別エピソード10
八武崎凜奈を見初めたのは、中学1年生の時だった。その時の教室は、まだお互い探るような緊張が走っていて、同じ小学校出身同士で固まっていた頃合いだった。けれど、そんな中で誰彼構わず笑顔を振りまいていたのが凜奈ちゃんだった。見知らぬはずの人とも物怖じせず会話する女子の中の凜奈ちゃんは、遠くから見ていても綺麗に見えた。直接何かしたわけではないのだけれど、彼女の明るさが教室の雰囲気を良い方向へ持っていき、結果的に教室全般において小学校の垣根を超える手助けを果たしていたのではないか。僕はそんな風に結構早い段階から彼女に目を付けていた。
絡みがあったわけじゃない。けれど、僕の目は自然と彼女を追っていた。学年のトップに君臨する高嶺の花のような存在では決してないけれど、身近に咲く親しみのある野花のような彼女は、密かに男子の間で人気を博していた。小学校の頃からやっているサッカーで、先輩が卒業し新人戦のポジションを勝ち取った2年生の秋。その頃から、僕は本格的に凜奈ちゃんを意識していた。勉強は特に頑張っていたわけではないけど、大体10位以内には入れていたし、サッカーでもレギュラーを勝ち取れた。そんなせいか、しばしば告白されることもあったけど、それも全部断ってきた。そうして僕は、意を決して凜奈ちゃんに告白した。中学2年生の冬の話だ。
何と、どんな奇跡が降りかかったのか、凜奈ちゃんはOKしてくれた。彼女が僕に付き合ってくれるかどうかの采配は完全に天が握っていたので素直に嬉しかった……いや、違うな。見栄を張った。その采配は、七瀬優太朗の一振りにかかっていたのだ。八武崎凜奈に関する話を聞けば聞くほど、七瀬優太朗が絡んでくる。僕は彼と同じクラスになったことはないが、凜奈ちゃんと七瀬が楽しげに会話している様子はしばしば散見された。だから半分諦めていたのだけど、二人は付き合っているわけではないと言う事実確認が取れた際に、僕は告白を試みたのだ。凜奈ちゃんは教室で見る姿と寸分違わない明るさを僕にくれ、僕もそれに応じてきたつもりだった。けれど、その裏にはいつも七瀬優太朗の影がちらついていた。その最たるものは、僕と付き合ってからも七瀬の家に相変わらず入り浸っているという事実だ。逆に言えば男として七瀬は意識されていない、そういうことだろうが、僕はそれでもとてつもなく不安で、たまらなく嫌だった。




