8 雷神の狂愛
数千年前雷神の想い
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ほう……と物憂げにため息をつくのは、藤色の長髪に紫の瞳が煌めく美形、雷神のクラウドだ。彼が熱心に見つめているのは水鏡……の中に映る下界の様子。
下界では暴風雨のさなか、外の祈禱場にて全身ずぶ濡れの巫女が嵐にもみくちゃにされ髪を乱しながら、一心不乱に雷を鎮めるための祈祷を行っている。
『ずっと嵐ならいいのに……』
ぽつりと呟かれるクラウドの言葉に、水色の髪を涼し気に煌めかせた水神レインは顔を引きつらせた。その藍色の瞳はいぶかし気に細められる。
レインは水鏡の映像を操作して彼の為に巫女の顔をズームしてやりながら友の惚けた顔に目を向ける。
『君のその思想は心底恐ろしいね……』
レインの苦笑する顔に、クラウドは流し目を送った。その紫の瞳はほの昏い。
『何故? 嵐が来たら、彼女、外に出てきてくれるじゃあないか』
クラウドが熱心に見つめる水鏡には彼の想い人が映っている。巫女マシュリーは連日につづく暴風雨に悩まされた国民の、国王に向けた嘆願によって王命が下り、それを鎮めるため舞っているのだ。
……その苦しめている嵐はもちろん雷神クラウドが発生させているものだ。
さらに正確に言えば水神レインの雨やら、風神フィンに暴風と大気圧を変えてもらうなどして、彼の雷が走りやすいよう整えてもらっている。
『お嬢ちゃんこれで五連勤だねえ。倒れちゃうんじゃない?』
若草色のふわふわとした髪を持つ童顔の風神フィンはその碧のくりりとした瞳を無邪気に輝かせながらも心配する口ぶりで言った。
『マシュリーが僕の為に倒れるまでがんばってくれるのはとても嬉しいけど、体を壊して城のなかに引っ込んでしまってはこうやって視ることもできないからね。名残惜しいけど今日はこれでおしまいかな……』
クラウドはマシュリーに当たらずとも遠からずといった位置に小さな稲妻を走らせる。水鏡の向こうでマシュリーの肩がびくりと震えた。
『うん、マシュリーが雷光に照らされてとても綺麗だよ』
恍惚とつぶやく雷神クラウドを横目に、水神レインはクラウドがこの巫女の名前を知っているという事実に引いた。
風神フィンは「わーきれー」と能天気によろこんでいる。
『はあ、水鏡のむこうに嫁がいるなんてつらすぎる……』
クラウドが物憂げにいうものだから水神レインはむせた。
その拍子に彼の能力である水鏡が揺れる。
レインはごほんごほんと意味ありげに咳ばらいをすると胡乱気な視線を送る。
『嫁も何も……会ったこと、ないですよね?』
レインは察した。この友は思い込みが激しいあまりストーカーに片足つっこんでいると。
そこに風神フィンがなんでもないような様子で口をはさむ。
『えー定期的に話してたよねー』
その言葉にレインは目を白黒させた。
『な……! フィンにも何かさせてたんですか!』
レインの水鏡を使って監視するに飽き足らず、フィンの風の声で盗聴までしてたという。
『僕自身の雷で思念会話もできるんだよ』
ほら、とクラウドが指し示した水鏡にはマシュリーの姿。彼女は一心不乱に天に祈りを捧げている。
『この天災をお鎮めください、 岩神様……』
『ね、聞こえる? 天才だなんて……てれるなあ』
クラウドは恋の病によって耳が正常に機能していないようだ。
レインは表情筋が死んだ。
クラウドはごほんと咳払いをして気合を込めると、彼の思念会話を使った。
『ああ、私の愛しき君よ、案ずることはありません。貴方の憂いは祓われるでしょう。私はいつも見守っていますよ』
まるで天の声だ。
その言葉が紡がれるやいなや、きらきらしいエフェクトとともにさあっと空を覆っていた雨雲が裂け、その隙間から綺麗な虹のかかった青空が現れる。
ひどい茶番である。
マシュリーはその青空に負けず劣らずきらきらした瞳で涙を浮かべながら彼女の国の守護神(岩神)に感謝の意を念じている。
『良い良い』
クラウドは満足そうに口元に弧を描いた。
そんな三人がほのぼのしているのは熾烈な生存競争の行われる雲の上、上層だ。
彼らの周囲は風神による厚い風のバリケードで安全を確保しており、バリケードを抜けて近づいてくるような敵は水神の操る強酸性の雨のシャワーと雷神の広範囲雷撃によって一掃されるのだ。
彼ら三人は上層での戦いを有利にするために徒党を組んだ戦友である。
その傍らで水神と風神の二人はこの友の恋路をひっそりと見守っているのである。
そんな歪んだ恋心をこじらせた雷神が下層に行きたいとごねり、ソロ最強格の岩神ジンザークに挑み、彼の友二人を巻き込むのはそう遠くない未来の話だ。
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