第13話 次の役目
それから数日。
新七は、またいつもの仕事に戻っていた。
城内の警護。
使い。
人の配置。
前より任されることは増えた。
でも。
見た目には。
そこまで大きく変わっていない。
「出世って、もっと分かりやすいもんじゃないんですか。」
俺が言うと。
新七が呆れた顔をした。
「何を期待しておる。」
「急に偉そうな服着るとか。」
「そんなものはない。」
「じゃあ、いつ分かるんです?」
「任される仕事が変われば分かる。」
その言葉を聞いたのは。
ちょうどその日の昼だった。
一人の家臣が新七を呼びに来た。
「久世新七。」
「はっ。」
「信長様がお呼びじゃ。」
新七が俺を見る。
俺も立ち上がる。
「また俺もですか。」
家臣が頷く。
「玲央も来いとのことじゃ。」
もう慣れてきた。
信長の部屋へ向かう。
中へ入ると。
丹羽長秀もいた。
新七がすぐに頭を下げる。
「久世新七にございます。」
「うむ。」
信長が新七を見る。
「丹羽から聞いた。」
新七の表情が少し変わる。
長秀は何も言わない。
信長が続けた。
「人を動かすのが上手いそうじゃな。」
「まだまだにございます。」
「そうか。」
信長が少し笑う。
「なら。」
その顔から。
笑みが消えた。
「次は、もう少し大きい仕事を任せる。」
新七の背筋が伸びる。
「はっ。」
信長が家臣へ目をやる。
一枚の紙が置かれた。
「明日。」
信長が言う。
「街道の警護に出よ。」
新七が顔を上げる。
「街道にございますか。」
「そうじゃ。」
信長は紙を見る。
「商人と荷が通る。」
「はっ。」
「近頃、途中で荷を奪う者が出ておる。」
俺は新七を見る。
今までと違う。
城の中じゃない。
外だ。
しかも。
ただの使いでもない。
新七が頭を下げる。
「承知いたしました。」
信長が続ける。
「十人、預ける。」
新七の顔が変わった。
十人。
初めて。
新七が人を率いて外へ出る。
「任せたぞ。」
「はっ。」
新七が深く頭を下げる。
そのとき。
信長が俺を見る。
「玲央。」
「はい。」
「まだ何か企んでおるのか?」
「企んでませんよ。」
信長が笑う。
「そうか。」
短いやり取り。
それだけなのに。
やっぱり。
この人は俺を見ている。
何か隠している。
そう思っている。
でも。
まだ。
俺が何者なのかまでは分かっていない。
部屋を出たあと。
俺はすぐに口を開いた。
「これ。」
「なんじゃ。」
「かなり大きくないですか。」
新七は少し黙った。
「十人を預かる。」
「はい。」
「わしが。」
「はい。」
何度も確認している。
「嬉しいんでしょ。」
「うるさい。」
でも。
顔に出ていた。
翌朝。
門の前には。
十人の男たちが集まっていた。
新七が前に立つ。
昨日まで。
自分が誰かの指示を受けていた男が。
今日は。
指示を出す側にいる。
「行くぞ。」
「はっ。」
声が揃う。
俺もその後ろについて歩く。
「玲央。」
新七が振り返る。
「今日は勝手に動くな。」
「分かってます。」
「本当に分かっておるか。」
「たぶん。」
「不安になる返事をするな。」
少しだけ。
周りの男たちが笑った。
緊張が。
少し和らいだ。
街道へ出る。
人通りは多かった。
商人。
馬。
荷車。
農民。
新七は辺りを見ながら。
人を二手に分けた。
「五人は前へ。」
「はっ。」
「残りは後ろじゃ。」
俺は新七の横を歩く。
「何で分けるんです?」
「前だけ見ても意味がない。」
新七が答える。
「後ろから狙う者もおる。」
なるほど。
少し進んだところで。
前から一人の男が走ってきた。
「新七殿!」
新七が止まる。
「どうした。」
男が息を整える。
「この先で。」
周りの空気が変わる。
「荷車が止められております。」
新七の顔から。
さっきまでの笑みが消えた。
「人数は。」
「分かりませぬ。」
新七がすぐに振り返る。
「全員。」
十人が新七を見る。
「行くぞ。」
声が揃う。
「はっ。」
俺も走り出そうとした。
その瞬間。
新七に腕を掴まれた。
「おぬしは後ろじゃ。」
「でも。」
「今回は仕事じゃ。」
新七の目が。
いつもと違った。
「わしに任せろ。」
そう言って。
新七は先頭へ走っていった。
俺はその背中を見る。
今まで。
俺が新七を押し上げようとしてきた。
でも。
もう。
新七自身が。
前へ進み始めていた。




