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エピソード12

 家に帰った時にはもうすぐ6時を回ろうかと言った頃合いだったが、夕暮れはまだまだ衰える景色を見せず、思わず家の時計を二度見してしまった。外の明るさと時間に違和を感じる。キッチンを通過すると、珍しくこの時間帯に母さんが居て料理をしていた。通り過ぎざまに声をかける。

「早いな」

「今日は早く仕事あがれたからね」

 共働きの俺の家では、父はだいたい午後8時から深夜1時の間を不定、母親は午後7時を回った頃に帰ってくる。

 フライパンで何かを炒めながら、母はこちらを見ずに言葉を紡いだ。会話は終わったものだとばかり思っていた俺は、少し不意を突かれた形になる。

「あんたさー、最近りんちゃんと何かあったの?」

「は?」

 間抜けな声が漏れた。母は相変わらずフライパンを片手に持ちながらもう片方の手で菜箸を持って中の何かを炒めており、視線は専らその料理に注がれたまま。

「あんた、小さい頃からりんちゃんにはお世話になってんだからさ。それ、忘れちゃダメだよ」

「んだよ、それ」

 俺が声を荒げると、母親はようやく俺に目を向けた。その目は、少しばかり鋭く細められていた。

「昔も今も、りんちゃんの後ばっか追いかけてたじゃない。自覚してないの?」

「いつの話だよ!」

 母さんはふーんと気のない息をつくと、またフライパンに目を落とした。

「めぐが言ってたんだけどさ、りんちゃん最近元気ないんだって。あんた、知らないの?」

 めぐと言うのは俺の母さんが凜奈の母さんを呼ぶ時の呼称だ。旧姓、蜂谷はちやめぐみ。学生時代からめぐと呼んでいたらしい。

「し、知らないよ……」

 捻り出すように何とか言ってしまうと、母さんがもう一度、今度はほとんど睨むようにして俺を見据えた。その心中を見透かされそうな鋭さに当てられて一瞬息が詰まる。だが、母さんは何も言わなかった。

 今度こそ話は終わったのか? タイミングが分からず立ち去って良いかどうか決めあぐねていたところ、不意にぽつりと母さんが呟いた。

「日が、長いわね」

「? ……ああ、もうすぐ夏至だからな」

 コンロの火を止める。どうやら炒め物は完成したらしい。それを最後に、俺もキッチンからようやく立ち去った。2階の自室に上がり窓の外を見る。陽は遠くに建つ建物の影で見えないものの、落ちてはいないらしい。その太陽が照らす世界では、アスファルトや山の端、それに家々などが橙色に染め上げられていた。見慣れていたはずの窓の外の景色が、ひどく別のものに見える。


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