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「無名の先祖を、歴史に名を残す男にする。――俺は、本能寺の結末を変える。」  作者: 最強の素人


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第7話 馬廻

翌朝。


新七は、朝から腕を組んでいた。


俺の前に座ったまま。


ずっと黙っている。


「……どうしたんですか。」


「考えておった。」


「何を?」


新七が俺を見る。


「出世じゃ。」


昨日の話か。


「何か思いつきました?」


「いや。」


即答だった。


「ないんですか。」


「簡単に出るものか。」


それはそうだ。


俺は未来から来た。


でも。


戦国時代の出世の仕方まで知っているわけじゃない。


「新七さんって、今どれくらいの立場なんです?」


新七が眉をひそめる。


「どれくらいとは。」


「信長様の家臣なのは分かりますけど。」


俺は少し考える。


「偉い方なんですか?」


「見れば分かるじゃろ。」


「分からないから聞いてるんです。」


新七がため息をつく。


「大した身分ではない。」


「やっぱり。」


「やっぱりとはなんじゃ。」


「いや。」


新七が睨む。


俺は目を逸らした。


「信長様から直接お言葉をいただくことはある。」


新七が続ける。


「じゃが、常にお側に仕えておるわけではない。」


「じゃあ。」


俺は少し身を乗り出す。


「信長様のすぐ近くにいる人って、どんな人なんです?」


新七が俺を見る。


「馬廻(うままわり)や近習(きんじゅう)じゃな。」


「うままわり?」


「信長様のお側を守り、戦では近くに付き従う。」


新七が説明する。


「近習ともなれば、さらにお側で仕える。」


俺は黙った。


それだ。


本能寺で何かするなら。


遠くにいる家臣じゃ意味がない。


信長の近くにいなきゃ。


俺は新七を見る。


「それですよ。」


「何がじゃ。」


「まず、馬廻を目指しましょう。」


新七の顔が止まる。


「……簡単に言うな。」


「昨日も言われました。」


「なら学べ。」


「でも。」


俺は続ける。


「近習になれって言うより、まだ現実的ですよね。」


新七は黙る。


否定はしなかった。


「馬廻になれば。」


俺は指を折る。


「信長様の近くに行ける。」


「そうじゃな。」


「戦でも近くにいられる。」


「そうじゃ。」


「じゃあ、そこからです。」


新七が鼻で笑う。


「おぬしは、何でも簡単に決めるな。」


「決めないと始まらないですよ。」


しばらく。


新七は何も言わなかった。


やがて。


「馬廻に入るには。」


新七が顔を上げる。


「もっと信長様に認めていただかねばならん。」


「じゃあ、認めてもらいましょう。」


「どうやってじゃ。」


「そこを考えるんです。」


「考えてから言え。」


まただ。


でも。


昨日までとは違う。


新七はもう。


俺の話を笑って終わらせていない。


本気で。


どうすれば信長の近くまで行けるか。


考えている。


その日の昼。


新七に仕事が入った。


俺も一緒についていく。


広場には、何人もの男たちが集まっていた。


荷を運ぶ者。


馬を引く者。


武具(ぶぐ)を確認する者。


かなり慌ただしい。


「何があるんです?」


「荷を今日中に出す。」


新七が答える。


ところが。


少しすると、怒鳴り声が聞こえた。


「まだ出せん!」


男たちの動きが止まる。


何か問題が起きたらしい。


新七が近づく。


「どうした。」


一人の男が答えた。


「荷を運ぶ者が足らんのです。」


「何人じゃ。」


「六人ほど。」


出発の時間は迫っているらしい。


周りでは。


どうする。


待つしかない。


そんな声が飛び交っていた。


新七は何も言わず、辺りを見る。


そして。


別の場所で仕事を終えた男たちに目を向けた。


「おぬしら。」


男たちが振り返る。


「はい。」


「そちらの仕事は終わったか。」


「終わっております。」


「なら三人、こちらへ来い。」


男たちが動く。


新七は続ける。


「重い荷は、分けられるものだけ分けろ。」


「はっ。」


「運べる者から先に動かせ。」


男たちが顔を見合わせた。


それから。


一斉に動き始める。


俺は横で見ていた。


指示が速い。


迷っている暇がないと分かった瞬間。


使える人を探して。


荷を分けて。


その場でやり方を変えた。


少し前まで止まっていた仕事が。


また動き始める。


しばらくして。


予定していた荷は、すべて出発した。


新七がその様子を見ていると。


少し離れたところから男が近づいてきた。


年上の武士だった。


「久世新七。」


「はっ。」


新七がすぐに頭を下げる。


男は出ていく荷を見た。


「おぬしがまとめたのか。」


「はっ。」


「よく収めた。」


新七が頭を下げる。


「ありがたきお言葉。」


男は新七を見る。


「此度(こたび)の働きは、信長様にもお伝えしておこう。」


「はっ。ありがとうございます。」


男はそれだけ言うと去っていった。


俺は新七を見る。


新七も俺を見る。


「今の。」


「聞こえておった。」


「信長様に伝えるって言ってましたよ。」


「聞こえておったと言うておる。」


でも。


少しだけ。


嬉しそうに見える。


俺は笑った。


「一歩じゃないですか。」


「何がじゃ。」


「馬廻です。」


新七が鼻で笑う。


「これ一つでなれるものか。」


「分かってますよ。」


俺は歩き出す新七の横につく。


「でも。」


新七を見る。


「こういうのを積み重ねるんでしょ?」


新七は少し黙った。


そして。


「そうじゃな。」


短く答えた。


俺は今日。


ほとんど何もしていない。


ただ。


新七の横で見ていただけだ。


でも。


それでよかった。


出世するのは。


俺じゃない。


新七だ。


俺が未来を知っていても。


実際に信長から認められなきゃいけないのは。


新七なんだ。


本能寺まで。


もう二年もない。


目指す場所は決まった。


馬廻。


まずは。


そこまで上がる。

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