激突、湾岸の粗大ゴミ!
「ギ、ギギギ……アアアアッ!!」
巨大な肉塊から生えた無数の腕が、倉庫の鉄骨を飴細工のように捻り曲げる。
現代人の「見栄」や「嫉妬」を養分にした怪異『エゴ・クラスター』。その中心部には、黒く染まった『聖剣の欠片』が心臓のように拍動していた。
「魔王様、あれは……! かつて貴方様を貫いた、勇者の……!」
「ああ、間違いない。だが、聖なる輝きは失われ、ただの呪いの触媒に成り果てているようだな」
俺は手に持った『光る棒』を強く握りしめた。
かつての俺なら、指先一つでこの程度のゴミは消滅させていた。だが今の俺には魔力がない。あるのは、百円ショップの備品と、交通整理で鍛えたアイゼンの筋肉だけだ。
「アイゼン、突っ込め! 我が道を切り拓く!」
「御意ィィ!!」
アイゼンが黄色い反射ベストを翻し、猛然とダッシュする。
巨大な腕が振り下ろされるが、彼は日々の現場で培った「卓越した危険予知」で、ミリ単位の回避を見せる。
「そこだ、魔王様!」
「よくやった!」
アイゼンの肩を跳躍台にし、俺は高く舞い上がった。
狙うは核——聖剣の欠片。
だが、怪異が放つ漆黒の衝撃波が、俺の体を空中で捉えた。
「ぐっ……!?」
床に叩きつけられる。魔法のバリアがない体には、ただの衝撃が重く響く。
「……はは、笑わせる。この程度の痛みで、我が屈すると思ったか?」
俺は口端の血を拭い、立ち上がった。
そして、懐から取り出したのは、ダイソーのキッチンコーナーで買った『超強力マグネット』と、業務用の『太い結束バンド』だ。
「アイゼン! あれを使うぞ!」
「はっ、例の『合体奥義』ですね!」
俺はアイゼンの光る棒にマグネットを結束バンドで固定し、磁力を帯びた「疑似魔力伝導体」を作り上げた。
磁力——それは現代科学における、魔法に最も近い力の一つ。
「聴け、無念の塊よ。貴様らを生み出したのは人間だが、その魂を裁くのはこの我だ!」
俺はアイゼンが投げ飛ばした『磁気強化・光る棒』を空中でキャッチし、そのまま聖剣の欠片へと突き立てた。
「——魔王流・強制清掃!!」
強力な磁場が、聖剣に溜まった呪いのエネルギーを逆流させる。
黒い霧が引き剥がされ、倉庫の中に一瞬だけ、かつての王宮のような神々しい光が溢れた。
『ガ……ア……ッ……!?』
肉塊が内側から弾け飛び、最後には、一本の煤けた小さな鉄の破片だけが床に転がった。
「……ふぅ。大掃除完了、といったところか」
静まり返った倉庫に、パチ、パチ、と乾いた拍手が響いた。
扉の影から現れたのは、先ほどの眼鏡の女——『日食』のスカウトマンだ。
「素晴らしいわ。まさか本当に、あのレベルのノイズを退治するなんて。……さあ、約束の報酬よ」
女が差し出したアタッシュケースの中には、整然と並んだ一万円札の束。
五十万円。俺たちがどれだけポイ活をしても届かなかった、圧倒的な「現実」がそこにあった。
「これで契約成立ね。明日から、我々のエージェントとして——」
「勘違いするな」
俺はアタッシュケースを奪い取ると、冷たく言い放った。
「これは今回の『清掃代行費用』だ。貴様らの軍門に下ったわけではない。……アイゼン、帰るぞ。今日は牛丼の特盛だ」
「はっ! 卵も付けてよろしいでしょうか!」
女の凍りついた視線を背中に受けながら、俺たちは夜の海風の中を歩き出した。
手に入れた大金。だが、俺のポケットの中にある『聖剣の欠片』が、不吉な熱を帯びているのを俺は見逃さなかった。
現代社会の闇は、まだ始まったばかりだ。




