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何でも屋を開業する魔王  作者: ラーメン四郎


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3/14

ブラック企業の怨念をコロコロせよ

「ううっ……もう無理だ……。終わらない、修正が終わらないんだ……」

 ビルの前でうなだれる若者の背後には、黒い霧のような怪異がうごめいていた。

 それはかつての魔界の住人ではない。蓄積された疲労、罵倒、そして絶望——現代社会が生み出した負のエネルギー体『ストレス・レイス』だ。

「おい、人間。貴様の背後に不気味なナメクジが憑いているぞ」

 俺の声に、若者が力なく顔を上げた。

「……え? 誰ですか、あなたたち。コスプレ……? 悪いけど、今それどころじゃ……」

「アイゼン、押さえろ」

「はっ!」

 アイゼンが交通整理で鍛えた屈強な腕で、若者の体をがっしりと固定する。

「な、何!? 怖い! 警察呼びますよ!?」

「案ずるな人間。貴様の魂を食らっているのは、その背中のゴミだ」

 俺は先ほどダイソーで購入したばかりの武器——『強粘着コロコロ』を構えた。

 魔力は使えぬ。だが、俺のソウルに宿る支配者の矜持は失われていない。

「フンッ!」

 鋭い踏み込みと共に、若者の背中へコロコロを走らせる。

 粘着テープの表面が怪異の「闇」に触れた瞬間、バリバリと激しい音が響いた。

『ギ、ギシャアアアアッ!?』

 怪異が悲鳴を上げる。

 この『ストレス・レイス』は、実体を持たない精神的な汚れだ。ならば、物理的に「引き剥がして掃除する」のが最も効率的なはず。

「ほう、この粘着力。魔法の拘束術式バインドにも劣らぬな! ハハハ、逃さぬぞ!」

 俺は無我夢中でコロコロを回転させた。

 テープが黒く染まるたびに一枚めくり、常に最大火力の粘着面を叩きつける。

「これで……トドメだ!」

 最後に、アイゼンが持っていた『光る棒』を怪異の核に突き立てる!

 魔力はないが、アイゼンが日々交通整理で込めた「安全第一」という強い願い(念)が、負のエネルギーを浄化していく。

『……オ疲れ様……デス……ッ!』

 怪異は最期の言葉を残し、霧となって消滅した。

「……あれ? 体が、軽い……」

 若者が呆然と立ち尽くす。その表情からどす黒いくまが消え、瞳に光が戻っていた。

「……ありがとうございました。なんだか、急に吹っ切れた気がします。僕、もうあんな会社辞めます。自分の人生、もっと大事にします!」

 若者は深々と頭を下げ、どこか清々しい足取りで去っていった。

 その場に残されたのは、真っ黒になった粘着テープの残骸と、俺たちだけだった。

「魔王様、見事な退治でした。……ですが」

「わかっている、アイゼン。……一銭にもならなかったな」

 そうなのだ。

 俺たちは勝手に助け、勝手に満足してしまった。これではただのボランティアだ。

「次からは、まず契約書を交わすぞ。……アイゼン、残ったdポイントで、一番安いパンを買ってこい。今日の晩餐だ」

 魔王軍の初陣。戦果は「若者の再出発」、報酬は「なし」。

 俺たちの現代征服への道は、想像以上に険しいようだった。

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