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エピソード18 続々

 残りのテストは結局延期となり、数日後に改めてまた行うと言う結果になった。もう午前中で授業が終わる特殊日程週間に入るので、負担も少なくて悪い話ではない。ホームルームでそんな伝達をされたあと、不意に先生が俺一人を名指しした。

「それと七瀬はこの後俺と一緒にちょっと来い」

「え?」

 あまりにも唐突な指名だったので、俺はあっけにとられてしまった。何かやらかしただろうか。遠くから陸山が面白がるような視線を投げてきた。


 ホームルームが終わると、この後遊びに行く予定だった明香と陸山がやってきた。

「優太朗くん、何か悪いことしたの?」

「身に覚えはない。それより、行かなきゃならないからちょっと待ってて」

「そのまま長時間の説教だった場合は?」

 茶化す陸山を睨む。

「そんなわけないから、無用な心配だ」

 それから、先生が教室の前方で俺を呼ぶのですぐに行かなければならなかった。その顔は少し深刻そうで、俺は本当に悪さをしていただろうかと心配しなければならなかった。


 廊下を先生の後に付いて歩く途中で、話は始まった。

「1組の八武崎は、確かお前の家の近くだろう」

 その瞬間、身が硬く強張った。

「ええ、そうですが」

 声まで硬くなる。先生は構わず先を続けた。

「テスト中に八武崎が倒れてな。軽い熱中症で」

「ええ!?」

 倒れたのは凜奈だったのか。俺は思わず足を止めそうになりながらも、先生の後について歩き続けた。

「それでどうなったんですか!?」

 すると先生は少し苦笑した。

「大丈夫だよ。すぐに症状は回復して、今は保健室で休んでいる」

 思わずほっとする。そうか、何事もなくてよかった…………じゃない。凜奈がどうなろうが、俺にはもう関係がなかったんじゃないのか。そこで、ふと俺は廊下を歩きながら、先生が保健室の方へ向かっていることに気が付いた。なんだか変な予感がする。

「それで、いくら症状が回復したとは言え、八武崎を一人で帰らせるのは危険だと判断してな」

 まさか。俺は自分の呼吸が浅くなるのを感じた。保健室の扉が見えてくる。

「七瀬に家まで一緒に付き添って欲しいんだよ。お前ら、よく知った仲なんだろう?」

 保健室に入ると、保健の先生と1組の担任の先生がいて、ベッドに凜奈が上半身を起こしてかけていた。丁度俺と同じ説明を受けたばかりなのか、部屋に入って来た先生と俺を見て凜奈は目を丸くした。


「優太朗……」

「凜奈……」

 凜奈の目は信じられないものを見たように大きく見開かれていた。久しぶりに直視する凜奈は、病人扱いされているせいか、以前より痩せて頬も痩けたように見える。俺も凜奈も、金縛りに遭ったように身動きがとれなくなった。

「と言うわけで八武崎さん、彼と一緒なら歩いて下校しても大丈夫ですよ」

 最初に口を開いたのは保健の先生だった。それを皮切りに、硬直していた時間が動き出す。先に目を伏せたのは凜奈だった。

 凜奈の近くに立っていた1組の担任の先生も言う。

「彼なら構わないだろう?」

 凜奈は相変わらず俯いている。以前より伸びた黒髪が、俯いた彼女の顔を覆って表情を隠している。俺は黙ったまま何も言わない凜奈を見て、自然と拳を握っていた。

 凜奈が何も言わないことにより、事態がまた硬直する。先生達が戸惑ったように俺と凜奈を交互に見返した。数秒、また数秒。耐えられなくなって、気づけば俺は勝手に口を開いていた。

「大丈夫なんだろう、凜奈」

 自分でもびっくりするほど低い声が出た。凜奈がはっと顔をあげてこちらを向く。声は、俺のものじゃないみたいに転がり出続けた。

「独りで帰れるだろう。俺だって陸山や明香と予定があるんだ。大事に大事を重ねて取ったお前に付き添うほど、暇じゃないんだ」

「おい七瀬!」

 3組の、つまり俺の担任の先生が非難するような声をあげた。だが、俺の腹の底にたまった黒い部分から出る声は、決して止まらなかった。

「別に、彼女に付き合うのを強制されてるわけじゃないでしょう。でしたら、ボランティアは別の人に頼んで下さい。俺には無理です」

 くるりと踵を返す。最後に見た凜奈の瞳は、相変わらず目いっぱいまで見開かれていた。そこにある全ての言葉を受け止めようとしているみたいに。 保健室を出ようとすると、

「優太朗!」

 凜奈から声がかかった。ぴたりと足が止まる。それから、絞り出すようにして凜奈は言った。

「ごめん……」

 俺は、保健室を後にした。

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