↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「無名の先祖を、歴史に名を残す男にする。――俺は、本能寺の結末を変える。」  作者: 最強の素人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/22

第19話 未来を知る玲央

天正九年(1581年)七月。


新七さんが馬廻に取り立てられてから、半年ほどが過ぎていた。


その日、俺たちは信長に呼び出され、安土城の一室へ向かっていた。


「新七さん。今日は何の用事なんですか?」


「詳しくは聞いておらぬ。羽柴殿の件とだけ伝えられた。」


「羽柴殿?」


「羽柴秀吉様じゃ。今は中国地方で毛利と戦っておられる。」


秀吉。


その名前を聞いて、俺は足を止めた。


「どうした?」


「いえ、何でもないです。」


秀吉が中国地方で戦っている。


そして今は、1581年。


俺の頭に、歴史の授業で習った出来事が浮かんだ。


鳥取城の戦い。


確か、この年だったはずだ。


***


部屋には信長のほか、丹羽長秀と数人の家臣がいた。


俺たちが入ると、信長が口を開いた。


「新七。羽柴から知らせが届いた。」


「はっ。」


「因幡の鳥取城を攻めておるが、毛利の動きが気になる。」


鳥取城。


やっぱりだ。


信長は続けた。


「毛利が大軍を差し向ければ、羽柴も容易には攻め落とせまい。」


長秀が口を開いた。


「羽柴殿は城を囲み、兵糧を断つ構えにございます。しかし、毛利の援軍が到着すれば、戦況は変わりましょう。」


信長は腕を組んだ。


「新七。そなたに一つ役目を与える。」


「何なりと。」


「羽柴のもとへ赴き、戦況を確かめてまいれ。毛利の動きも調べ、わしに報告せよ。」


「はっ!」


新七が深く頭を下げた。


俺はその隣で、鳥取城の戦いについて必死に思い出していた。


秀吉。


兵糧攻め。


毛利の援軍。


そして、鳥取城の落城。


確か十月だった。


「……十月。」


思わず声が漏れた。


信長の視線が俺に向いた。


「何じゃ?」


しまった。


「い、いえ。」


「今、十月と申したな。」


部屋の空気が変わった。


新七さんが俺を見た。


「玲央。」


俺は迷った。


ここで黙っていれば、何も起きない。


けれど、新七さんにとって、これほど大きな機会はないかもしれない。


俺は信長を見た。


「鳥取城は、十月に落ちます。」


誰も口を開かなかった。


信長がゆっくりと身を乗り出した。


「何と申した?」


「鳥取城は、今年の十月に落ちます。」


長秀が眉をひそめた。


「玲央。それは何を根拠に申しておる?」


「……。」


答えられない。


俺が未来から来た人間だなんて、信じてもらえるはずがない。


信長は俺から目を離さなかった。


「続けよ。」


「毛利は鳥取城を救えません。羽柴様の兵糧攻めが成功します。」


「毛利が救えぬと?」


「はい。」


「なぜじゃ。」


俺は唇をかんだ。


歴史で習ったから。


そんな説明が通じるわけがない。


「詳しい理由は、うまく説明できません。」


長秀が厳しい声を出した。


「それでは話にならぬ。戦の行方を根拠もなく言い切るものではない。」


「申し訳ありません。」


俺は頭を下げた。


そのとき、信長が笑った。


「面白い。」


長秀が信長を見た。


「上様。」


「この小僧、鳥取城が落ちる月まで言い切りおった。」


信長は俺に尋ねた。


「玲央。もし毛利が援軍を送れば、どうなる?」


「……鳥取城は落ちます。」


「羽柴が敗れることはないと申すか。」


「はい。」


「言い切るのじゃな。」


「はい。」


俺の声は震えていた。


信長はしばらく考えていた。


そして、新七を見た。


「新七。」


「はっ。」


「そなたはどう思う。」


新七は一度、俺を見た。


俺たちは以前、佐久間信盛の追放を巡って同じような話をしたことがある。


あのときも、俺は未来の出来事を知っていた。


そして、それは現実になった。


新七さんは、そのことを覚えている。


「玲央の申すこと、わしは信じとうございます。」


長秀が驚いた顔をした。


「新七。そなたまで何を申す。」


新七は頭を下げた。


「根拠を示せぬことは承知しております。ですが、玲央はこれまでにも、わしには知り得ぬことを言い当てております。」


信長の目が細くなった。


「ほう。」


俺は新七さんを見た。


そこまで言って大丈夫なのか。


信長が尋ねた。


「何を言い当てた。」


新七は一瞬だけ言葉を選んだ。


「佐久間殿の件にございます。」


「佐久間?」


「はい。あの方が追放される前、玲央はその行く末を申しておりました。」


信長は黙った。


佐久間信盛。


長年仕えた重臣を追放したのは、信長自身だ。


その決定を、事前に知っていた人間がいる。


信長は再び俺を見た。


「玲央。」


「はい。」


「そなた、何者じゃ。」


背中に冷たい汗が流れた。


「……新七さんの親類です。」


信長は笑わなかった。


「それは聞いておる。」


俺は何も言えなくなった。


長い沈黙が続いた。


やがて信長は新七に向き直った。


「よかろう。」


「はっ。」


「鳥取へ行け。そして羽柴のもとで、戦況をその目で確かめよ。」


「承知いたしました。」


「ただ報告を持ち帰るだけでは足りぬ。そなた自身の目で、何が起きておるか見極めるのじゃ。」


「はっ!」


信長は俺を指さした。


「玲央。そなたも同行せよ。」


「俺も、ですか?」


「十月に城が落ちると申したのであろう。その言葉、最後まで責任を持て。」


「……はい。」


「もし本当に十月に落ちたならば、そなたには改めて聞きたいことがある。」


信長の目が鋭く光った。


「そのときは、今のような曖昧な答えでは済まさぬぞ。」


***


城を出たあと、新七さんは俺を連れて、人通りの少ない場所まで歩いた。


「玲央。」


「はい。」


「鳥取城の話、本当に間違いないのじゃな。」


「俺の知っている歴史では、十月に落ちます。」


「そうか。」


新七さんは腕を組んだ。


「ならば、わしはその戦で役目を果たさねばならぬ。」


「新七さん。」


「何じゃ。」


「俺の知識が間違ってたら、どうします?」


新七さんは俺を見た。


「そなたは間違っておると思うのか。」


「……思いません。」


「ならば、それを信じよう。」


俺は少しだけ安心した。


でも、新七さんは続けた。


「ただし、玲央。未来を知っておることと、戦場で何が起こるかを見極めることは別じゃ。」


「はい。」


「わしは、そなたの知識だけに頼るつもりはない。」


新七さんの表情は真剣だった。


「羽柴様のもとで働き、わし自身の力で功を立てる。」


俺は頷いた。


「俺も手伝います。」


「頼むぞ。」


俺たちは並んで歩き出した。


今まで、新七さんの出世を助けたいと思ってきた。


でも、今回は違う。


俺の知っている歴史が、本当に大勢の人間の運命に関わろうとしている。


しかも、その知識に信長が目をつけた。


十月。


鳥取城が落ちる日。


そのとき、信長は俺に何を聞くんだろう。


俺は安土城を振り返った。


新七さんに大きな手柄を立ててもらう。


そのために、俺もできることをする。


ただ一つだけ、気になっていた。


歴史どおりに鳥取城が落ちたとして。


その先の歴史まで、同じように進むとは限らない。


本能寺の変まで、残された時間は一年を切っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。