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エピソード14

 梅雨が明けるとじめじめとした湿気は完全に消え去り、代わりにからっと青天が続く真夏日がやってきた。気温は高く、暦の上では7月に入っている。中体連を勝ち進んだ部活は、この真夏日の中試合に精を出し、そうでない俺達はそろそろ本格的に受験を意識してくる時節となったのであった。

 窓際に位置しているこの席は、春の間はぽかぽかと温かいが、夏だと直射日光が差し込んできてとても耐えられない。カーテンを引きたいと思うところだが、それだと全開の窓から風が入って来ないのでクラス全体の顰蹙を買うことになり、結果窓際の人間はその日差しに耐えることを強いられる。ちなみに、田舎の公立中学であるうちにクーラーはない。


 授業と授業と合間の休み時間。机で突っ伏していると、授業中もしっかり日陰な席にいる陸山が冷やかしの為か足を運んできた。

「よっ、お疲れ」

 俺は顔を上げることなくうめいた。

「席替えはいつだ」

「2学期だろ。つまり、夏休み明け」

 絶望した。ちなみに、この席は風があれば真っ先に当たれると言うメリットがあるのだが、今日は風がないので日差しばかりが照り付ける。俺と同じように、窓際の列の人間のほとんどが机に突っ伏していた。

「あつい」

「言うともっと暑くなるぞ」

 分かってる。制服のポロシャツの下を汗が伝う感覚が気持ち悪い。しかし、机の脇にかけてある鞄からタオルを取り出す気力もない。そのままぐだーっとしていると、声がまた一つ増えた。

「お疲れみたいだね。ま、ここの席確かに暑そうだもんね」

 明香さやかの声だ。しかし、俺は顔を上げない。

「席、変わってくれ」

「無理ね。春の間は良いところだったんだから、その分頑張ってね。優太朗くん」

 ピン、と後頭部の辺りを指で弾かれる。陸山も明香もまるで他人事である。同じ教室に居ても自分達は日陰な席にいるからそんな暢気なことを言えるのだろう。後頭部の辺りを突いてきた明香の指を突っ伏したまま掴む。すると、彼女は小さく悲鳴をあげた。

「ちょっと、話してよ」

「やだ」

 そのままようやく顔を上げて回りを見てみると、陸山は俺の隣の人の席を借りて座っており、明香は俺の斜め後ろに立っていた。指は俺にホールドされたまま。

「席変わってくれ」

「やーよ」

 小さく息を吐くと、そのまま彼女の指を解放した。すると陸山がふふ、と小さく笑った。

「お前ら本当に仲良くなったな。やっぱりお似合いだったんだよ」

 その言葉に明香はわずかに頬を赤らめた。が、俺の方は肩を竦めてみせるだけだった。

「別に、普通なんじゃないの」

「そんなことないって。いつの間にかお互い名前呼びになってるし」

「それは……その方が自然だからだよ」

 別に普通のことだと思う。普通で、そっちの方が自然だっただけの話だ。

「それよりさ、放課後3人で駅の方に遊びに行かないか? あそこ、最近新しくできた施設がけっこうあるだろ?」

 提案してみると、明香はすぐに賛同してくれた。

「いいね。商店街の方にアイスがおいしいお店があるんだよね!」

 だが、陸山はちょっと困ったような表情をした後、いたずらっぽい笑みを浮かべて言った。

「俺は遠慮しとくよ。二人で行ってこい。どのみち今日は塾があるんだ」

 開け放った窓からは、風の代わりに蝉の鳴き声が入ってくる。校庭にある木々は蝉の巣窟と化し、下を歩こうものなら彼らの小便がかかること必須だ。

「そうか」

 小さく言って、俺はまた机に突っ伏した。エネルギーは少しでも取っておかなければ。こてん、と腕のなかに顔をうずめると、また後頭部を明香につつかれた。そして、陸山の小さな笑いが蝉時雨に混じって聞こえてくる。


 あつい。

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