十一話 妄想改め自称
頷いてしまったその結果、化け物体力と驚異的脚力を持つ童女に途中から引き摺られながら、丸一日かけて山中を行軍する事になろうとは思わず、俺はマジであの時の判断を後悔した。
一昼夜歩き通し——正直これが自分が疲れないのを良い事に、スカートを捲った事に対する仕返しのつもりなんじゃないかと思う——また日が暮れかかって来た頃ようやく目指す建物が見えて来た。
「着きましたよ! 占い師さん!」
歩きというか引き摺られ通しでヘロヘロのボロボロで返事も出来ない俺を置いて、聖女は山の岩肌に埋め込まれる様にして建造されている大きな教会へ駆けて行った。
礼拝堂を閉めようとでもしたのか外に出て来ていた者に何やら話しかけている。俺がノロノロと足を引き摺り追い付くと、聖女が大司教を出せと騒いでいた。
「あなたでは話になりません。大司教様に合わせて下さい。そうすれば私が聖女であるとお分かりになる筈です」
「……その様な事を言われましても」
「いいから出して下さい! この世界に異変が起こっているんです! 一刻を争う事態かも知れないんです早く!」
疲れ過ぎている俺が、自分は聖女だとゴリ押しで訴える子どもの姿をつい最近も見たな、とぼんやり眺めてデジャヴを感じていると、騒ぎに気付いたのか見なりの良い奴が教会裏手からやって来た。
「天使様の御前ですぞ。騒ぎなさるな」
「これは! 大司教様!」
ゆっくりと此方へ向かって来て穏やかに諭した老人は大司教と呼ばれた。
「何用ですかな、お嬢さん」
聖女の前まで来ると、大司教はやはり穏やかにそう聞いた。聖女は待っていたとばかりに話し出す。
「大司教様、遅れて申し訳ありません。てっきり教会から迎えがあると思っていたのでこんなに遅くなってしまいました。けれどご安心下さい。私が此方へ辿り着いたからには聖女の任をすぐにでも全うします。魔王の封印も、この世界の異変も全てこの私、聖女が必ず——」
「聖女? 何を仰っておられるのか……」
「……え?」
向かい合う老人と女児の間に沈黙が流れる。
長くなりそうだと途中から近くの岩に腰掛けてボーッとやり取りを眺めていた俺も、空気が変わった気がして段々意識がはっきりしてくる。
「……え? あの、私、聖女ですよ? 歴代の大司教様は聖女に宿る聖なる力を感じ取る力を有していらっしゃったと思うんですが……もしかして持ってらっしゃらない?」
「いやいや、その様なことは。大司教たる資格の一つには天使様へ祈りを捧げ続け、その御力の一端に触れる事で天使様の——」
「あ! あー! なるほど! お力が無い! だからですね。今世の私のイレギュラーは。聖女を探し出す能力をお持ちでないのに大司教になってしまったあなたが発端って事ですね!」
いやいや、とまだ話し続けようとする大司教を遮って、聖女がなるほど、と合点している。
何となくだがきちんと聞いておいた方が良いんじゃないかと思って俺は声を掛ける。
「おい、聖女、まだ司教が話して——」
が、やはり人の話を聞かない奴だ。
「分かりました、では証明します。私が聖女であると言う証、この身に授かった力の一端を」
聖女はそう言うと、真上に真っ直ぐに腕を伸ばした。
そしてピッと人差し指を立てて天を指差し、一旦腕ごと身体の真横に向けてから、ヒュッと素早く時計の針の様な動作で空に半円を描いた。
「天弓」
すると暮れかかった空にくっきりとした虹が掛かった。
「どうですか? お分かり頂けましたよね? では早速で——」
「いやいや」
力を示して得意げな聖女を、大司教はしかし尚も遮った。流石に聖女も話を聞く態勢になる。
「確かに素晴らしい御加護の力と思います。御加護をその身に受け生まれ落ち、自然の力を自在する者もこの世界にはごく少数ながらおりますが、その中でも稀に見るお力の強さ。その魂にさぞや善行をお積みなさったのでしょう」
「ええ、私は今も昔もずっと聖女ですから当然で——」
「しかしながら貴女様が有しているそれは聖なる力とは別の物。場合によっては誰しもがお与え頂ける天使様の加護の力に過ぎません」
「——え」
得意げだった聖女の顔から完全に笑みが消えて、俺の頭からも完全にぼんやりが消えた。
大司教は固まって動かなくなった聖女に続けて語る。
「よって、邪悪を打ち払い魔王を封印しうる聖なる力を持たない貴女様は、聖女様には成り得ません」
大司教の言葉に、聖女は元々デカい紫の目も言葉を無くした口も大きく開いて驚愕している。
そこへ、それに、と大司教が追い討ちをかけた。
「聖女様なら、18年前からもう既にいらっしゃいます」
その言葉に三拍くらい遅れて聖女がやっと言葉を発した。
「——はあぁぁぁああぁぁぁっ⁈」
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