3 揃いのもの
ハルファスの城下町は色鮮やかなバザールだった。オレンジ色の布が頭上で垂れ下がり、飾りのようだった。人込みにあふれ活気があった。
「ユリア、これなんてどうだ」
ジンは先ほどから装飾品の類を持っては私に飾らせようとする。豪奢な金色の髪飾りがジンの手の中できらきらと太陽光を反射してまぶしい。
「いえ、そんな派手なのいいです」
そんな高価そうなものを身に着けていたらすぐに野盗に目を付けられそうだった。つけさせようとするジンとの攻防戦が始まる。頭の上で拒絶するように掲げる私の腕をジンが両手でそれぞれつかんだ。
「冷やかしならごめんだよ」
うだうだと店先でもめ合う私たちを店主は一喝して追い払った。
てくてくとバザールを歩く。ジンは道行く人を眺めながらどこか浮かない表情だった。
「どうしたの? ジン」
もしかしてさっきの髪飾りそんなに欲しかったのだろうか。
「俺は、ユリアと揃いのものが欲しかっただけだ。別にあれでなくてもいい」
ジンはふいと顔を背けて無感情な声でいった。なんだか申し訳なさで胸が苦しかった。
「あ、じゃああの店で見てみよう」
私は思わずジンの腕を引いた。私の指す先は小さな耳飾りの専門店だ。あのくらいのサイズならばたいして高価でもないだろう。
ジンは店先のピアスをまじまじと見る。どうやら気に入ったようだった。
「ん、ユリア。これはどうだ」
ジンが手に持ってるのは小さな金のフープのピアスだ。どうしても金色のものにしたいらしい。そういえばジンは作り出す槍も金色だし、ダンジョンも金色だったし彼の属性に関係があるのかもしれない。
「いいんじゃない」
私はかるく答えた。そのくらいの小さい金ならまあ、別にそれぼど珍しくもないし、身につけている人だってそこそこいるだろう。
ジンはピアスを一つ購入した。早速ガサゴソと袋を開けて、自分の左耳についていたシンプルな丸い金のピアスを外す。そして今買ったばかりの金の小さなフープを付けた。
「ん」
そしてもう片方のフープを私に押し付けてくる。もしかしてつけろと、そういうことでしょうか。確かに揃いがいいといっていたけれどまさかピアスを半分こするつもりだったとは。
「私、ピアス穴あいてなくて……」
ごめんね、ジン。完全に私のチョイスミスだったわ。イヤリングもおいてる店だったからすっかり言うの忘れていた。
「気にすんな。今あけてやる」
え、うそ。
「じっとしてろ」
ジンは右手に金色の針を持っていた。なんで、どうして。ってそうかジンは槍を形成できるんだから針なんて簡単か。ていうかまって減菌処理とか大丈夫なの?
「動くな。あぶないから」
ジンが私の右耳を指でつまむ。まな板の鯉だ。
ちく
針を刺すのに集中しているジンの顔が右耳に嘘くらいに近づいている。ジンの唇からぬるい息がかかる。
私は緊張で呼吸を止めた。
「おわったぞ、ほら」
ジンは若干血の付いた針をもって私の顔をのぞきこんだ。ジンは持っていた針を振って霧散させると先ほどの小さい金のフープを私の右耳に着ける。
ジンは顔を離すと満足そうに口の端を引き上げた。
「いいんじゃないか」
彼の金色の瞳がきらりと輝いた。
バザールをしばらくぶらぶらしながら買い食いをして、棒に刺した肉の塊をほおばるジンの顔を見て笑ったり、みたことないくらい伸びる甘味を食べたりした。
そして私は思い出したのだ。そういえば今日図書館に行こうと思っていたのだと。
「ジン、ちょっと図書館に行きたい」
「ああ」
ジンは特に興味もなさそうにうなずいた。確かに彼が本を読んでいるところはなかなか想像もできない。どちらかというと外で暴れていそうだ。
ハルファスの図書館は開放的で天窓の光が館内を隅々まで照らしていた。私はジョブ関連の専門書のコーナーをぐるりとまわり古のジョブについて深く考察されているものをさがした。
(『伝説の召喚士マシュリーの伝記』……これが一番ちかそうね)
私が本を手に取っていると、ジンは反対側の書架の本を手に取っていた。
タイトル『魔神と人間』
(なんだろう。なにか人間との関係に思うところでもあったのかしら)
チョイスがなぞだった。私が微妙な顔で見ているとジンも私の持っている本のタイトルにはっとした表情をする。
(ええと、なんでしょう)
ジンは気まずそうに顔を背けた。
二人で館内の机に向かい合って本を読む。ジンは意外と落ち着き払って片手で顎を支えながら読んでいた。もっとじっとしてられない性質かと思っていてごめんなさい。
『伝説の召喚士マシュリーの伝記』の内容は興味深いものだった。召喚術によって雲のはるか上(上層と呼ばれる空間には多くの魔神がひしめきあっていて互いを喰らいあって生きている)に住んでいる神を召喚儀式である舞を通じて下層…………我々の世界に降ろすのが召喚士の大きな役割であり、マシュリーがその召喚により旧イシュラルド王国の戦争を救い、現イシュラルド王国の建国に関わったと。
(ふむふむ。他国で自国のなりたちを知るなんて興味深いわ)
なかなか面白い本だった。借りてじっくり読めないのが悔やまれる。とりあえず必要そうな部分だけななめよみすることにした。
『契約……魂の結びつき。元素神の元素に染まる。従僕となる元素神の力を増幅する。対象の距離を縛る。およそ半径数十メートル。』
(なるほど)
『舞……戦巫女の舞、契約している従僕の攻撃力、会心率を一、五倍に増幅。舞のとり方は巻末図解に記載』
(これは……はげしいな)
かなり体力をもっていかれそうなステップだ。全身をつかって表現するらしい。
『召喚士のレベル……従僕の距離の拡大。増幅能力の拡大』
(特になにか覚えるってわけでもないんだ)
とりあえず私は舞うしかやることはないみたいだ。もっとがんがん攻撃したかったのに。
目頭を押しながら顔をあげるとジンは食い入るように自分の本を読んでいた。そんなに面白かったのだろうか。気になる。
図書館内に閉館を知らせるメロディーが流れ始めた。長居しすぎだ。
「ジン」
小さく声をかけるとジンは顔をあげた。
「ああ、いくか」
どことなく明るい声だった。




