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2 追憶(n巡目)


ジンの追憶 ユリアn巡目


…………

…………


「なに呑む?」


 俺は酒場で向かいに座るユリアに声をかけた。


「……オレンジジュース」


 ユリアはよそよそしい。それはそうか。これじゃナンパだ。

 俺の頼んだビールはすぐ運ばれてきた。ユリアのオレンジジュースと乾杯するとガラスの触れ合う小気味良い音がする。


 ぐいと呷ると、ユリアは疑わし気な視線でこちらを見ていた。俺はそんなに怪しいかよ。


「なんだ。おごるといっただろう」


 注文していた料理が次々と運ばれてくる。前菜にスープに、酒のつまみに、サラダに魚料理、肉料理、とても食べられる量ではない。ユリアが何が好きかわからなかったのでとりあえず全部注文した。


「……ありがとうございます」

「で、ユリアはどうしてあんな街中を一人でうろついていたんだ」


 俺はタイムリープしたらまずユリアを探すようにしている。習慣みたいなものだ。いつも同じ場所にいてくれたら苦労もしないが、たいていいつも思いがけないところにいる。探すこっちの身にもなってほしいものだ。


「……むしゃくしゃしてて」


 まるで通り魔の犯行動機のようなことをいう。ユリアはシーザーサラダを口に運びわずかに顔を輝かせた。なんだ、気に入ったのかそのサラダ。覚えておこう。


 てっきり城にこもってると思っていたのに街中でふらふらしているものだからつい強引にナンパしてしまった。これでは俺が遊び人みたいだ。こんなに一途なのにあんまりだ。


「そうか。気をつけろよ。あぶないやつも多いんだからな」


 俺はビールを呷った。とりあえず呑んでおかないとこの沈黙に耐えられそうにもない。ユリア、そんな初めて会う他人のような目でみないでくれ。


「……そうですね」


 まるであぶないやつはまさに今目の前にいるとでもいいたそうな表情でユリアはビーフシチューを口に運んだ。……そのビーフシチューも美味しかったんだな。ユリアは口元に手を当てて感動している。どうせ城では毒見済みの冷たい食事でも食べてきたんだろう。


 俺に酒が回りはじめると、ユリアは多少気を緩めた。なんだ、安心でもしたか?もう俺がぐでんぐでんだろうとでも思っているのだろう。人間と一緒にするなよ。


「私、婚約者のモラハラが辛くて、ストレスでなにもかも嫌になって」


 もう俺が素面しらふじゃないだろうと勝手に愚痴のはけ口にされる始末だ。なんだ、俺はぬいぐるみか?


「妃教育に召喚士教育にやること多くて、自由な時間がなくて」


 だからなんだってんだ。お前が召喚士だからいずれ俺に会いに来るんだろうが。


「何もかも捨てて自由になって鳥のように世界を飛び回りたい」


 は? なんだそれ。


 酒でうるんだ目線だけをユリアに向ける。ユリアは俯いていた。

 お前、そんな気持ちで今までさんざん俺と戦場に行っていたのかよ。一体何回しんだと思ってんだよ。

 くそ、もっとはやくいえよ。俺が連れ出してやったっていうのに。



…………


「んあ?」


 気がつけば、ユリアに肩を支えられながら、小さな宿屋の部屋の中にはいったところだった。うっかりつぶれて寝てしまったのか。

 もうすっかり夜は更けて、部屋の時計の針は二十二時すぎを示している。


「あ、気がつきました? もうあのお店しまっちゃって、店先に寝かせておくのもあれなので、食事代かなりおごってもらっちゃったし、宿まで送ったんです」


 室内の調度品を見れば安宿のようだった。このあたりで一番安いだろう。


「とりあえず今日はここに泊まってください。食事代のかわりに払っておきましたから。では、私はこれで」


 見回せば小さなシングルルームだった。ユリアは背中を向け俺を部屋に置き去りにして出ていこうとしていた。おもわずその腕を引いて止める。


「いたっ」


「まて」


 俺の右手がユリアの左手首を掴む。ユリア、行かないでくれ。


「ユリ……」


ぱあんっ


 いい音がした。こちらを振り向いたユリアの目は怒っていた。ユリアの自由な右手が俺の左頬をはたいたのだと時間差で理解した。痛みなど感じないほどささやかなものだったが、ユリアはおそらく全力ではたいたのだろう。息が上がっている。


「やめてください。私、そんなつもりありませんから」


 毅然とした態度だった。俺の腕の力が抜ける。ひらり踵をかえしてユリアは出ていった。バタンと扉の閉まる音が大きく感じる。


 どうやら一晩の遊びに誘われているとでも思われたようだった。


 俺は茫然とした。そして後悔した。

 

 そうだ、覚えてるのは俺だけだった。


 俺だけが、繰り返しているんだった。





 次の日こっそりと王宮にユリアの姿を探しに行った。

 ユリアは王太子の腕にエスコートされ、にこやかに笑顔を振りまいていた。


(そうか、こういう紳士なやつがタイプなんだな)


 俺はへこんだ。あれだけ酒場で愚痴をいっていたなんてまったく悟らせないユリアの姿に俺との越えられない壁を感じる。



…………

…………


初対面のジンは精いっぱい紳士を演じていました。

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