第二話 騒がしい後輩ep.1
「先輩!ずるいっす!私も警察からお礼言われたいっす!」
唐突なことを言いながら、みづきが俺の机をバンバンたたいている。
「みづきちゃん、警察からお礼言われたいって、いったい何をするんだ?ゴミ拾いでもするのか?」
「関先輩、そんなんでお礼言われたってうれしくないっす!私も事件解決してお礼言われたいっす!」
呆れた。小説や漫画みたいに、事件がそう都合よく転がっているものじゃない。
「事件なんて、そうそう起きるものじゃないだろ。俺も、たまたま巻き込まれただけだからな。」
「だったら、探してくるっす!」
みづきはダッシュで出ていった。せわしない奴だ。
「んで、どうするんだ?」
関が呆れた顔で覗き込んでくる
「どうするって何がだ?」
「みづきちゃん、絶対探し出すぞ?」
「さっきも言ったが、事件なんてなかなか起きるものじゃないぞ?」
「ああ。普通はそうだが、みづきちゃんなら絶対に何か持ってくるぞ?」
たしかに、関の言う通り、あいつなら草の根を分けてでも見つけてくるだろうな。
「持ってきたところで、警察が解決してくれるさ。俺たち一般人の出る幕もない。」
「だがいいけどな。まあ、頑張ってくれ」
呆れたように、関は前を向いた。
…そう簡単に起こってたまるか。
その日、みづきは学校を駆け回っていたらしい。
放課後になるころには、
「神坂、恵那が、『事件なんかないですか』って聞いて回ってるぞ。なんなんだあれは」
「神坂先輩、みづきちゃんが朝から事件事件って、何とかしてください」
とあちこちから苦情を言われた。
俺はみづきの保護者ではない。
翌日、さすがにあきらめたのか、苦情がなくなった。
ようやく、静かな日常が戻ってきた。
---というのは幻想だったようだ。
三日目の放課後。
教室の扉が勢いよく開いた。
「先輩!事件っす!事件見つけたっす!」
…さらばだ、俺の平穏な日常
「どうした?寝坊して今登校したのか?それは事件だな。先生に謝って来い。じゃ、俺は帰るからな。」
「一緒に謝りに行ってあげたいけど、これからゲームする予定だから。ごめんね、みづきちゃん」
「先輩たち、違うっす! 全っ然違うっす!あのダンジョンでまた人が死んだっす!だから、先輩たちも行くっす!」
みづきが、俺と関の腕をガシッとつかんで引っ張っていく。
「みづき、自分で解いて警察からお礼されたいんじゃなかったのか?」
「私じゃ事件解けないっすから、先輩たちを巻き込んで事件を解くっす!そうすれば、私もお礼されるっす!」
…何たるブラック企業の上司っぷり
「みづきちゃん、それって、聡に丸投げするってことだよな?」
「違うっす!私が事件を見つけてきたっす。そして、先輩が事件を解くっすから、共同捜査っす!」
「みづき、それは世間一般でいうところの『丸投げ』というんだ。」
下駄箱付近になりようやく腕が解放された。
「とりあえず、警察署に行くっす!」
「…みづきちゃん、俺も警察署に連れて行かれるのか?」
「…関先輩はいらないっすね。」
「ひどくない⁈ここまで引っ張って来ておいて、俺も行くからね?絶対行くから!」
関の奴、さっきまで俺にさりげなく丸投げしてたくせに、都合がいい奴め。
「みづき、ところで、事件ってどうな事件なんだ?」
「知らないっす。なんか、ダンジョンから死体が出たって話を聞いただけっすから」
「それじゃあ、事故かもしれないじゃん」
関の言うことは至極真っ当だ。
「関先輩は黙っててください。これは事件なんす!」
「何でそう言い切れるんだよ。」
「女の勘っす!」
…嫌な予感しかしない。
「おや?神坂さん、どうかなさったのですか?」
警察署に入ったタイミングで長良警部が声をかけてきた。
「刑事さん、ダンジョンで事件があったって聞いたっす!先輩が解くっすから、事件の資料をくださいっす!」
長良警部の笑顔が固まった。
さすが、みづきだ。冷静な長良警部を凍り付かせている。
「…神坂さん、こちらのお嬢さんは?」
「うっとうしくて申し訳ございません。私の後輩です。止めようとしたんですが、止めきれず…申し訳ないです。」
なんで、みづきのために頭を下げねばならないのか
「先輩違うっす!先輩の共同捜査員の恵那みづきっす!」
何を言っているんだ、このおバカな後輩は!
「で、横にいる方は?」
「俺は、関って言います。神坂の友人です。えーっと…神坂の付き添いですかね?」
何で、疑問形なんだ。お前は単なる野次馬だろうが!
「…皆さん、仲がよろしいんですね」
違う!長良警部、俺は被害者なんだ!あと、関とみづき、どや顔を決めてるんじゃない!
「しかし、恵那さん。先ほど、恵那さんがおっしゃっていた『事件』とは、お昼ごろにダンジョンから上がったご遺体のことをさしていますでしょうか?」
「そうっす!犯人はもう捕まったっすか?捕まってないなら、先輩がちゃちゃっと見つけるっすよ!」
みづきよ、さすがに、警察が捜査状況を口外するとは思えないんだが?
「その件でしたら、解決いたしました。後ほど、記者会見を開く予定なので、一足早くお伝えいたしますと、今回は事故でした。ダンジョン内の各パーティーへの聞き取りや入退場記録から、死亡推定時刻に現場付近に第三者はいなかったことが確認されました。 ですので、事件性はないとしております。」
「刑事さん、どうやって死亡推定時刻を出すんですか?」
「通常なら死後硬直や、直腸温度などから判断します。しかし今回は、ダンジョン内でしたので、遺体がダンジョンに吸収された場所と割合で算出しております。検視官の報告では、最初に消失が始まる両手足の先端から八割が消失しているということで、おおよそ3時間ほど経過していると判断したようですね。」
「へー。そうやって出してるんですね。ほら、みづきちゃん。事故だってさ。」
「…嫌っす」
「ん?なんだみづき」
「嫌っす!事故じゃ活躍できないっす!先輩!現場に行くっすよ!」
事件を望むな。それと、腕を引っ張るのもやめてくれ。腕がもげる。
「すみません、長良警部。説明ありがとうございました。」
長良警部、俺を憐れむような眼で見送るのをやめてもらいたい。




