表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/49

エピソード13-7

 凜奈以外の女子を好いたことがあるかと尋ねられれば、答えはノーだと言わざるを得ない。隣にはいつも凜奈がいて、思い返してみればあいつ以外の女子に胸がざわついたような経験はなかった。ところが、今、俺の胸中は心臓を鷲掴みにされたみたいに息苦しかった。

 夢にも思わないことを言われ戸惑っている俺に、まるで助け舟でも出すみたいに眼前の六浦むつうら明香さやかは微笑んだ。

「七瀬くん、覚えてる? 部活に入ったばかりの頃の出来事」

 六浦が何を言い出すのか分からない。俺は黙って彼女の言葉を聞き続けた。

「私、結構人見知りするほうでね。先輩に器具庫の鍵を男子卓球部に渡して来いって言いつけられたことがあって、でも入る勇気がなくて、男子側の体育館の入り口で立ち往生してたことがあったんだ」

 第一体育館の1階を男子、2階を女子卓球部が使っている。器具庫とは体育館の外にあり男女共通の大用具が置いてある倉庫のことだ。

「誰に声をかけたら良いか分からないし、知ってる人もいないし、みんな練習に夢中で私のことなんか気が付かないし。そんなときに私に声をかけてくれた男の子がいた」

「それが、俺?」

 こっくり頷かれる。六浦には悪いがまるで覚えていないし、些細なことのように思う。だが、そのことすらも六浦は見透かして悲しげに笑った。

「小さなことだね。でも、きっかけに過ぎないよ。それから七瀬くんは私が来るたびに見つけて男子側の部長に取り次いでくれたよね。知ってた? それから私、七瀬くんをずっと見てきたんだよ」

「ずっとって?」

「2年間!」

 思わず笑ってしまう。こんな俺に、そこまで観察して面白いことがあるとも思えない。それは退屈なことではなかったのだろうか。そんな風なことを言おうとしたが、六浦の瞳はどこまでも真剣で、彼女の本気具合に触れた俺はそっと言葉を飲み込んで次のセリフを待った。

「それから、いいところもいっぱい見つけた。ぞんざいに接してるようでいて、実は友達想いなところも、潔癖なくらい誠実なことも」

「悪いところも見つけた?」

「ちょっとは、ね」

 今度は六浦がいたずらっぽい笑みを浮かべる。俺はきっと返事をしなくてはならないのだろう。人一人の想いを受け止めるということがどういうことなのか、俺には分からない。けれど、だからこそ真剣に向き合わねばと思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ