第2話 久世新七
「どこで手に入れた」
「これ? うちに昔からあるけど」
「信長様がお持ちのものと同じじゃ」
「でも、うちでは先祖が信長からもらったって聞いとる」
「信長様を呼び捨てとは、無礼者め」
「いや、そこ?」
玲央にも訳が分からなかった。
祖母の家にいたはずなのに、目の前には土の道と着物姿の男。
「今は、何年ですか?」
新七が怪訝そうな顔をした。
「天正八年じゃ。」
「天正八年……。」
頭の中で、歴史の授業を思い出す。
本能寺の変は、天正十年六月二日。
まだ、二年近くある。
「先ほどから何を申しておる」
「じゃあ……信長様って、織田信長よな?」
「そうじゃ」
織田信長が生きている。
教科書でしか知らなかった人物が、この時代のどこかにいる。
「なあ、名前なんていうん?」
「人に名を尋ねる前に、自分から名乗らぬか」
「久世玲央」
男が玲央を見る目を変えた。
「久世?」
「そう」
「どこの久世じゃ」
「どこのって言われても、久世は久世やけど」
その時だった。
「新七!」
声が飛んできた。
玲央はその名前に反応する。
新七。
昨日、ばあちゃんから聞いた名前。
この男が――久世新七。
二人の武士がこちらへ歩いてくる。
新七がすぐに頭を下げた。
一人が玲央を見る。
「新七。誰じゃ、そやつ」
「存じませぬ」
「知らぬ者と何をしておる」
その男の目が玲央の短刀に向いた。
「待て」
もう一人も近づいてくる。
「その短刀、見せろ」
玲央は短刀を握った。
「いや、これは俺のやけど」
「俺?」
男の顔が険しくなる。
「妙な格好に、妙な物言い」
短刀を指さす。
「しかも、その品」
男が刀へ手をかけた。
「盗人か」
「違うって」
「なら、なぜ信長様の品を持っておる」
「だから、うちに昔から――」
「訳の分からぬことを!」
刀が抜かれた。
玲央の身体が固まる。
男が一歩近づく。
「お待ちください!」
新七が玲央の前に出た。
「何じゃ、新七」
「その者が何者か、わしにも分かりませぬ」
「ならば斬ればよかろう」
「ですが、それでは短刀の訳が分からぬままです」
新七が玲央の持つ短刀を見る。
「同じ物を、信長様がお持ちなのは確かです」
男の手が止まる。
新七が続ける。
「斬るなら、その前に信長様にお確かめいただくべきかと」
男は少し考えた。
「よかろう」
刀を収める。
「ただし、妙な真似をすればその場で斬る」
「マジかよ」
新七が玲央を見る。
「来い」
「どこに?」
「信長様のところじゃ」
玲央は息をのんだ。
織田信長に、会う。




