エピソード23
真夏の日差しに照らされ汗を掻きながら家に帰ると、またもや母さんが俺を出迎えた。真昼間から何故家にいるのか尋ねる間もなく、向こうから玄関口に飛んできた。
「聞いたか優太朗! りんちゃんの意識が戻ったみたい!」
玄関で靴を脱ぎかけていた足が思わず止まる。片方靴下のままの状態で俺は即座に母親を見返した。
「ほんと!?」
「嘘言ってどうするの! まだ面会はできないみたいだけど、命に別状はないって、恵から連絡が来たの!」
それを聞いた瞬間、胸でつかえていた重いものが一気に溶けてなくなっていくような気がした。凜奈は大丈夫だ。熱中症でふらふらしたぐらいで、どうってことないんだ!
病院には凜奈の母さんである恵さんが付きっきりで居たらしい。きっと、意識が回復してすぐに俺の母さんに連絡を寄越したのだろう。
どっと肩の力が抜ける。もしも、考えたくもないが。もしもあのまま凜奈が目を覚まさなかったとしたら……
考えかけて震えが奔り、一人首を振る。そんなことは本当に想像することさえ堪えられなかった。
「よかった……」
思わず呟いてしまうと、母さんが耳聡く俺の言葉を拾った。
「なーんだ、あんただってりんちゃんのことが心配でたまらなかったんじゃない。そう思えるってことは、りんちゃんに受けた恩を忘れてないみたいね」
俺は脱ぎ損ねたもう片方の靴を脱ぎ、床に上がった。母さんの台詞は快い物言いではなかったが、それでも前のようにかっかすることはなかった。むしろ凜奈に対しても、以前の確執を少しの間忘れて接することができそうな気さえした。
「ねえ、前に言ってた夏休みに凜奈達と旅行に行くって話」
「うん?」
「俺は、別に構わないよ」
言って、廊下を歩き出す。母さんは、まだ玄関の方で立ち尽くしたままぽかんとしてた。それから、去っていく俺に当てつけるみたいにわざと大きな声で呟いていた。
「やれやれ、ちょっとはいい薬になったみたいね」
階段を上りながら思う。やっぱり、もう一度凜奈と向き合おう。例えどんなにそう思おうとしても、俺にとってやっぱり欠かすことはできなかった。心配で心配でたまらなかった。
俺はなんて馬鹿なことを言ったんだって死ぬほど後悔した。意識が回復したと聞いて、心の底からほっとした。
自分の部屋のドアを開ける。ベッド。勉強机。床。勝手にベッドに横たわっていた凜奈。仕方なく勉強机に腰かける俺。漫画を本棚から引っ張り出して床に転がって読まれたこともあった。
床は汚いと言っても、「なら掃除しといてよ」とどこかずれたことを返す凜奈。
あの時のように戻りたいとか、まだそういう風に思ったわけじゃない。けれど……
俺は自分が傷つくことばかり気にして、凜奈が傷ついているなどとはすっかり思ってもみなかった。でも、違ったのだ。凜奈にだって想っていることがあったのだと、今は思える。
だから、もう一度。ちゃんと凜奈と向かい合ってみようと思う。




