5 ユリアの自立
「あ、ユリアさん、こんにちは」
冒険者ギルドでばったり。クラリスはその菫色の瞳を嬉しそうに細めた。
「ユリアさんも冒険者だったんですね」
私は動きやすい冒険者の格好に身を包んでいた。長い髪は後ろで束ねた。
「ええ、体を動かしたくて」
(嘘です。ララピア王子から逃げるために力を磨きにきました)
ジンがいない以上、自分の身は自分で守るしかない。魔術全般には自信があるものの実戦経験は少ない。魔物を倒しつつ魔術の腕も上げなくては。私は焦っていた。このままだと、幽閉されてしまってジンを探すどころの話ではない。
「それはよかった! あの、私とパーティー組んでくれませんか?」
見ればクラリスはBランクの依頼の紙を手に持っている。彼の身に着けているギルドバッジはB、適正ランクだろう。
「この依頼、一人だと苦労するんです」
見れば猪突猛進の獣タイプのボスモンスターだ。たしかに囮役がいるとやりやすいだろう。そこまで考えてはっとした。彼は私のSSランクのバッジを見て声を掛けてきたのだろうが、今の私は非契約状態、SSの実力はないだろう。ギルド情報を更新しなくては。
「ごめんなさい。多分私のランクはもうSSじゃないの」
「いいですよ! 私が主に倒しますから」
「受注するならその前に実力チェックしてこないとなの」
「じゃあ待ってますから!」
……随分と熱心だ。私がカウンターに向かうとクラリスもついてくる。
「あ! ユリアさん! おひさしぶりです」
クレアさんはかわらない態度だった。ありがとう、そういうのが一番うれしいです。一週間前のことを知っている冒険者たちが若干ざわざわしているが仕方がない。腹をくくろう。
「情報を更新したくて」
「はーい、じゃあここに手をかざしてくださいね」
タカタカタンとクレアさんが事務仕事をこなしながらも、水晶の情報をインプットしている。
「えええええええ!!!!!」
やはり、きたか。来ると思っていました。
「ユリアさん、またレベルあがったんですか? 84ってすごすぎません!?」
非契約になっていることではなく?
(ええと、もしかしてジャイアントタートル倒したことかしら、それともランプの魔神踏破したこと?……どちらも私じゃないんだけれども)
もしかしてジンの経験値の一部が流れ込んでくるのだろうか。
「ええと、ジンとは生き別れになってしまって、ランクを下げたいのだけれど」
なんだかすごく意味深な言い方になってしまった。事実なのだけれども。
「ええ! そんな……ドラマチックですね!」
クレアさんは茶色の瞳を煌めかせた。両手を組んでキラキラしている。
(そうね、恋人同士だったら神話みたいでロマンチックよね。恋人……だったのかしら)
「元気出してください。生きていればいずれどこかで会えますよ!」
クレアさんの言葉が沁みる。
「ありがとう……」
若干語尾がふるえてしまう。
「ちょっとまってくださいね。ガンシュさーん!」
クレアさんがカウンター裏に顔を向けて、ギルド員以外立ち入り禁止の扉に声を掛ける。試験官の彼はそんな名前だったのか。スタッフの休憩室の扉が開く。奥から金髪の角刈りに水色の鋭い目つきの美丈夫が試験官の服装で出てくる。
「おお、君か。元気でなによりだ」
屈強な身体は依然オーラを放っていた。こわい。
前回と同じ道を通り、ギルドの隔離施設、練習闘技場についた。このドーム状の広い空間は緊張する。
「ランクは何にします?」
「Bでお願いします」
とりあえずクラリスさんの提示するBランク獣の依頼を受けられるかどうかだけでも判定してもらおう。ソロでBとなるとギルドでも数本の指に入る。魔術には自信があるが厳しい戦いかもしれない。
「謙虚ですね。ではいきますよー」
クレアさんが笛をふいた。ピイイと戦いの幕が切って落とされる。
なぜかクラリスさんも見学にきて応援している。目の端でとらえるとひらひらと手を振られた。
ザっと音を立ててガンシュさんが距離を詰めてくる。私は短縮詠唱で防護壁を形成した。バリンッといい音がして防護壁の一枚が割れる。この防護壁は十層構造だ。いける!
高速詠唱で長文の魔術を練る、私の血の系譜は岩属性だ。イシュラルド王国の守護神の加護に連なる。ここ王都の近くではより威力を発する。詠唱を紡ぎ終えると地面の土をせりあがるように岩の傀儡が現れる。ここまでの詠唱の間ガンシュさんの攻撃を防いで防護壁はあと三枚のこってる。
時間短縮のため創りあげたのは上半身だけのゴーレムだ。顔のない頭部には穴が開き、その頭部の空洞からは光の光線が放たれる。耳障りな高音域の傀儡の嘆きが闘技場内に響いた。
放たれた光線は試験官がさっと避けたすれすれをそのままえぐるように焼き払った。
「ひええええええ!!」
クレアさんが声をあげる。
試験官の回避経路の先を読むようにゴーレムが片手で薙ぎ払う。轟音とともに土埃が舞い、闘技場の反対端に試験官がたたきつけられた。
「ごぼっ」
「やりすぎですよ! ユリアさん!」
クレアさんが声をあげた。今の私には手を抜く余裕などない。一撃入魂、全力投球だ。実力者ほど手加減できるものである。私にはそんな余裕などない。クラリスさんは遠くでぱちぱちと拍手している。
「うむ、なかなか響いたぞ」
ぱんぱんとスーツの汚れを払いながら、先ほどまで壁にめり込んでいたはずのガンシュさんがこちらに悠々と歩いて帰ってきた。やっぱりすごいこの人。足取りもしっかりしている。
「Bは確実にあるな」
ガンシュさんは記録媒体を覗き込んだ。
「詳しくは戻ってからですね。少々おまちください~」




