十話 スカートの中身は夢と神秘と真実と
下から勢いよく捲られたスカートの裾が聖女の胸の高さでひらひらと波打って、覆い隠していた夢も神秘も何もかもが白日の下に晒された。
今まで見て来た白いアレ達を、てっきりクマさんでもプリントされた幼女仕様のアレだと思っていたが、間近でしっかり見たらちゃんとレースと刺繍の入った高そうなアレだった事に不覚にもドキッとした。
突然の事に状況が飲み込めないのか、時が止まってでもいる様に聖女は固まり声もあげない。
叫べ、と強く願っていると、スカートが元の場所に戻ろうと落下し始めた時にようやく聖女が叫んだ。
「——っきゃああぁぁぁああぁぁぁっ!」
「来たっ!」
普段あれだけ見せておいたわりに金切り声と呼ぶに相応しい叫び声を上げた聖女から、羞恥による屈辱や怒りなどのマイナスの感情が生み出され、魔力として変換されて俺の中に吸収された。
それにより予想よりも魔力が溜まったのを感じた俺は、聖女の前に出てゴーレムを正面に据える。
「これだけ溜まれば人形一匹くらい倒せるってもんだ」
俺は右手を差し出し、地面から数個の大きめの石を浮き上がらせて空中で一つに圧縮して組み合わせると、パキパキと余計な部分を削って先を尖らせていく。
「弱点丸見えだからな、外さなきゃ余裕だ」
鋭利に尖らせた礫塊でゴーレムのコア部分に狙いを定めて、射程圏内に入るのを集中して待つ。
あと一歩——今だ!
そう思った時、聖女がスッと横に立って右手を上げた。
「——なに……」
「ん?」
「——何してくれてんですかあぁぁぁっ!」
バッチィーーーーンッ
と怒りに任せた渾身の一撃を左頬に喰らった俺は、驚愕する事にその場に留まる事が叶わず宙に弾き飛ばされ、きりもみ回転しながら勢いそのまま向かってくるゴーレムに一直線に飛んでいって、丁度コア部分に脳天からぶち当たってめり込む形でそれを破壊した。
ズズゥン——と大きな音がして、俺の頭でコアを破壊されたゴーレムが地に沈んだ。
「最っ低です! 何てことするんですかぁっ! 戦うみたいな雰囲気出しといて、ス、スカート捲るとか本当に信じられないっ! どういうつもりですか! 最低っ!」
聖女が遠くで叫んでいるのを聞きながら、俺はよろめきつつもゴーレムにめり込んだ頭を何とか引き抜いた。頭と頬と首が猛烈に痛むが、大人一人を吹っ飛ばしてゴーレムを仕留めるだけの威力のビンタを食らって、生きているんだから魔族の生命力が恐ろしい。
頬と頭に受けたダメージでクラクラしているが、俺は聖女に言い返さずにはいられない。
「信じられないのはお前の方だっ! 俺が魔王じゃ無かったら死んでたぞ! 自分の膂力を考えてから行動しろ!」
「また自称してる! ビンタされる様な事をする方が悪いんじゃないですかぁっ! 謝罪するのが先でしょう!」
「散々見せて来たくせに、謝罪なんて今さらいらんだろうが! 寧ろお前が殺されかけた俺に謝罪しろ!」
「見せ——⁈ そんなはしたない事するわけないじゃないですか! 勝手に見たんじゃないですか⁈ 最低! さては私が寝てる間にも何かしたんじゃありません⁈」
「するかお前の様なロリに!」
「シマオの言う事なんて信じらんないですっ! なんであなたみたいな人をお供にしちゃったんでしょう……本当最低!」
ついさっきまで俺がいて良かっただなどと言っていた癖にどの口が——と思った時、俺の足の下で倒れていたゴーレムが動いた。
「——っ⁈」
身を起こすような素振りを見せたので、俺は痛みも忘れて激しく揺れ動く地面から慌てて飛び退いた。
ゴーレムは土煙を上げてググッと一旦身体を持ち上げた後、ガラガラと轟音を立てて崩れ落ち岩石と土塊の山に変わった。
急に動いて喫驚したが、もう人型を成さないゴーレムだった塊を見て俺はやっと息を吐く。
「シマオさん!」
怒っていた聖女も急に動いたゴーレムに驚いたのか駆け寄って来た。ただ微妙に俺と距離を取っている。
「……倒しました……よね?」
「ああ、もう動かないだろう」
聖女は崩れたゴーレムをじっと見ている。
「こんな物、1000年生きてきて初めて見ました。魔物ではない……と仰いましたね。天界の、天使様のお作りになった物だとも。何故そんな事知ってるんですか?」
「……堂々巡りになるだけの愚問だな。何度も言っているが俺が魔王だからだ」
聖女はムッと顔を顰めるが、風に表面を撫でられてサラサラと崩れて行く土の山に目を向けたままだった。
「シマオの言う事なんて信じませんよ」
じゃ聞くなよ、と言い返す前に、でも、と聖女が続けた。
「あなたが凄腕の占い師だって知ってるから、信じておきます。これは魔物じゃない、天使様に頂いた私の力が通じない、天使様のお力で生み出された人形」
聖女は苦しそうな顔をする。信じ崇拝してきた者に、裏切られた形なのだから無理もないだろう。暫し黙ってから、聖女は俺の方へ向いた。
「……天使様が何故この様な事をなさるのかはあなたにも分かりませんよね」
「ああ、それは不明だ」
「ならばやはり、このまま教会へ向かいます。歴史の改変、ゴーレムの暴挙、謎なことばかりです。天使様に何かがあったのかもしれません。教会へ向かって状況を確認します」
聖女の強い眼差しに射抜かれて、俺はビンタを謝らせる事も忘れて黙って頷いた。
ノロノロ
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