裏エピソード10
「どうしたの、凜奈? 顔色悪いよ?」
そんな風に友達に声をかけられたのは、2時間目が終わった後の休み時間だった。国語の先生と違い、社会の先生は教科書の文章を垂れ流したまま生徒を当てることもないので、安心してぼうっとできる。睡眠不足が祟ったのか、いつも以上に意識が曖昧になり、気が付いたら授業が終わっていた。
「最近いっつもぼうっとしてるけど、大丈夫なの?」
「あ、うん……別に何ともないよ」
真っ赤な嘘だ。ここ最近は授業にも集中できずただぼんやりとしていることが多い。このままテスト期間が訪れれば私の成績が壊滅的なことは目に見えている。それでも、何故か勉強に集中する気にはなれなかった。
友達は、私の解答にも納得した様子を見せず、私の前の女の子の席に座った。席の主は教室の別の場所でお話に興じている。いつもと変わらない、教室の日常風景。友達は、こそっと幾分私に顔を近づけ声を潜めた。
「あんたさ、また別の噂が流れてるんだけど」
「うわさ?」
「遼君と別れたって聞いたんだけど、ホント?」
遼君と、別れた。相変わらず情報が出回るのが早い。火のない所に煙は立たずとはこのことだ。ここ最近、確かに私は遼君とうまくいっていない。正確には、遼君に無理やりキスされ、優太朗に振られたあの夜から。あの晩を思い出し、どんよりと気分が重くなる。答えるのも億劫で、私は黙って机に突っ伏した。
「あ、ごめん。不躾だった?」
外で友達が謝るのがきこえる。突っ伏すると視界が闇に包まれ、もうこのまま眠ってしまいたくなる。ベッドの上では眠らなきゃという焦燥感に駆られて眠くならないくせに、眠ってはいけない場所では眠くなる。本当、私の体はどうなっているんだろう。実を言うと、生理も普段ならここら辺りで来ているはずなのに、今月はまだこない。止まっているのかもしれない。
「べつに。まだ別れてないよ」
ぐだっとしたまま投げやりに答える。遼君とはあの日以来一度も会話していない。私も会話したくないし、向こうから話しかけてくることもない。廊下ですれ違っても気まずげに目を逸らすだけだ。優太朗に至っては、まず最初から私の方を見ようとしない。完全無視だ。意識にすら上っていないのではないかと思われる。あの夜以来、私は自分がしたこと、されたこと、全てが嫌になった。目を閉じていると、本当に眠くなってくる。このまま全部投げ出して眠ってしまいたい。
「凜奈さー、最近暗くない? 本当に何でもないわけ?」
「んー……」
暗闇の外からの友達の声にも適当に答える。小さくため息がつかれ、肩にぽんと手が置かれた。
「困ってるなら相談に乗るからさ」
友達が去る気配。この時はこれで終わったのだけれど。その日の放課後、久しぶりに遼君が私の教室にやってきて、一緒に帰ろうと誘ってきたのだ。




