抜けています。次点で雷ですね。岩属性の苦手なスピードを補うことができとてもバランスが良いです。ほかにも風魔術は習熟度が高く、いままでもかなり使われてきたのでは、あと……」


 長い。説明がすごく長い。


「……とまあ、こんな感じですね。なにか質問はありますか?」


「そうですね……今私の召喚術の方はどんな感じなのでしょう」

 気になっていることを訊いてみた。記録媒体にはジンのデータは元従僕として残っている。どうやら一度従僕になったというだけでも意味があるようだ。


「そうですね、ジンザークさんのスキルが一部使えるようになっています。砕破さいはの追加効果が斬撃につきます」


「そうなのですね」


 斬撃……はたして使う時がくるのだろうか。


「他になにか気になるところあります?」

「いいえ、ありがとうございます」

クレアさんはにこっと微笑んで手を振っておくってくれた。可愛い!


「ユリアさん終わりました?」

 待合席ではクラリスさんがぱっと顔をあげた。きらっと彼のすみれの瞳が煌めく。

「おまたせしました!」


 クラリスさんと共にダンジョン「猪突猛進の獣」に向かう。最近できた新しいところなので中がとても綺麗だ。薄緑色の石畳が床も壁も天井も覆っている。ところどころ不自然な穴や亀裂が走っていた。壁にはなにやら呪文の一部のようなものが描かれている。ところどころ風の流れを感じる。獣のにおいがした。


…………


「新しいところは比較的難しくないことが多いので、あたりかもしれませんよ」


 クラリスさんは話しながら、足元の罠の解除をしている。細いピンのようなもので、石畳みの穴に差し込んで左右に動かしている。

 ピンッと音がして数メートル先の天井の割れ目から巨大なギロチンが落ちてきた。罠こわい。


「これで大丈夫です。さあ、行きましょう」


 ジン以外の人とダンジョンに潜るなんて初めてだ。今まではジンが目にもとまらぬ速さで殲滅していく後をついていくだけだった。こうして自分と同じくらいの実力の人と手探りで歩くダンジョンというものはなんて充足感があるのだろう。本当に踏破という表現がふさわしい。手持ちの真っ白な地図を二人で書き記しながら、徐々にダンジョン内部は探索されていった。時折小型の獣の魔獣も出てくる。


「落雷」

 私の短縮詠唱で膝くらいの高さの小さな獣は焦げて倒れた。スピード型の獣と雷魔術の相性は非常に良い。


「わあ、速い! 見えませんでしたよ今」

 クラリスさんの言葉に思わず照れる。まるでジンと一緒にいるときの私を見ているようだ。クラリスさんは申し訳なさそうに言った。


「あんまり役立ててないような気がして申し訳ないです」

「そんなことないですよ」


 私の否定は心からの言葉だった。私には罠の解除なんてできないし、クラリスさんがいないと非常に困る。そこまで考えてはっとした。私は必要以上にジンに対して卑屈になっていたのではないか。私の役割だって敵の殲滅以外でもジンの支えになっていたことがあるのではなかっただろうか。


「ユリアさんと一緒にダンジョンに潜れてよかったです。できればこのダンジョンが終わった後も一緒に旅に出れたらいいなと思ってるんですけれど」


 ダンジョン中腹のセーフティスペースで遅めの昼食をとりながらクラリスさんはぼそりと言った。彼の頬っぺたは携帯食料でぱんぱんになって小動物のようだ。


「旅に出るってことはイシュラルドはもう発つんですか?」


 私もぱさぱさの携帯食料を水で流し込みながら言った。ついこの間ついたばかりだろうに随分急な話だ。


「ええ、このダンジョンで移動費用を稼いだら発ちます。前、ユリアさんに私が探しているものがあるっていいましたよね?」


 クラリスさんは水で口の中のものを流し込もうとしてむせている。一気に食べるからつまりそうだ。そういえば船でそのような話をしていたような気がする。


「私が探しているのはそれこそおとぎ話のレベルの品物で」


 クラリスさんは恥ずかしそうに言った。もしかして……。


「持ち主の願いを叶える黄金のランプというものなんです」


 ああ、ここにも夢見る青年が一人。おもわず天をあおぐ。


「そうなのですね……」


「それで、ここの図書館で情報を漁ったらなんと南の砂漠の国シャハールではランプのありそうな洞窟が沢山あるというではありませんか。イシュラルドまで海を渡ってきたかいがありましたよ」


え!


 ここにきてかなり有力な情報だ。シャハール!? イシュラルドの南の隣国ではないか。西の海を越えたハルファスの南部のサバンナ地帯よりは広い砂漠地帯だ。まさか洞窟が沢山あったとは。そうか、イシュラルドは岩の恵みの大地。洞窟くらいどこにでもある。イシュラルドの恵みがシャハールまで届いていたのか。どうして気がつかなかったのだろう。灯台もと暗しではないか。


「そこで、シャハールに行くのにぜひともユリアさんも一緒に旅行しませんか?一緒にギルド依頼受けましょうよ!」


 普通にきいたらどうみてもナンパだ。だがしかし、ランプが絡むとなると私にとっては意味が変わってくる。


(これってジンのことも探せて、魔術の腕も磨けて、ララピア王子からも逃げられる……一石二鳥、いや三鳥だわ)


 秒で快諾した。これ以上ないほどの好条件だ。クラリスさんは嬉しそうに笑った。その紫の瞳がわずかに昏くなったのが私は気になった。


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