第四十六章 正義
デリア奪還作戦にはおよそ五千の兵士が参加した。ジル将軍の奇襲部隊はおよそ二百。対するデリアに駐屯しているエミナの部隊は再編成され、第四機甲師団から第九機甲師団で迎え撃とうとしていた。
「てか、お前はここにいていいの?」
「いいの。私が言ったことだし、お父様の許可は得てるわ」
「まあ、それならいいけど。けど、危なくなったら下がれよ」
「解ってるわよ」
俺はシュリアにここに何故いるのか質問した後、前方の部隊と合流した。見慣れない服装の男達が馬に乗ってる。
これが先遣部隊の傭兵部隊である。
「よう、あんちゃん。よろしくな」
「よっ!」
「先陣は任せたぜぇ」
陽気のいい傭兵が喋りかけて来た。雰囲気で解るが強者だ。
「ああ、俺が扉をぶっ壊すから、突撃してくれ」
「オーケー」
「任せとけ」
双眼鏡でデリアを見ると、あちらはいつでも戦闘開始出来るようだ。
傭兵部隊も個々の能力が違い過ぎる。最低レベルがいる訳ではない。戦力外でもない。全員が魔法を使わず、銃だって使う者もいる。
ここにいる傭兵が明日には敵。というのもありえない話ではない。
むしろ戦場ではよくある話である。
傭兵にとって大切なのは敵ではない。金だ。
傭兵は金の為に働いている。それが仕事だからだ。仕事を成功させないと当然収入は入ってこないし、自分自身の為ではない。
しかし、それでも、確かなものを手入れる。
それは金ではない。
手に入れた時、傭兵として、感じるものがそこにはあるのではないか?
「よし、攻撃命令だ。行くぞぉぉぉぉぉ!
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
先陣を俺が指揮をし、広い荒野を一直線に駆け抜ける。
が、ここで一つ疑問が生じた。
「撃ってこない・・・?」
「おいおい、何なんだよ」
「どうなってる?」
「これも、敵の作戦なのか?」
そう、敵の砲撃が一切来ないのだ。
まったく。皆無であった。
が、その答えは直ぐに解った。
丁度、陣とデリアの間に一人の男が立っていた。俺達は馬を止めた。
「何だ!お前!」
俺の隣の傭兵が叫ぶ。
「僕ですか?僕はリード・フルートンと、言います」
リードと名乗った男は若く、青年であった。彼は武器を一切持っておらず、ただの真っ黒な服を着ていた。
「僕の仕事はあなた達と話すことです!」
なるほど、交渉が目的か。
「ここは、俺が話してもいいか?」
俺が言った。
「べ、別に構わないぜ。だがよ、俺達にはそんな交渉してもいい権限なんてないぞ?」
「大丈夫。任せろ」
俺は傭兵達から抜け出して、リードの前に立った。
「話とは?」
「はい、今すぐ降参して下さい。あなた達じゃ、勝てません」
「・・・無理だな」
「どうしてですか?」
「逆に聞く。何故だ?」
すると、男はとんでもないことを言った。
「僕達が正義だからです」
一瞬意味が解らなかった。
「だから、これ以上余計な血を出したくないんですよ。それに、正義は必ず勝ちますし」
「意味が解らないな?」
「解りませんか?僕達は正義です。だから――――」
「人を殺せる?」
「はい。そうです。それに、あなた達だって殺してるじゃないですか?だったら、そんな戦いは止めてくれと言っているんです」
「ここまで進軍されて、はい、そーですか。と言えるほど、俺達はクズじゃないよ。それに、自分達の仕事だ。自分が選んで、自分が決めたことだ」
リードは少し黙ってから、
「納得はされませんか」
「ああ、これが俺達の道だ」
「そうですか。なら、仕方ありませんね」
リードが一歩後ろに下がる。
「お前らが悪いんだ・・・お前らが・・・お前らが!!」
リードが叫ぶ。
同時に地面の下から五メートルほどの鉄の巨人が現れた。リードはそれに乗り込んだ。
『僕達が絶対的正義だ!』
「全員!攻撃開始!」
鉄の巨人は手から銃弾を撃ち、肩からミサイルは撃ってきた。
ちっ、何だよこれ。見たことないぞ!しかも、動きも速い。幸い空には飛べなさそうだが、それでもかなりの速度だ。
傭兵達はバラバラになりつつも各自で鉄の巨人へ攻撃を仕掛け始めた。が、その火力はとてつもなく、ものの五分で三割がこの戦場から消えていた。
『お前達は悪だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
背中に備え付けてあるミサイルを全方位に発射した。周囲辺で爆音が発生し、叫び声と悲鳴が聞こえる。
「くそっ!『緋炎・炎龍』!」
炎の龍は真っ直ぐ巨人へと放たれたが、
『こんなもの!』
所詮は炎。鋼鉄の一撃によって簡単に散らされてしまった。
「くそっ!『氷結山』」
巨人の下から氷柱が飛び出るが、
『何て、弱い攻撃なんだ』
巨人はその大きさからは信じられない程の脚力で空を飛んだ。一瞬背中が光った為、おそらくジェットでも背中に装着しているのだろう。
巨人は氷柱の先端部分をある程度破壊し、自分の立てる場所を作った。
『降参しますか?』
「バカ野郎しねぇぞ!」
「てめぇに負けるか!!」
「まだ!おら!」
傭兵達が口々に言う。
俺も負けを認めるつもりはない。
『そうですか。本当に仕方がありませんね。殲滅・・・』
リードはそう言って、氷柱を破壊して降りて来た。
『それでは、さようなら』
巨人はゆったりと両手を構えた。そして、撃った。
まず、目標となったのが俺だった。
一番奴に近かったのと、俺が奴にとって一番邪魔だからである。
『お前からだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「『銀の盾』」
敵は機動が速い。とにかく動きを惑わせて、的を絞らせない。
銃弾を防ぎながら周りを走る。
『ちょこまかと!』
「お前の言う正義は、きっと正しいんだろう。だが、俺らから見れば、そんなものは意味はない」
『どういうことだ!』
攻撃が激しさを増す。それに対抗して魔法を打つ。
「お前は一つだけ勘違いをしている。ここは何処だ?」
『戦場に決まってるだろ!』
「ああ、だからだ。ここは戦場だ。戦場だからこそ、その場の善悪はほとんどと言っていいほど、関係はない」
『うるさい!!』
奴は正義に対して異常に拘りがある男なのだろう。それが奴の力の源ならば、それを叩いてしまえばいい。
実際奴は俺の言葉に動揺している。
これはチャンスだ。
『僕は正義なんだぁぁぁぁぁぁ!!』
俺に向かって連発してミサイルが飛んで来た。
爆風が起こり、辺りが消し飛ぶ。
『はあ・・・はあ・・・はあ・・・どうだ。これが正義の力だ・・・』
土煙の中から俺は出て来た。
『何故だ!何故だ!貴様の何処にそんな力があるのだ!』
「実際お前は間違ってないと思うし、正しいんだろう。けど、それはお前達の基準なんだろう。俺達にとって、お前はただの邪魔者であり、ただの悪だ」
奴が俺を捉える前に奴の上空に現れる。
「『七星天』」
奴が光に気づき、上を向いた。
その光は彼にとって、きっと何よりも美しかったのかもしれない。




