魔王、怪しい勧誘(スカウト)を受ける
「……面接、だと?」
新宿の喫茶店。俺——佐藤ゼンこと魔王ザルヴァスは、困惑していた。
目の前に座るのは、仕立ての良いスーツに身を包み、冷徹な光を宿した眼鏡の女だ。
「ええ。貴方たちの『除霊』の手際、拝見しました。公式には存在しないはずの怪異を、あんな……その、掃除用具で処理するなんて。実に興味深いわ」
女は名刺を差し出した。そこには『一般社団法人・日食』と記されている。先日届いたメッセージの主だ。
「我々は、この街の『淀み』を管理する組織です。佐藤さん、貴方のその能力を、我々の下で振るってみませんか? 報酬は今の百倍、社会的な地位も保証しましょう」
百倍。
その言葉に、隣にいたアイゼンの肩がビクリと跳ねた。今の収入が「うまい棒」や「おにぎり」であることを考えれば、それは国家予算にも等しい輝きを放っている。
だが、俺は女の背後に漂う、あの「異質な邪悪」と同じ臭いに気づいていた。
この女、あるいはこの組織。人々の負の感情を『管理』すると言いながら、その実、それを育てているのではないか?
「断る。我は誰の下にもつかぬ。この世界を統べるのは、唯一無二、この我だけだ」
「……ふふ、面白い冗談。でも、今の貴方はただの『無職の不審者』よ? 家賃、滞納しているでしょう?」
図星だった。なぜそれを知っている。
女は勝ち誇ったように微笑み、一枚の地図を机に置いた。
「これがテストよ。港区の湾岸エリアにある、放棄された倉庫。そこに溜まった『重い淀み』を掃除できたら、もう一度話を聞いてあげる。報酬は、現金で五十万用意するわ」
女は風のように去っていった。
残されたのは、一枚の地図と、五万の高価そうなコーヒーの伝票。
「……アイゼン、カネはあるか?」
「魔王様、先日の千円しかございません。……逃げましょう」
俺たちは情けなくも喫茶店を脱走(転移魔法があればスマートだったのだが!)し、指定された湾岸エリアへと向かった。
深夜の埋立地。海風が潮の香りと共に、強烈な「死」の臭いを運んでくる。
倉庫の扉を開けた瞬間、そこにあったのは、これまで退治してきた『ストレス・レイス』とは比較にならない巨大な異形だった。
数多の腕が生え、現代人の虚栄心と嫉妬が固まったような巨大な肉塊。
そして、その肉塊の奥には、俺たちがかつて封印された時に見た『聖剣の欠片』が、禍々しく黒く光っていた。
「アイゼン……どうやら、ただの掃除では済まぬようだぞ」
「はっ。ダイソーの在庫、すべて使い切る覚悟で参ります!」
魔王軍と謎の組織、そして失われた聖剣。
新宿の片隅で始めた小さな「何でも屋」は、いつの間にか世界の命運を左右する渦中へと足を踏み入れていた。
「五十万……必ず毟り取ってくれるわ!」
魔王は、光る棒(新品)を抜き放ち、巨大な闇へと突撃した。




