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ダンジョン探偵  作者: 桜岡かなた
第二話 騒がしい後輩
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第二話 騒がしい後輩ep.2

ダンジョン入口はいつもと変わらない様子だ。

「お?神坂に関、恵那ちゃんか。珍しい組み合わせだな」

いつもの通り、養老さんが話しかけてくる。

「お久しぶりです。養老さん。三日ぶりですね」

「三日程度じゃ、ふつうは『久しぶり』なんて言わないんだよ。ところで、今日も潜るのか?四人で挑むのは珍しいじゃないか。四階層に行く決心でもしたか?」

「違うっす!養老さん!事件の話を聞きに来たっす!」

話に割り込んでくるな。

「事件?昼に起きた事故のことか?」

「違うっす!それは事故じゃなくて事件っす!」

「お?警察は事故って言っていた気がするが?事件なのか?」

「そうっす!事件っすよ!私の勘がそう言ってるっす!」

関が呆れたようにため息をつき、口を開いた。

「みづきちゃんが勝手に言ってるだけです。話を聞けば納得すると思うので、事故のことを適当に話してやってもらえませんか?」

関のその言葉に、みづきが文句を言いたそうにしているが、その前に養老さんが説明を始める。

「そうだな。まず、発見されたのは5階層らしい。発見したのは、たまたま近くを通りかかった探索者グループでな、腕なんかが消えかかってたから、事故だと思って被害者を負ぶってここに帰ってきたんだよ。」

「ソロで5階層に行くとなると、相当のベテランですよね?」

行き帰りを考えると、なかなかソロで行ける階層ではない。

「いや、被害者の諏訪は普段はパーティーに所属して潜ってたぞ?その日も普通にパーティーで入っていったしな。ただ、パーティーメンバーは一度、昼くらいに出てきてたな『諏訪とはぐれちまったから、先に出てきた』とか言ってたな。」

「はぐれた後に、モンスターに襲われて亡くなったってことですか?しかし、どうしてパーティーメンバーははぐれてしまったにもかかわらず、探しに行くなり、救援要請を出すなりをしなかったのでしょうか?」

「松代と梓川…諏訪のパーティメンバーなんだがな、そのあとに、二人は探しにダンジョンに潜っていったな。ただ、見つからなかったらしくて、二時間後くらいに戻ってきたが」

なるほど、話だけなら筋は通っている。

「じゃあ、その松代って人と、梓川って人が諏訪って人を殺したんじゃないっすか?」

「それは、警察も最初は疑っていたな。ただ、死亡推定時刻にその二人はここにいたんだよ。俺が見てたし、そこの監視カメラを警察が確認してるから間違いない。それに、死体の体が消失し始めているってことは、モンスターに殺されたのは間違いないからな。」

「そうでしたっけ?」

「お?関、知らんのか?モンスターに殺されると、ダンジョンに吸収されるが、人に殺されると、ダンジョンには吸収されないんだぞ?探索者なら知っておけよ?常識だぞ?」

それは、たしかに常識だ。なぜ関は知らないんだ。

「たしかに、それであれば事故と判断できますね。」

ただ、なんだ?何かが引っかかる。

「そのパーティーの人はすごく運がいいんすね!たまたま外にいた時間が、ちょうど亡くなった時間で、疑われなくて済んだっすから!」

被害者が亡くなった時間だけ二人は入口にいた。

…偶然、なのか?

「養老さん、ここから5階層まで片道何分くらいかかりますか?」

「そうだな…おおよそ30分くらいじゃないか?」

30分か…

「養老さん、諏訪、梓川、松代の三人がダンジョンに入った時間、梓川と松代が出てきた時間、諏訪を探しに二人が入った時間、そして、出てきた詳しい時間分かりますか?」

「お…おう。入退場記録だな。わかるぞ。ちょっと待ってろ」

養老さんがコンソールをたたき始めた。

「どうしたんだよ聡」

「いや、思い過ごしならいいんだ」

いや、思い過ごしで終わってくれれば、それが一番だ。

「先輩、やっぱり事件だったっすか?」

「いや、まだわからない。ただ…いや、何でもない」

もし、お昼に出てきたのが意図的だったら?再び入ったのは何のため?疑われないため?

「神坂、正確な時間だが、3人が入ったのはちょうど9時だ。そして、2人が出てきたのは11時18分、2人が入っていったのは12時46分、出てきたのは14時52分、遺体がここに運ばれてきたのは15時28分だ。」

長良警部は死亡推定時刻が、運ばれてきた時間から約3時間前と言っていた。

遺体がここに到着したのは15時28分。

となると、死亡推定時間は12時半頃。

2人がちょうどここにいた時間だ。

そして、逆に二人が5階層にいたと思われる時間は、一回目が9時半頃から10時45分頃と、二回目が13時15分頃から14時20分頃。

…きれいすぎる。

もし、警察の見立てが正しいのであれば、最初に逸れて以降、2人は諏訪に接触できなかったことになる。

しかし、ここまで都合よく辻褄が合うものだろうか?

…考えすぎか?本当にたまたまの可能性もある。

「養老さん、2人に変わったこととかありませんでしたか?」

「変わった様子といわれてもなぁ…特に、これと言ってなかったと思うが、強いて言うなら、時計をチラチラ見ていた気がするな。そんなに心配なら、探しに行けばいいのにと思ったからな。」

時計を気にしていた…

もし、諏訪を心配しているのであれば、時間を気にする前にすぐに助けに行くか、救助の要請を出すはずだ。

しかし、二人はここに残っていた。

「二人が口論していたとかありませんでしたか?」

「特に…いや、昼に出てきたときはそういった様子はなかったが、二回目に出てきたときは、口論までは行かないが、言い合っていたぞ。」

言い合い?

「内容は聞こえましたか?」

「ああ。結構大きい声だったからな。救助要請をする、しないで言い合っていたみたいだな。その言い合いの途中で運ばれてきたって感じだ。」

その時になって、ようやく救助要請を言い合う?

逸れてから4時間以上経過してから?

「おい、聡。何か気になるのか?どう聞いても事故だろこれ」

「なあ関、探索中にパーティーメンバーと逸れたらどうする?」

「そうだな…俺だったら、少し探して見つからなければ、すぐに入口に戻って救助要請を出すかな。」

それが普通だ。

「じゃあ、事前に『逸れたら地上に戻って合流』と決めてた場合はどうする?」

「それだったら、探した後に入口に戻って待つかな。」

「それで、なかなか戻ってこなかったらどうする?」

「そしたら、救助要請出すかな。」

そうだ。探して、待って、救助要請。これが普通だ。だが、二人は探して、待って、また探してから救助要請を考えていた。

どう考えても『二回目の捜索』が引っかかる。本当に必要だったのか?

パニックになっていたというならばわかるが、昼に戻ってきた際は言い合いをしていなかったという。二人がパニックになっていたとは考えにくい。

では、なぜ『二回目の捜索』に出た?

「聡、急に黙ってどうしたんだ?」

…いや、『二回目の探索』に行く必要はなんだ?

仮に、梓川と松代が諏訪を事故に見せかけて殺害したと仮定しよう。

いつ、諏訪を殺害したんだ?

もし一回目に潜った際に殺害しているのであれば、『二回目の探索』は不要になる。

…いや、証拠を残してしまったんだとすると、戻る必要があるか。

しかし、その場合気にするのは『時間』ではなく『持ち物』のはずだ。

では、二回目に潜った際に殺害しているのであれば、昼に戻ってきたことを『アリバイ工作』のためと考えられる。しかし、明らかに死亡推定時間と合わない。

「…おーい。聡?神坂聡さんやーい」

…関、うるさい。

発想を変えよう。

一回目に潜った際に、諏訪を行動不能にしてダンジョン内に放置し、モンスターに諏訪を殺害させた?

それであれば、時計を気にしているのも理解できる。

しかし、それであるならば、二回目に潜った際に諏訪の遺体を連れてくるべきだ。放置することは余計なリスクになる。

…やはり、思い過ごしで事故なのか?

「先輩、どうしたっすか?やっぱりこれは事件っすか?」

「…いや、何とも言えない。」

「なんなんっすか、先輩。煮え切らないっすね!ところで、養老さんは遺体見たっすか?」

「ああ。ちらっとだがな。両腕の八割と両足の太ももの半分から先が、吸収されて完全に消失してたな。」

両手両足がなかった…

…待てよ?

もし、消失する順序が狂わされていたら?

「それは間違いないですか?」

「ああ。間違いない。」

であるならば、警察が前提としている死亡推定時刻自体が間違っている可能性がある。

もし俺の仮定が正しければ、諏訪の遺体に何か残っている可能性がある。長良警部に電話で確認するのが先か。

「…長良警部、先ほどぶりです。神坂です。」

『神坂さん。どうかなさいましたか?』

「先ほどの事故に関してでございますが、殺人事件である可能性が出てきました。詳細につきましては、後程お会いしてお話ししますが、先に諏訪の遺体の検死解剖を行ってもらえませんでしょうか。」

『どういうことですか?と聞き返したいところですが、遺族の方に返す前でしたので、いいでしょう。特に調べてほしいことなどはありますか?』

「血液と外傷を重点的に調べてください。意識を失わせた可能性がないか確認していただきたいです。」

『わかりました。すぐ指示しておきます』

電話を切る。

「先輩!やっぱり事件だったすね?」

「いや、まだ事故の可能性はある。しかし、『誰にも犯行が不可能だから事故』という判断は誤っている可能性が高い。今ならまだ公表前だ。急いで、警察署に行こう。」

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