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何でも屋を開業する魔王  作者: ラーメン四郎


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11/14

魔王、領土(アパート)の格上げを画策する

地下迷宮での一件から一週間。

 俺たち『万事屋・マオウ』の手元には、組織『日食』から毟り取った五十万円の残金と、平和な日常が戻っていた。

「アイゼンよ。我はこの『魔王城(築40年アパート)』の防衛力に不安を感じている」

 俺は畳の上で、入居時に備え付けられていた古びたエアコンを見上げた。

 この灼熱の現代日本において、異音を発しながら微風しか出さないこの機械は、もはや魔王に対する暗殺兵器に等しい。

「左様でございますな。先日も隣室の住人から『壁を叩く音がうるさい』と苦情(宣戦布告)を受けました。我らの軍事機密が漏洩する恐れもございます」

 アイゼンが言う「軍事機密」とは、俺が深夜にこっそり練習しているスマホのフリック入力の音のことだろう。

「よし、決めたぞ。我らは拠点を移す。……もっとセキュリティの強固な、そう、あの『おーとろっく』という魔法障壁を備えた城へだ!」

 俺たちは意気揚々と近所の不動産屋へ乗り込んだ。

 だが、そこで俺たちは現代社会の「真の結界」に阻まれることになる。

「えーと、佐藤様。……失礼ですが、御職業は?」

「万事屋だ。この街の淀みを払い、秩序を守っている」

「……自営業、ということですね。では、直近三ヶ月の収支報告書、または確定申告の控えなどは……」

 カクテイシンコク。

 その言葉が出た瞬間、俺とアイゼンは石化した。

 この世界では、どれほど強大な怪異をコロコロで駆逐しようとも、紙切れ一枚の証明がなければ「信用」という名の通行証は得られないのだ。

「魔王様、やはりこの世界の『役所』というダンジョンを攻略せねば、真の支配は叶わぬようです……」

「くっ、よもやこれほどの鉄壁とは……」

 肩を落としてアパートへ帰る途中、俺たちは階段の踊り場で、一人の男とすれ違った。

 灰色のパーカーを深く被り、顔が見えない。だが、その男が通り過ぎた瞬間、懐にある『聖剣の欠片』がキィィィィンと鋭く共鳴した。

「……待て」

 俺が声をかけるより早く、男は風のような速さで階段を駆け上がっていった。

 アイゼンと顔を見合わせ、即座に追う。

 男が逃げ込んだのは、俺たちの部屋のちょうど真上。空室のはずの303号室だった。

「アイゼン、構えろ。……ただの人間ではないぞ」

 俺が光る棒(タクティカル・ライト仕様)を構え、扉を蹴り開けようとしたその時。

 中から、妙に明るい声が響いた。

「あー、お隣さん? 引っ越しの挨拶なら、今忙しいから後にしてもらえるかな。……ちょうど、この『呪いの動画』を編集しなきゃいけないんだよね」

 扉がわずかに開き、中から漏れてきたのは、無数の液晶画面が放つ不気味な紫色の光。

 そして、部屋中に貼り巡らされた、お札のような……いや、よく見ると『QRコード』が印刷された大量の紙だった。

 現代の魔王(候補)の頭上に、新たな敵——「デジタル世代の呪術師」の影が忍び寄っていた。

「……アイゼン、引っ越しはやめだ。このアパートの防衛を優先するぞ」

「御意。……ところで魔王様、晩御飯のdポイントが、あと7ポイントしかございません」

 家賃は払えても、日々の食費に苦しむ。

 魔王の「格」が上がっても、生活レベルが上がるには、まだまだ時間がかかりそうだった。

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