↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「無名の先祖を、歴史に名を残す男にする。――俺は、本能寺の結末を変える。」  作者: 最強の素人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/22

第18話 明智光秀との再会

「久世殿ではないか。」


背後から声をかけられ、新七が振り返った。


「明智様!」


その名前を聞いた瞬間、俺の足が止まった。


明智光秀。


以前、新七さんと一緒に書状を届けた相手だ。


そして、俺が知っている歴史では、約一年半後に信長を討つ男。


光秀は数人の家臣を連れていた。


「馬廻に取り立てられたそうじゃな。」


「はっ。上様よりお役目をいただきました。」


「丹羽殿からも、そなたの働きは聞いておる。励んでおるようじゃな。」


「恐れ入ります。」


光秀は穏やかに笑った。


そして、俺に目を向けた。


「そちらの若者も、覚えておるぞ。」


「お、お久しぶりです。」


「玲央であったな。」


「はい。」


「以前、丹波のことを妙に詳しく知っておった。」


やっぱり覚えていた。


しかも、そこか。


「たまたま知っていただけですよ。」


「そうか。」


光秀はそれ以上追及しなかった。


「久世殿。後ほど少し時間をもらえるか。」


「もちろんにございます。」


「では、用向きを済ませてから呼ばせよう。」


光秀はそう言って歩き去った。


俺はその背中を見送った。


「新七さん。」


「何じゃ。」


「今の、絶対まだ疑ってますよね。」


「そうかもしれぬな。」


「どうしましょう。」


「余計なことを申さねばよい。」


「それが難しいんですよ。」


新七は呆れた顔をした。


「自覚はあるのじゃな。」


***


昼過ぎ。


光秀から使いが来た。


案内されたのは、城内の静かな一室だった。


光秀は一人で座っていた。


「参ったか。そこへ座られよ。」


「失礼いたします。」


新七が頭を下げ、俺も隣に座った。


光秀は新七に尋ねた。


「馬廻の務めには慣れたか。」


「まだ学ぶことばかりにございます。」


「上様のおそばは、気の休まる場所ではあるまい。」


「はっ。ですが、身に余る光栄にございます。」


「そうであろうな。」


光秀は頷いた。


「上様は働きをよく見ておられる。身分や年齢にかかわらず、役に立つ者を取り立てられるお方じゃ。」


「わしも、そのご期待に応えたいと存じます。」


「うむ。励まれよ。」


俺は二人の会話を聞いていた。


光秀の話し方は落ち着いている。


新七さんに対しても、偉そうな態度を取らない。


以前会ったときも思ったけど、礼儀正しい人だ。


本当に、この人が信長を裏切るのか?


光秀が俺に目を向けた。


「玲央。」


「はい!」


「そなたは、久世殿の出世が嬉しいか。」


「もちろんです!」


「そうか。なぜじゃ。」


「え?」


思いがけない質問だった。


「そなたは久世殿の親類と聞いておる。じゃが、仕える身でもないのに、いつも行動をともにしておるそうじゃな。」


「はい。」


「そこまで熱心に支える理由が、何かあるのか。」


俺は少し考えた。


歴史の教科書に名前を載せたい。


本当の理由は、それだ。


でも、そんなことを言えるはずがない。


「新七さんには、大きな武将になってほしいんです。」


「ほう。なぜそう思う。」


「新七さんは、ちゃんと人の話を聞くんです。」


「人の話を?」


「はい。自分より立場が低い人でも、相手が何を考えてるのか聞こうとするんです。だから、もっと大勢の人を率いるようになってほしいと思ってます。」


光秀はしばらく黙っていた。


そして、新七を見た。


「よい親類を持ったな。」


「恐れ入ります。」


光秀は笑った。


「人を率いる者にとって、耳を傾けることは大切じゃ。家臣が何も申さなくなれば、間違いにも気づけぬ。」


俺は思わず光秀を見た。


今の言葉が、妙に引っかかった。


信長と光秀。


この二人の間には、これから何が起こるんだろう。


***


「ところで、玲央。」


光秀が湯飲みを置いた。


「以前の話を覚えておるか。」


「以前の話、ですか?」


「丹波のことじゃ。」


来た。


俺は姿勢を正した。


「はい。」


「そなたは、わしの働きを以前から知っておるような口ぶりであった。」


「……そうでしたね。」


「誰から聞いた。」


俺は返事に詰まった。


新七が口を開こうとしたが、光秀が手を上げた。


「久世殿。玲央に聞いておる。」


新七は口を閉じた。


まずい。


完全に俺への質問だ。


「旅の途中で、いろんな話を聞いたんです。」


「どこでじゃ。」


「それは……いろいろな場所で。」


光秀は俺をじっと見た。


「そなたは、話を聞いた場所も覚えておらぬのか。」


「すみません。あんまり詳しくは……。」


自分でも苦しい言い訳だと思った。


光秀は少し考えた。


「丹波のことを知っておっただけなら、不思議ではない。わしの名を聞いたことのある者も多かろう。」


俺は頷いた。


「はい。」


「じゃが、そなたはわしの顔を見たとき、妙な顔をした。」


心臓が跳ねた。


「妙な顔、ですか?」


「初めて会った者を見る目ではなかった。」


光秀の声は穏やかだった。


それが余計に怖い。


「以前、どこかでお会いしたのかと思いまして。」


「ほう。わしに似た者がおったか。」


「……そうかもしれません。」


光秀はしばらく俺を見つめていた。


やがて、小さく笑った。


「まあ、よい。」


俺は心の中で大きく息を吐いた。


助かった。


だが、光秀は続けた。


「そなたは、嘘が下手じゃな。」


「えっ。」


「隠し事があるなら、もう少し上手に隠すことじゃ。」


新七の顔がこわばった。


俺は何も言えなかった。


光秀は湯飲みを手に取った。


「誰にでも、人に話せぬ事情の一つや二つはある。無理に聞き出すつもりはない。」


そして、俺に目を向けた。


「ただし、上様に害をなすことだけは許さぬ。」


俺は思わず顔を上げた。


「そんなこと、絶対にしません!」


自分でも驚くほど大きな声が出た。


光秀が目を丸くした。


「そうか。」


「はい!」


「ならば、それでよい。」


光秀は穏やかに笑った。


俺は、その顔から目を離せなかった。


上様に害をなすことは許さない。


今、この人は確かにそう言った。


***


部屋を出たあと、新七はしばらく無言だった。


廊下を曲がり、人の気配がなくなったところで口を開いた。


「玲央。」


「はい。」


「危うかったな。」


「本当に……。」


「明智様は、そなたのことを覚えておられた。」


「しかも、かなり細かく。」


新七は立ち止まった。


「これからは、明智様の前で余計なことを申すな。」


「分かってます。」


「本当に分かっておるか。」


「今度こそ分かってます。」


新七は小さくため息をついた。


俺は廊下の向こうを見た。


光秀は信長に忠実だった。


少なくとも、今日の俺にはそう見えた。


家臣の働きを認め、人の話を聞くことの大切さを説き、信長への忠義を口にする。


そんな人が、どうして本能寺の変を起こすんだろう。


俺は新七に尋ねた。


「新七さん。」


「何じゃ。」


「明智様って、どんな人なんですか?」


「知恵があり、戦にも政にも優れたお方じゃ。上様からの信頼も厚い。」


「そうですよね。」


「なぜ聞く。」


俺は少し迷った。


でも、新七さんだけは真実を知っている。


「今日の明智様を見て、余計に分からなくなりました。」


新七の表情が変わった。


俺が何を言いたいのか、伝わったらしい。


「玲央。」


「はい。」


「まだ起きておらぬことじゃ。」


俺は新七を見た。


「人の心は、一年半もあれば変わることがある。」


「……そうですね。」


新七は続けた。


「じゃが、変わらぬこともある。」


俺は頷いた。


未来は決まっている。


そう思っていた。


けれど、新七さんは本来の歴史とは違う道を歩き始めている。


ならば、光秀だって。


俺はもう一度、光秀がいた部屋の方を振り返った。


本能寺の変まで、あと一年半ほど。


俺たちは、その理由すら知らない。


それでも、今日の光秀の言葉だけは忘れないと思った。


「上様に害をなすことだけは許さぬ。」


あの言葉が嘘だったとは、どうしても思えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。