エピソード13-4
岩場から降りて砂浜を散歩し出すと、前を歩いて砂に足跡を付けている凜奈が声をかけてきた。
「優太朗さ、部活決めた?」
「決めてない」
まだ中学に入学したばかりなのだ。そんなこと決める心の余裕などない。凜奈は俺に背中を見せたまま続けた。
「じゃあ男子バレー部に入りなよ」
「なんでさ」
くるっと凜奈が振り返った。そこには、いたずらっぽい凜奈特有の笑みが浮かんでいた。
「わたしが女子バレー部に入るから」
すがすがしいまでの自分中心。投げやりな返事をしておく。
「パス」
「なんで」
「バレーは興味が湧かない」
「あんたさっきなんでも良いって言ったじゃん」
しまったこれは一本取られた。振り向いたまま不審そうな表情を浮かべる凜奈。とっさにでっち上げた。
「実はもう決めた部活があるんだ。だけど、言いにくいから言わなかった」
我ながら出まかせにもほどがある。しかし単純な凜奈はあっさりと引っかかり不満げに鼻を鳴らした。
「なんだ、だったら隠すことないのに。最初からそう言いなよ。で、それは何?」
「た、卓球……」
最初に思いついたのがこれだった。凜奈は俺の返しを聞くと何故か急に考え込んだ。「卓球ねえ……」
そして、うん、と一人頷くと言った。
「いいんじゃないかな。第一体育館と第二体育館だと距離が近いし」
何故凜奈が俺の部活に許可を出すのだ。無論、この出まかせで俺が卓球部に入ることを決めたわけではないが、それでもこの件で俺は卓球部を意識し始め、結果的に入ってしまったのだから、瓢箪から駒、嘘から出た実と言った所か。
浜からの帰り道、凜奈は俺にこう言った。
「どうだった?」
「何が」
「浜だよ」
今更浜だなんて「りんちゃんは何考えてるの」ぐらいの感想しか出てこない。黙ってしまった俺の返事を聞く前に凜奈は言った。
「緊張は、ほぐれたかって聞いてるの」
「え?」
凜奈は「まったく鈍感なんだから、優太朗は!」などと一人ごちると続けた。
「中学なんてさ、大したことないんだから。緊張するだけ無駄無駄。ぱぱーっとやっちゃえばいいの。緊張してるのなんてみんな同じだし」
だから浜に行って気分転換を試みたとでも言うのか。凜奈のきまぐれだと思ってたのに。俺の為の行動だったとでも言うつもりか。まったく……
「ありがとう、ございます…………」
「気分転換はできたの?」
「うん……」
「ならよし!」
まったく、底なしに優しい奴だ。そして、この優しさが俺が知ってる凜奈の魅力だった。お節介で、優しい、小うるさくて、こちらを子供扱いしてくる。この時の俺は、確かにこんな凜奈のことが好きだったのだ。この時の俺は……




