第10話 同い年
翌朝。
目を覚ますと。
新七の姿はなかった。
「新七さんは?」
囲炉裏の前にいたお春に聞く。
「朝早くから城へ出ております。」
「また仕事ですか。」
「そうですよ。」
お春が笑う。
「出世するのでしょう?」
「聞いたんですか。」
「毎晩、あれだけ話していれば聞こえます。」
確かに。
俺は座って朝ご飯を食べる。
新七がいないだけで。
なんとなく静かだった。
食べ終わると。
お春が小さな包みを俺に渡した。
「玲央殿。」
「はい。」
「これを届けていただけませんか。」
「どこに?」
「すぐ近くです。」
暇だったし。
断る理由もない。
「分かりました。」
家を出る。
もう。
この辺りの道なら少し分かるようになってきた。
言われた家の前まで行く。
「すみません。」
声をかける。
返事がない。
もう一度。
「すみません。」
すると。
後ろから声がした。
「何をしておる。」
振り返る。
俺と同じくらいの年に見える女の子が立っていた。
手には水の入った桶を持っている。
「お春さんに頼まれて。」
俺は包みを見せた。
女の子が近づいてくる。
「ああ。それか。」
「あなたに渡せばいいんですか?」
「そうじゃ。」
包みを受け取る。
それから。
俺の顔を見る。
「見ぬ顔じゃな。」
「最近来たんで。」
「どこから来た。」
またこれだ。
一番困る質問。
「遠いところです。」
女の子が眉をひそめる。
「どこじゃ。」
「かなり遠いです。」
「答えになっておらん。」
そう言われても。
東京から未来を越えて来ました。
なんて言えるわけがない。
「久世玲央です。」
女の子が俺を見る。
「名は聞いておらん。」
「じゃあ、何て答えればいいんですか。」
女の子は一瞬黙った。
それから。
少し笑った。
「変な奴じゃ。」
最近。
そればっかり言われる。
俺も聞き返す。
「あなたは?」
「お雪。」
「お雪っていうんだ。」
「そうじゃ。」
名前は分かった。
でも。
まだ少し話しにくい。
俺は帰ろうとした。
「じゃあ、渡したんで。」
「待て。」
振り返る。
お雪が俺を見る。
「おぬし、いくつじゃ。」
「十六。」
お雪が少し驚いた。
「同じか。」
「お雪も十六?」
「そうじゃ。」
初めて。
少しだけ話しやすくなった気がした。
同い年。
それだけなのに。
この時代では。
なんだか大きく感じる。
「玲央と言うたな。」
「うん。」
「お春殿のところにおるなら、また会うじゃろ。」
「近いんですか?」
お雪が指をさす。
「すぐそこじゃ。」
本当に近かった。
「じゃあ。」
お雪は家の中へ入っていった。
俺はしばらくその場に立っていた。
この時代に来て。
初めて会った。
俺と同じ年の人。
信長でもない。
新七でもない。
光秀でもない。
普通に話せる。
同い年の女の子。
なんだか。
少しだけ安心した。
家へ戻る。
お春が俺を見る。
「届けてくださいましたか。」
「はい。」
「お雪殿にも会いました?」
「会いました。」
お春が笑う。
「気の強い娘でしょう。」
「かなり。」
「でも、良い娘ですよ。」
「そうなんですか。」
お春が少し笑う。
その笑い方が。
なんとなく気になった。
夕方。
新七が帰ってきた。
「ただいま。」
お春が振り返る。
「お帰りなさいませ。」
俺も続ける。
「お帰りなさい。」
新七が俺を見る。
「今日は何をしておった。」
「お春さんのお使いです。」
すると。
お春が口を挟んだ。
「お雪殿に会ったそうですよ。」
新七が俺を見る。
「ほう。」
「何ですか、その顔。」
「何も言うておらん。」
お春も笑っている。
なんなんだ。
二人とも。
「そんなに面白いですか?」
俺が聞くと。
お春が首を振る。
「いいえ。」
絶対に面白がっている。
俺はため息をついた。
そのとき。
新七がふと思い出したように言った。
「そういえば、言うておらんかったな。」
「何をです?」
「お雪殿の父上じゃ。」
「父親?」
新七が俺を見る。
「丹羽長秀様じゃ。」
「……え?」
俺は固まった。
丹羽長秀。
その名前くらい。
俺でも知っている。
信長に仕える。
有名な武将。
今日会った。
あの女の子が。
その娘。
俺は思わず。
お春を見る。
お春は。
やっぱり笑っていた。




