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エピソード13-8

 何食わぬ顔をして打ち上げの席に戻って来た俺と六浦に気が付いたのは、陸山だけだった。他の多くの部員たちはラスト―ダ―で頼んだもんじゃを時間内に終わらせようと食べ物を胃にかきこんでいた。

「もう、終わりなのか?」

 俺が尋ねると、陸山が苦笑いしながら頷いた。

「あとちょっとでな。残飯が出れば追加料金が発生する。みんな必死なんだよ」

 そして、陸山は目線を六浦に投げた。

「大丈夫か?」

 六浦は肩を竦めるだけ。続いて陸山は俺にも尋ねた。

「気分は?」

 そういえば、具合が悪いという名目で外に出たんだっけか。

「問題ないよ」

 元からな。俺の返事をきくと、陸山は何故か眉をよせ、酸っぱい物でも口にしたかのような顔になった。

 部活動の打ち上げは、終わろうとしていた。


 総勢20数人が店の外に出ると、みんな思い思いに外の空気を吸っていた。やはり店内は暑かったのだろう。女子側の部長が簡単に挨拶をしてみんなをまとめ、一行は現地解散となった。

 

 駅へ向かう組と、各々自宅へ向かう組で別れることになる。俺と陸山は自宅組にあたる。駅に向かう組に別れを告げ、俺と陸山は二人で自分らの家へ向かい歩いた。

「食べたな」

 誰にともなく陸山が呟く。この場合、呟く相手は俺しかいないだろうが。大きな車道沿いの道から逸れると、辺りはすぐさま静寂に支配された。2対の靴音が夜の宅地を縫う俺の耳に届く。

「了承したのか?」

 不意に、陸山が呟いた。沈黙に耐え切れなくなって発したような響きが見えて、俺はちょっと意外に思った。

「なんのはなしだ?」

「六浦に、告白されただろう」

 陸山にそう指摘されても、俺は不思議と驚かなかった。六浦と陸山の謎の繋がりが、あるいはこれを以て存在したのだろうかと思い始めていたから。

「されたな、確かに」

「返事をしたのか?」

「気になるのか?」

 俺の問い返しに、陸山はやや閉口した。再び舞い降りた沈黙が腰を下ろす前に、陸山は言った。

「あいつは、ずっとお前のことが好きだった。それで、お前と仲が良かった俺に色々と話すようになったんだ」

 陸山は一人しゃべる。

「六浦は……ずっとお前を見ていた。お前が八武崎しか見てないのを分かっていても。俺はお前と六浦の為に色々とお膳立てをしてきたつもりだがな。普段は飄々としてるくせに、優太朗に急に声をかけられると六浦は挙動不審になる。可愛いもんだろう。あいつは、お前と話す時はいつだって緊張していたんだよ」

 感慨深げに夜空を見上げる。陸山も六浦も、何故そんなに星が出ていない夜空が好きなのだろうか。

「俺を凜奈から諦めるように助言していたのも、六浦のためだったのか?」

 すると、陸山はトリックを見破られた推理モノの犯人みたいに、あるいは為す術を失った悪役みたいに、声をたてて笑った。

「半分はそうだ。だけど、もう半分は心からだよ。お前は八武崎を諦めるべきだったし、そしたら六浦が幸せになる確率も上がる」

「男の友情とか言っといて、六浦との友情も混じってたのかよ」

 はは、と陸山は乾いた笑い声をあげる。

「とんだブーメランだ。確かに六浦への友情もあったが、でもお前のことを第一に考えていた点では同じことだからいいだろう」

 それから、黙って二人歩く。俺と陸山の家への道の別れ際、俺は立ち止まって初めてそれを口にした。

「答えたよ。俺は、六浦の告白を了承した。俺は六浦を見ていなかったかもしれない。だけど、今はもう見てる。俺も、彼女の気持ちに応えることにした」


 その言葉をきくと、陸山は数秒沈黙した。夜の宅地は街灯の光がなければ相手の表情も分からないぐらい暗い。俺は、闇の向こうで陸山がどんな顔をしているか想像してみた。いつもの飄々とした笑みを浮かべているのだろうか、あるいは……

「おめでとう」

 ややあって、陸山はそう言った。

「八武崎への失恋を忘れるという意味でも、この新しい交際は良い効果をもたらすと思うぜ。俺も、奔走した甲斐があったってもんだ」

 それから、こん、と軽く俺の肩を叩いて、陸山は去って行った。

「じゃあな! お前も六浦も、お似合いだと思うぜ。また月曜日学校でな!」

「ああ、じゃあな!」


 陸山がいなくなると、急に辺りの静けさが耳につくようになった。一人になり、俺は閑静な夜道の中で歩を進めた。

 俺は六浦明香と付き合うことになった、それはいい。だが、一つ気になることがあるのも確かだった。


『男女間の友情は成立しない、絶対にだ』そう言ったのは誰あろう陸山ではなかったか。陸山と六浦の結託は本当に友情と呼べるものだったのだろうか。あいつは確かに、『六浦への友情』と言った。

 なあ、陸山。男女間の友情は成立しないんじゃなかったのか? お前が六浦に抱いているそれは、本当に友情だったのか?


 無論、この些細な矛盾の真偽を俺は知らない。

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