第二話 騒がしい後輩ep.3
「長良警部、川島刑事、お疲れ様です。」
個室に通された俺たちを向かえたのは、長良警部と川島刑事だった。
「では、早速どういうことかお伺いしてもいいですか?」
「ええ。その前に、解剖結果は出ましたか?」
「はい。詳しいデータはお見せできませんが、血中から睡眠薬の成分が検出されました。濃度的に亡くなる直前まで寝ていた可能性があるとのことでした。」
長良警部が鋭い眼光でこちらを見てくる。
「ありがとうございます。すでに、長良警部も『事故だけでは説明できない』とお気づきのようですね。結論から申し上げますと、諏訪のパーティーメンバーである梓川と松代、この二人が行った計画殺人である可能性が非常に高いです。」
「どういうことだよ、聡。その二人は死亡推定時刻に入口に居たって養老さんが言ってたじゃないか」
「ああ。その通りだ。だから、警察は事故と判断した」
「だろ?だったら、二人には無理じゃないか。」
「じゃあ、その死亡推定時刻が間違っていたら?」
川島刑事が机をたたき乗り上げてくる。
「おい、神坂!警察の検視官が死亡推定時間の計算を間違えたっていうのか?」
「いえ川島刑事、検視官の死亡推定時間の計算は間違っておりません。間違えたのは、遺体の前提条件です。」
「前提条件?」
川島刑事が椅子に座りなおしたことを確認し続ける。
「はいそうです。長良警部、検視官はどのように死亡推定時間を算出してますか?」
「その方の身長と体重から消失した部位と割合を見て算出しております。」
「では、初めから一部が欠損していた場合はどうなりますか?」
長良警部が立ち上がる。気が付いたようだ。
「たしかに、手足の先端が欠損した状態で亡くなった場合、死亡推定時刻は実際より前になってしまう。」
「ええ。そして、消失がある程度進めば、元から欠損したことなどわかりません。検視官が間違えたところで不思議ではないです」
ただ、これには証拠がない。あくまで、可能性があるという話だ。
「ここから先は、推理にも満たない話になりますが、まず初めに、諏訪、梓川、松代の三人は9時にダンジョンに潜りました。そこで、何かしらの理由をつけて諏訪に睡眠薬を飲ませるか何かをします。そして、二人は諏訪を放置し、自分たちは入口でアリバイを作ります。しばらくしたのちに、探しに行くふりをして諏訪の元に戻り、モンスターにその段階で殺されていた場合は、自分たちが入口に居る間にモンスターに殺されていますので、救助と称してそのまま連れて帰る予定であったと思います。しかし、そのようなことにはならなかった。なので、二人がダンジョン内にいない時間に殺されたことにしなくてはなりません。そこで、二人は、死亡した際に消失速度を実際より早く見せようと考えたのではないでしょうか。その方法は、私には一つしか思いつきません」
「それは?」
「簡単です。襲われる前に一番初めに消失する手足を、消失が始まる前に切断したんです。そして、諏訪をモンスターの前に運び、囮のように放置し襲わせたのでしょう。二人は遺体を放置し再び入口に戻った。それから、タイミングを計り救助要請を行う予定であったと思います。」
長良警部は少し考えこんでいる。
「ちょっと待ってくれ、神坂。たしかにそれであれば、死亡推定時間はずれるし、パーティーメンバー二人にも犯行は可能になる。だが、あくまでそれはお前の想像だ。証拠がない。」
「はい。川島刑事の言う通り、現在は直接犯行を示す証拠はありません。しかし、現状を示す証拠はあります。」
「なるほど。そのために司法解剖を私に依頼したんですね?」
「どういうことですか?警部」
「神坂さんの言った推理は、たしかに証拠はありません。しかし、それを行ったであろう痕跡はここにあります。」
長良警部が司法解剖の結果と思われる紙を揺らしている。
「少なくとも、被害者が事故で眠っていたとは考えにくい。睡眠薬が検出されたという事実は、事故説より神坂さんの推理を強く支持しています。とはいえ、直接犯行を示す証拠がありません。」
「ちなみに、その情報だけで捜索令状は取れますか?」
再び長良が考え込んだのち
「…おそらく、不可能ではないと思います。しかし何を探すのですか?」
「私の予想が正しければ、まだ犯人は被害者の手足を処分できていません。」
「どうしてだ?」
「そちらに関しては、私が説明しましょう。川島さんもご存じの通り、ダンジョンでモンスターに殺害された場合は、遺体は徐々に消失していきます。しかし、人によって殺害もしくは切断された部分に関しては、消失はしないことが確認されています。今回のケース、もし、犯人によって生きている間に手足を切断されているのであれば、切り落とされた手足が消失することはありません。逆に、死亡後に切断された場合は、切断されなかった場合と同じように、切断された手の先から消失すると以前報告が上がっていました。」
「それがどうしたというんですか?切り落とした手足が残る。それだけの話でしょう?」
長良の説明に川島が眉を顰める
「ええ。なので、犯人は切断した手足をダンジョンから持ち帰るしかありません。」
「はい。そして事件直後は、現場周辺、ましてや、同じパーティーメンバーとなれば、犯人がまだ自分は警戒されていると認識していてもおかしくありません。そうなると、まだ処分できずに所持している可能性が高いと思います。」
長良警部は俺の答えを聞くや否や
「川島さん、急いで松代と梓川の捜索差し押さえ令状を申請してください。」
「わ…わかりました!」
川島刑事が勢いよく立ち上がり走って部屋を出ていった。
「神坂さん、ありがとうございます。危うく事件を事故として処理するところでした。」
「まだ100%事件と決まったわけではありませんので。」
「いえ、事件の疑いがあることを見逃していた時点で警察として誤りでした。では、私も家宅捜索の準備がありますので、失礼いたします。」
頭を下げた長良警部が部屋から出ていく。
扉が閉まり、一瞬の静寂がおとずれる。
「…とられたっす!先輩に警察からのお礼を取られたっす!」
「みづきちゃん、まだそんなこと言ってんのか?」
「みづきのおかげで、違和感の正体に気が付けたんだ。ありがとな」
「えへへ…先輩にお礼言われたっす…って、違うっす!私が欲しいのは先輩からのお礼じゃないっす!警察からのお礼っす!あの長良って警部に断固抗議するっす!」
くそ。ごまかせなかったか。
「抗議するんだったら、また今度にするんだな。長良警部も川島刑事もこれから忙しくなるんだし。とりあえず、今日は帰るか。」
「ああ、そうだな。俺も疲れたよ。聡。」
「関先輩は何もしてないじゃないっすか!まあ、私は先輩の役に立ったっすけどね!」
喧嘩してこれ以上俺を疲れさせないでほしい。
警察署を後にした。




