エピソード22
朝のホームルームでは、流れた社会のテストをいつやるだとか、特別日課に対する細かい説明だとか、先生が言ったことはそんなようなことばかりだった。だがホームルームが終わる直前、先生は皆を見回して一旦言葉を切った。まるで言葉の重みを溜めてるみたいに。それから、噛んで含めるようにしてしゃべった。
「それと、暑いから水分補給は必ず忘れないこと」
目を細めてクラスを見回す先生の視線が、ほんの少し、俺の上で止まったような気がした。が、すぐに視線は俺の上を滑るように通過し全体へと行き渡った。
「必ずだぞ!」
午前中ですべての授業が終わり帰り支度をしていると、明香が再びやって来て尋ねてきた。
「今日、どうする?」
「パスだ。ちょっと、な」
素直に気分が乗らないと言ってもよかったが、それだと何だか明香に悪いような気がした。すると、明香は眉と声を潜めた。
「八武崎さんのこと?」
「な、なんで知ってんだ!?」
心情的には割と正解で、しかもいきなり凜奈の名前が明香の口から出たので俺は思わず声をあげてしまった。咎めるような目をして明香は言った。
「あんまり大きな声で話す内容じゃないでしょ」
「わ、わるい」
「八武崎さんが熱中症で倒れたのは知ってるよ。お見舞いにでも行くの?」
どうやら、凜奈が倒れたという事実は広まり始めているらしい。しかし、未だ昏睡状態にあると言うのは想像の埒外らしく、明香の口振りからするに皆は保健室に運ばれたことぐらいまでしか知らないらしい。
「そう、そんなところだ」
正確には全然違うが、気持ち的には割と当たっていたのでそんな風な言葉でお茶を濁すと、何故だか明香は俯いた。
「そう……」
俯くと、目元に前髪がかかり、彼女の表情が隠れた。何故だか気分が落ち着かなくて、俺は鞄を手に取った。
「またな」
言うが早いか、教室を後にする。教室を横切っている途中、陸山と目が合った。
「じゃあな、陸山」
だが陸山は返事をせず、瞬きを一つ返しただけだった。奴にしては、妙な反応だった。




