無人駅の地下迷宮、攻略開始!
深夜。神奈川の郊外に位置する、街灯すら疎らな無人駅。
かつて女子高生の依頼で「除菌シート」を振るったあの場所には、以前とは比べものにならない濃密な死気が漂っていた。
「魔王様、トイレの鏡にあった紋章……これにございますな」
アイゼンが光る棒で照らしたのは、古びた鏡に刻まれた『黒い太陽』の刻印だ。
それはまるで、空間に空いた「穴」のように周囲の光を吸い込んでいた。
「ふん……。現代の魔術師共め。公共の施設を勝手に改造するなど、固定資産税の概念がないのか?」
俺は懐から、ダイソーで買い込んできた『大型の強力懐中電灯(LED)』を取り出した。
魔力は使えずとも、現代の科学光は闇を暴くのに十分だ。
「アイゼン、その鏡を『物理的』に開くぞ。衝撃吸収マットを敷け!」
「御意ィッ!」
アイゼンが手際よく作業を進める中、俺は鏡の奥に手を伸ばした。
壁があるはずの場所に、粘り気のある闇の空間が広がっている。
どうやら、現代社会の歪みが溜まりやすいこの無人駅の地下に、組織『日食』は人工的な魔力貯蔵庫——地下迷宮を構築したらしい。
「行くぞ。家賃の元を取るまでは、この街を壊させはせん」
闇の中へ足を踏み入れると、そこは駅の構造を模した異様な地下空間だった。
コンクリートの壁には、人々の「愚痴」や「恨み言」が電子的なノイズとなって走り、這いずり回る『ネットの誹謗中傷』が、俺たちの足を狙って噛み付いてくる。
「魔王様、この敵……。実体がなく、通常の物理攻撃が通りませぬ!」
アイゼンが光る棒を振り回すが、ワームたちはそれを透過して迫ってくる。
現代人の負の言葉から生まれた怪異には、鋼の剣も筋肉も通用しない。
「案ずるなアイゼン。言葉の刃には、言葉の盾を。……これを使え!」
俺はカゴの中から、大量の『ホワイトボード』と『油性マジック』を取り出した。
そして、ボードに力強く一言書き殴る。
【※この先、立ち入り禁止】
それを掲げた瞬間、ワームたちがピタリと動きを止めた。
奴らは現代社会の「ルール」や「同調圧力」を基盤に存在する怪異。
ならば、より強力な『命令』という概念こそが、奴らを縛る最強の呪縛となるのだ。
「な、なるほど……! 現代人のコンプライアンス意識を利用するとは、さすが魔王様!」
「ふはは! さらにはこれだ! 【※誹謗中傷は開示請求します】」
俺が次々と『魔法(物理的な警告)』を書き記していくと、地下の闇は見る間に後退していった。
迷宮の最深部——。
そこには、巨大なサーバーラックのような装置が、二つ目の『聖剣の欠片』を核にして稼働していた。
「……ようやく来たか。想定より十分早い到着だ」
装置の前に立っていたのは、あの『日食』の眼鏡の女ではなかった。
白衣を纏い、無機質な瞳をした一人の男。
「私は『日食』の研究主任。魔王ザルヴァス……貴方が『魔法』を失った本当の理由、興味はありませんか?」
男の言葉に、俺の足が止まった。
この世界の「邪悪」は、ただのゴミ掃除では終わらない深淵を覗かせようとしていた。




