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ダンジョン探偵  作者: 桜岡かなた
第一話 はじまりの事件
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5/12

第一話 はじまりの事件(5/6)

「では、もう一度、ナイフをご覧になってください。」

長良がまじまじとナイフを観察している。

「...なるほど」

やはりこの長良という刑事は鋭い

「ええ。すでに、大部分が乾いており、一部は袋の内部ではがれております。そこから、正確な時間は鑑識でなければわかりませんが、血液が付着してから約3時間は経過していると推測できます。」

「そうなると、このナイフに血液が着いたのは18時半ころ。遅くとも、19時ころと逆算できますね」

「長良刑事のおっしゃる通りです。」

「だったら、その時間にあいつを殺したんだろ?そして、俺たちが来るまであいつのそばにいた!」

部屋の角から男が叫んでくる。

「でしたら、遺体の状況がおかしいのです。もし、18時半に殺されたのであれば、運び出す際に血液がある程度固まっていなければおかしいのです。しかし、固まっていなかった。」

「だったら、お前が逃げている間にそのナイフの血が乾いたんだろ?」

男が続けざまに反論をしてくる。

「たしかに、ある程度は早く乾燥させることはできるでしょう。しかし、ご存じの通り、ダンジョン内の気温・湿度はどこもほぼ一定です。そこまで大きく乾燥時間を変えることはできません。」

「では、どういうことでしょうか?」

長良は首をかしげている。短借差でなければ、この違和感は気づきにくい。

「簡単ですよ、長良刑事。本当の凶器は別にあるということです。」

「別ですか?」

「はい。このナイフは、殺される前に被害者とともに、血をかけられたんです。」

「被害者とともにですか?しかし、現場にあった血液は鑑定で被害者本人の血のみとのことでしたよ?それに、遺体には致命傷となった首の傷以外目立った外傷はなかった。と検視官の報告が上がっています。どういうことでしょうか?」

「まっとうな疑問だと思います。長良刑事。それが、今回の事件をややこしくしている原因でもあります。」

ここからが正念場だ。

「被害者は2度に分けて出血したと考えれば、すべて説明がつきます。」

「2度ですか?」

「はい。1度目は何らかの方法、おそらく、殴打でしょう。で、被害者を気絶させたのち、血液を致死量ぎりぎりまで抜いたんです。そして、殴打痕と採血痕を回復スキルで治癒したのちに、被害者にかけたのです。その際に、このナイフも一緒に血を浴びた。と考えられます。」

「では、2度目というのは?」

「2度目に血を抜かれた。というよりも、被害者が失血したのは、私が被害者を発見してから、警察が来るまでの間。首を切られたことによる失血。これが原因で被害者の方は死亡したと思われます。こうすることにより、ナイフと遺体の血液についてつじつまが合います。」

「しかし、それはあくまで、つじつまが合う。というだけですよね。なぜ、犯人はわざわざ被害者の血を抜いて血をかける。などという行為を行ったのでしょうか?」

さすがにこれで納得してくれるほど甘くはないか。

「おそらく、犯人は勘違いをしていたのでしょう。」

「勘違いですか?」

「はい。それについては、後程説明いたします。以上のことから、このナイフは犯行に使われたナイフではない。と結論付けることができます。」

「ですが、それでは、一度現場を離れたあなたが再び戻って...いえ、それは彼の証言と矛盾しますね。彼が『警察が来るまで、ずっと被害者のそばにいた。』と証言しております。つまり、あなたは戻っていないことは間違いないですね。で、犯人がしていた勘違いとはなんでしょう?」

「まず、犯人の目的ですが、『自分以外の何かが被害者を殺すこと』です。すなわち、事件・事故問わず被害者が死亡することが目的だったのです。」

「それと、勘違いがどうつながるんですか?」

「犯人の最初の計画は、『被害者を気絶させ、モンスターに襲わせて事故死させる』計画だったと思われます。そのためには、モンスターを呼び寄せなくてはなりません。そこで、呼び寄せるために被害者に血をかけたんです。被害者が簡単に目が覚めないようにという目的と、本人の血なら、現場に残っていても不自然に見えない。という二つの目的で、本人の血を使用したんだと思います。」

「しかし、なぜそのような勘違いを犯人はしたのでしょうか?」

「それは、SNSで拡散された血を撒いてモンスターを集めているデマ動画の影響でしょう。それを信じてしまったんですよ。しかし、モンスターは一向に現れない。そこに私が被害者の方が倒れているところを目撃してしまった。」

「つまり、犯人にとっては、あなたはイレギュラーであったということですか?」

「おそらく、そうだと思います。犯人は、私にまだ生きている被害者を、見られたことにより焦ったと思います。そこで犯人は、被害者を目撃した私を犯人に仕立て上げた後に、被害者を殺害するという計画に変更したんだと思います。」

「しかし、人間の返り血を浴びた人物は発見されていませんが?それこそ、モンスターが被害者を殺害した可能性はありませんか?」

「返り血を浴びずに殺害する方法はいくつかありますが、一番簡単な方法は、背後から羽交い絞めをし、右手で首の左側、もしくは左手で首の右側を切ることで返り血を避けることができます。そして、モンスターによって殺された可能性はあり得ません。三階層のモンスターはすべてプラント型です。刃物で切ったような傷にはなりませんし、一か所しか傷がないというのもおかしいです。」

「ということは、被害者は、人間によって殺害されており、死亡推定時間はあなたが被害者を見たという19時半頃から、警察が到着する20時10分までの約40分間ということですね?そうしますと、犯行が可能であった人物は...」

「ま...待ってくれ!俺じゃない!そいつを追っかけていってから戻った時にはもう死んでたんだ!」

男は真っ青な顔で必死に抗弁している。

「わ...私でもないわ!」

女性も悲鳴のような声で叫んでいる。

「養老さん、聞きたいんですが、19時以降にダンジョンにいた人は何人ですか?」

「あ?お前とそこの二人、そして、被害者の4人だな。」

「ありがとうございます。では、通報を受けてからずっとここにいた警察の方はいらっしゃいますか?」

「あ、はい。私が残っていました」

男女横に立つ男性警官が答えた

「その間に、お手洗いに行かれた方はいますか?」

「いえ、誰もいませんでした」

「ありがとうございます。そうしますと、通報を受けた時間から推測しますと、犯行が可能であった人物は、ただ一人。あなたです。」

「ま...待ってくれ、俺はお前を追いかけていた!それに、こいつにだって可能だろ!」

「ち...違うわ!私じゃない!」

男女二人が慌て始める。

「ええ。たしかに、今までの推理では、お二人のどちらかである。ということまでしかわかりません。しかし...」

「あなたが私を追いかけたという事実によって、女性には犯行時間がほとんど残されていなかったんです」

「どういうことですか?」

「簡単です。時系列で考えればわかります。先ほどご説明した通り、私は被害者を19時30分ごろに発見しました。」

「ええ。おっしゃってましたね。」

「私が被害者の方に近づいたところで、お二人が現れます。そして、男性が私を追っかけてきました。」

「その時であれば、女性が殺すこともできたのではないですか?」

「ええ。一見できそうですが、現場から入口まで、モンスターとエンカウントしなかったとしても男性の足で15分はかかります。つまり、19時49分に通報するには、逆算して19時34分には遅くとも現場を離れなくてはなりません。そうなると、女性が犯行を行えた時間は19時30分から19時34分までの最大でもわずか4分間。犯行自体は不可能ではないでしょうが、極めて困難です。例え成功したとしても、手に付着した血痕を洗い落とす余裕がありません。いくら布でふき取ったとしても、被害者の首を切った側の手の爪や指に返り血による不自然な血痕が残ってしまうでしょう。しかし、女性の手指にはそのような血痕は確認されていません。そして、お手洗いに行っていないという証言から、ここについてから血痕を落としたとは考えいにくい。」

「つまり、女性は4分間しか単独行動ができず、その後、受付で通報し、警察と行動を共にしていた。痕跡を落とすには短すぎる時間です。」

「ええ。しかし、男性の方は違います。私を追跡したとおっしゃっておりますが、途中で引き返すこともできました。」

「なるほど、それであれば男性には、犯行も血痕処理も可能だったわけですね?しかし、神坂さん、あなたにも犯行が可能である。ということですよね?」

「はい。たしかに、犯行は可能です。しかし、私が犯人であれば、わざわざ血液を抜き、その痕跡を消し、再び血を浴びせるなどのリスクを負ってまで事故死に見せかける必要がありません。最初から首を切ればすむ話です。それに、そちらの男性の証言と食い違うと先ほど長良刑事もおっしゃってましたよね?」

「そうですね。ありがとうございます。十分です。ここからは、警察の仕事です。」

長良が警官に向かって指示する。

「男性を署まで同行させてください」

「まってくれ!だったらこいつも共犯だ!こいつが、血を抜いて回復スキルを使ったんだからな!」

男が顔を真っ赤にして、長良に食って掛かっている。

---終わった。

俺は確信した。俺の推理そのものではなく、「共犯者がいる」と反論した。

「違います!私は、この人に脅されただけです!信じてください!刑事さん!」

真っ青な顔をした女は、男を指さしながら絶叫している。

「今、あなた方は、神坂さんの推理を否定するのではなく、共犯者の存在を主張した。つまり、殺人そのものは認めるんですね。」

その言葉を聞いた男の顔は、赤色だったものが青色へと、

女は膝から崩れ落ち、顔は絶望へと変わっていくのが見えた。これで事件は終わった。少なくとも俺の役目は。

動機なんかは警察のほうで調べるだろう。

「長良刑事、犯人も分かったので、私は帰宅してもよろしいでしょうか?」

長良は少し考えこんでから

「実際は、あなたにも署に来ていただきたいのですが、学生を遅くまで拘束するわけにもいきませんね。大丈夫ですよ。よろしければ、神坂さんのご自宅まで送らせていただいてもよろしいでしょうか?」

探索から逃走。想定外が多く、疲れている。渡りに船だろう。

「お願いしてもよろしいですか?」

警官に連れられて、セダン型の車に乗り込む。

「本日はありがとうございました。今日の推理には、こちらも助けられました。」

運転席に座った長良が話しかけてくる。

「いえ、こちらこそ送っていただきありがとうございます。」

「明日の放課後で結構ですので、警察署まで来ていただけると助かります。」

「わかりました。明日の放課後お伺いいたします。ここらへんで大丈夫ですよ。」

「そうですか。ではまた明日。お待ちしておりますよ」

車を降りて、車が走り去るのを見送る。

静まり返った家に入ると、疲れがどっと押し寄せてきた。

探索からの逃走、頭脳戦とか、次からは勘弁してほしいものだ。

ベッドに倒れこむように、俺は眠りの深淵へと落ちていった。

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