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12/15

12_寮

 夕方に、寮へ移った。


 試験から入学までは、宿にいた。学校が借り上げている宿だ。そこから寮へ荷を運ぶ。荷といっても、着るものが二枚と、碗と、筆と、切符の紙だけである。


 部屋は、八人で一つだった。


 ヤナと、トキと、ゴウが同じ部屋だった。リンは隣である。ソウはいなかった。



 その晩、寮則が読み上げられた。


 起きる時刻。寝る時刻。外へ出てよい時刻。持ち込んでよいもの。掃除の当番。飯の時刻。火の始末。


 そのうちの一行に、頭髪は短く刈ること、とあった。


 実技が始まるからである。走って、跳んで、組み合う。長いものは邪魔になるし、掴まれる。それだけの理由だった。



 書いた者は、支那のことを知らないのだと、カイは思った。


 辮を落とすというのは、只事ではない。落とせば咎めを受ける。落とした頭で帰れば、役所の目がある。


 寮則には、そんなことは書いていない。


 頭髪は短く刈ること、とだけ書いてある。


 書いた者はそこにいない。訊く相手もいない。



 辮というのは、頭の後ろと横の下の方だけを残して、そこを編むものである。


 残す以外は、剃る。額の生え際からてっぺんを通って、後頭部の途中まで、剃刀を当てる。だから、この形をしている者の頭は、上半分に髪がない。


 剃るのは月に一度か、二度である。伸びれば、剃った範囲に短いものが浮いてくるので、それを落とす。


 剃り屋の手が、当てる範囲を覚えている。



 この形をしているかぎり、生え際がどこにあるかは、誰にも見えない。


 剃った範囲が、それを飲み込んでいるからである。


 髪が減っても、減ったところは剃る範囲の内側にある。剃ってしまえば、生えていないのと剃ったのとは、同じに見える。


 剃り屋だけが知っている。当てる先に髪がなければ、そこは剃らずに済むからである。剃刀の走る距離が、年ごとに短くなる。


 言う者はいない。客商売である。



 刈ると、剃った範囲が消える。


 てっぺんにも髪が生えてくる。生えてくれば、生えている範囲と、生えていない範囲の輪郭が、そのまま出る。


 剃り跡ではなく、本物の生え際が出る。



 てっぺんを剃るのは、年寄りに合わせる作法だった。若い者が自分で選んだ形ではない。落として刈ってしまえば、頭じゅうに髪がある。



 寮の裏に、台が二つ出された。


 散髪屋が二人来ていて、順に呼ばれた。前から来ている者たちは、もう坊主である。落とすのは、この春に来た連中だった。


 列ができた。


 誰も喋らなかった。日本人の教員が一人立っていて、順に数えていた。



 リンは、笑っていた。


 自分の番が来ると、台に座って、さっさとやらせた。落ちた辮を拾い上げて、しばらく持っていた。


「軽いな」


 桶に、放った。



 ゴウのときに、列が止まった。


 鋏が、一度で入らなかった。


 太いのである。編み目が詰まっていて、束のまま握れば、散髪屋の手には余った。刃を咬ませて、少し切って、抜いて、また咬ませる。何度も繰り返した。


 途中で、散髪屋が道具を持ち替えた。


 後ろの列が、動かなくなった。誰かが足を組み替えた。誰かが座り込んだ。教員が、数え直した。


 落ちたとき、桶の底に音がした。



 カイの番が来た。


 座ってから、動かなかった。


 散髪屋が待っていた。後ろがつかえていた。


「早うせえ」


 誰かが言った。



 カイは、九年、同じ形をしていた。


 その形しか、知らなかった。


 落とせば、剃った範囲がなくなる。てっぺんに髪が生える。生え際が出る。


 自分の生え際を、カイは見たことがなかった。



 嫌だった。


 理由は、自分でも言えなかった。


 規則である。規則なら従う。従わない理由がない。


 それなのに、体が動かなかった。



 散髪屋が、鋏を入れた。



 一度で、行った。


 二度目は要らなかった。刃を咬ませたところで、もう先が落ちていた。


 あとは、上を刈るだけである。剃刀を使うほどのものではないので、鋏でざっと落として、それで済んだ。


 早かった。


 後ろの列が、急に進んだ。



 落ちたものを、散髪屋が足元の桶に入れた。


 桶の中には、もう何人ぶんも入っていた。太いものと、細いものが混ざっている。


 カイは、自分のがどれかを見なかった。



 寮の洗い場に、鏡があった。


 小さいものが一枚、柱に打ちつけてある。八人で使う鏡である。


 カイは、順番を待った。


 待っているあいだに、二人が前を通った。どちらも自分の頭を触っていた。触って、笑っていた。



 映った。


 こめかみのところが、左右から食い込んでいた。


 額の真ん中はまだ残っている。残っているので、そこだけが三角に前へ出ている。左右が引いて、真ん中が残る。そういう形だった。


 ローマ字のMに見えた。


 いままで、そこは剃ってあった。


 剃ってあったから、食い込んでいるのか、剃ってあるだけなのか、区別がつかなかった。


 いま、区別がついた。



 トキが、後ろから覗いた。


「若くなったな」


 悪気はなかった。この男に悪気があったことは、一度もない。あったことがないので、止まらないのだった。


 それから、少し黙って、言い直した。


「ゴウは熊だな」


 ゴウの頭は、黒かった。


 もみあげが濃く、そこから額まで一続きに繋がっている。額が狭い。生え際が眉のすぐ上まで下りていて、刈った直後なのに青かった。刈っても、生えている範囲そのものが広いのである。



 カイは、笑った。


 笑って済ませた。


 上海では、誰も言わなかった。編んでいたし、剃っていたし、みんな同じ形をしていたからである。



 ソウは、そこにいなかった。


 官舎から通っている。寮に入っていないので、寮則がかからない。


 同じ教室で、同じ時間割で、同じ鐘で動いている。かからないのは、その一行だけだった。



 寝床に入ってから、カイは耳の上に指をやった。


 短いものが並んでいる。撫でると、ざらざらと鳴った。


 毎日撫でていた場所ではない。毎日撫でていたのは、剃ったあとの、つるりとしたところである。


 こんな音がするとは、知らなかった。



 指を上へ動かすと、途中で引っかからなくなった。


 そこから先が、生え際だった。



 カイは、しばらくそこを撫でていた。


 懐に、銅鏡がある。


 磨けば映る。


 出さなかった。



 朝は鐘で起きる。


 同じ時刻である。前の日も、その前の日も、同じ時刻に鳴った。窓の明るさが少しずつ変わっていくので、季節が動いているのは分かるが、鐘は動かない。


 起きて、顔を洗って、飯を食う。


 教室へ行くと、時間割どおりに始まる。



 組では、夜中に起こされることがあった。


 誰かが土間で戸を叩く。板の間に灯が入る。支度をして出ろと言われる。何があったのかは、出てから聞くか、聞かないまま終わる。


 出れば、誰かが血を出して帰ってくる。


 帰ってこない者もいた。



 朝、頭数が足りないことがある。


 誰も説明しない。飯の膳が一つ少なく出るだけである。次の日には、その男の話をする者がいなくなっている。


 どこへ行ったのかを訊く場所がなかった。訊けば、知らんと言われる。



 だから、寝ていても半分起きていた。


 路地を歩く足音で目が覚める。戸が鳴れば体が起きる。起きてから、自分の家の戸ではないと分かって、また横になる。


 明日は自分かもしれない、と思って寝る。


 思っているので、眠りが浅い。


 九年、そうやって寝ていた。



 起きるのが、怖かった。


 眠るのが怖いのではない。眠ってしまえば、そのあいだは何も起きない。


 怖いのは、目が覚めたときである。



 目を開けて、まだ動かずにいる。


 板の間が静かなことがある。静かすぎることがある。


 静かなのは、昨日の晩に誰かが出ていって、まだ帰っていないからだった。膳を数える前に、そこで分かる。


 だから、動かずにいた。


 動かなければ、まだ数えずに済む。



 しばらくして、誰かが咳をする。誰かが起きる。土間で水を使う音がする。


 起きて、数える。


 合っている日と、合っていない日があった。



 寮では、来なかった。


 夜中に戸を叩く者がいない。灯も入らない。物音がすれば、それは誰かが便所へ立ったのである。


 朝、鐘が鳴って、全員が起きる。


 減っていない。



 そのことに気づくまでに、しばらくかかった。


 気づいたのは、二週目の朝だった。


 起きて、飯の膳を数えた。数える癖がついているのである。数えて、合っていることに気がついた。


 前の日も合っていた。その前も合っていた。



 カイは、学校が好きになった。



 好きになった理由を、本人は説明できなかった。


 時間割があること。鐘が鳴ること。教科書が全員に配られていること。飯の時刻が決まっていること。誰かの気分で予定が変わらないこと。夜中に起こされないこと。朝、頭数が減っていないこと。


 どれも、当たり前のことである。


 当たり前だと思っている連中が、四十人いた。



 実技が始まったのは、その月の半ばだった。


 まず、行進である。



 庭に線が引いてある。


 四列に並んで、号令で足を出す。左から出す。全員が同じ側の足を、同じ速さで、同じ歩幅で出す。それだけである。


 教官が号令をかける。一、二、一、二。


 カイは、遅れた。



 最初は、意味が分からなかった。


 難しいところが一つもない。歩くだけである。歩けと言われて歩けない道理がなかった。


 それなのに、遅れた。



 号令がかかると、頭が動く。


 いま何歩目か。次はどちらの足か。前の男の踵との間はどれだけ空いているか。列は真っ直ぐか。自分は端から何人目か。


 全部、同時に見えてしまう。


 見えたものを処理しているあいだに、体が半拍遅れる。



 遅れたので、直した。


 直すと、崩れた。


 歩幅を合わせようとすると速さがずれる。速さを合わせようとすると歩幅が伸びる。前の男に合わせると、隣とずれる。隣に合わせると、前とぶつかる。


 合わせようとするほど、合わなくなった。



 四十人のうち、一人だけ遅れている。


 すぐに分かる。


「止まれ」


 全員が止まる。


 名を呼ばれる。もう一度やり直しになる。四十人が、一人のせいで最初から歩き直す。


 後ろから、舌打ちが聞こえた。



 三度目に止められたとき、教官が前まで来た。


「考えるな」


 カイは、返事をした。


 考えるなと言われて、考えないやり方が分からなかった。



 トキが、いちばんうまかった。


 号令が聞こえた瞬間に足が出る。あいだに何もない。耳がいいのだった。教師の言葉をそのまま返すのと、同じことをしている。


 ゴウも、崩れなかった。体が大きいので歩幅が広いが、そこを縮めて合わせていた。合わせているというより、周りの足音を聞いて、その中に自分を入れているように見えた。


 リンは、普通だった。


 ソウも、普通だった。ソウは寮にいないので、朝の行進には来ない日がある。来た日は、崩れなかった。



 カイだけが、毎日止められた。



 罰は、班に来た。


 班は、五人だった。


 四十人を八つに分けてある。誰と組むかは決められていない。並んだ順で切ったので、昼に飯を食っている五人が、そのまま一つになった。


 カイ、ヤナ、トキ、ゴウ、リンである。


 ソウは、別の班に入っていた。寮にいないので、来ない日は四人で歩くことになる班だった。



 教練は班ごとにやり、班ごとに直される。


 一人が崩れれば、班が崩れる。



 最初はやり直しだった。五人が最初から歩き直す。それが二度、三度になると、時限が終わっても終わらない。飯の鐘が鳴っても、庭にいる。


 次の週から、居残りになった。



 最初のうちは、言われた。


 合わせろ、と言われた。前を見ろ、と言われた。難しいことではないだろう、と言われた。


 カイは、直そうとした。


 直らなかった。



 三週目から、誰も言わなくなった。


 言っても直らないと分かったからである。


 言われなくなってからの方が、こたえた。



 居残りの庭で、四人が黙っている。


 誰もこちらを見ない。見ないことに気をつかっているのが分かる。


 カイは、そこに立っていた。



 九つのときのことを、思い出した。


 組では、こういうとき、殴られるのはキビだった。


 教育係だからである。カイが水をこぼせば、キビが張られた。負けて帰った日も、キビが土間で張られていた。カイは座っていろと言われて、隅から見ていた。


 いつも、そうだった。


 顔を割られた日には、キビが勝手に出ていって、カシラが走って追いかけた。指の欠けた老けた男が走るのを、カイはあのとき初めて見た。



 あのとき、受けたのは一人だった。


 カイは、受けていない。座っていろと言われて、座っていた。



 いまは、四人が庭に立っている。


 誰も殴られない。ただ、日が暮れるまで残されるだけである。



 黙っていたのは、三日だった。


 四日目に、トキが言った。


「一個ずつ出そう」



 誰も反対しなかった。


 言い出したのがこの男だったので、たぶん深い考えはない。黙っているのが嫌になっただけである。


 それでも、四人が順に出した。



 ヤナが最初だった。


「前の男を見るな」


 カイが前の男の踵を見ているのを、横から見ていたのだという。見ていると、そのぶん遅れる。見えたものに合わせるまでに、間があるからだ、と言った。


 やってみた。


 見ないと、どこに合わせていいのか分からなくなった。前より崩れた。



 次はゴウだった。


 喋らない男である。この日も、ほとんど喋らなかった。


 カイの後ろに立って、肩に手を置いた。それから、自分が歩いた。


 押された。


 押される力に従って足を出せ、という意味だった。


 やってみた。ゴウが押しているあいだは、揃った。


 手が離れると、崩れた。



 リンは、しばらく考えてから言った。


「数えるのをやめられないか」


 カイが数えているのを、見抜いていた。


 やめてみろ、と言われた。


 やめようとすると、やめようとしていることを数えはじめた。



 トキは、最後だった。


「聞け」


 それだけ言った。


 足音を聞け、と言うのである。この男は、そうやっているのだった。号令と、四十人の足音が一つになっているのが聞こえる。その中に自分の足音を入れれば済む、と言った。


 カイには、四十人の足音は聞こえなかった。


 聞こえるのは、自分の足音だけだった。



 四つとも、駄目だった。



 それでも、四人は毎日出した。


 同じことを言い方を変えて出したり、新しいことを思いついたりした。ヤナが歩幅を測ろうと言って、庭に石を置いて印にした。ゴウが黙って歩いて見せた。リンが号令の言い方を真似た。トキは毎日ちがうことを言った。


 どれも、駄目だった。



 駄目だったが、居残りの庭は静かでなくなった。



 上海の埠頭を、思い出した。


 人足が列になって、板を渡っていた。細い板で、真ん中がたわんでいて、下は水である。荷を担いで、掛け声に足を合わせて、止まらずに渡る。


 カイは、あれをやったことがない。


 岸にいた。


 客の間を行き来して、順番を組み替えて、置き賃を割った。担いだことは一度もない。



 掛け声は、聞いていた。


 節のついた短い声で、意味はなかった。何を言っているのかを訊いたことがある。訊いたら、意味はないと言われた。


 あれで全員が同じ拍で足を出すのだ、と言われた。



 もう一つ、思い出したものがあった。


 十三の夏である。


 包みを一つ届けに出て、境の手前で道が塞がれていた。通りの向こうから列が来ていた。四人ずつ並んで、同じ帽子をかぶり、同じ色の服を着て、同じ側に銃を担いでいた。


 足音が揃っていた。


 遠くから、一つの塊になって近づいてきた。人が大勢歩けば足音は散らばるものだが、あれは散らばらなかった。


 カイは、押されて壁際まで下がった。包みを腹で押さえて、通り過ぎるのを見ていた。


 肌の色が濃い連中と、白い連中が、同じ服を着て、同じ歩幅で歩いていた。



 あのとき、列は外にあった。


 いまは、その中に入っている。



 ソウが言ったのは、一月ほど経ってからだった。


 庭の隅である。ソウは来ない日が多かったので、そのときたまたま来ていたのだった。


「歌えばいい」


 カイは、意味が分からなかった。


「歌を歌いながら歩く。合わせようとするから合わない。歌っていれば、勝手に合う」



 カイは、歌を知らなかった。



 母は歌わなかった。


 組では、誰も歌わない。賭場でも、湯屋でも、飯のときでも、歌う者はいなかった。歌うのは、酔って絡んでいるときだけである。あれは歌ではない。


 路地の女たちが何か口ずさんでいるのを、聞いたことはある。覚えていない。



 知らないと言うと、ソウが少し黙った。


 それから、一節だけ歌った。


 短いものだった。子供のころに習ったのだと言った。


 カイは、覚えられなかった。


 長すぎたのである。名前と同じで、頭の二つしか入らない。



 ソウは、それ以上教えなかった。


 教える気がないのではなく、教え方が分からないのだった。あの男にとって、歌は生まれたときからそこにあるものである。ないという状態が、想像できない。



 それからも、止められ続けた。



 直ったのは、夏の盛りだった。



 その日、カイは風邪をひいていた。


 夏風邪である。熱はないが、鼻が詰まって、口で息をしていた。庭に出て、並んで、号令を待った。


 息が苦しかったので、吸うところと吐くところを、自分で決めた。


 二歩で吸って、二歩で吐く。



 九つのときに、同じことを言われている。


 水場との往復である。桶を担いで、こぼさずに帰る。速く歩くとこぼれる、とキビが言った。


 同じ調子で歩け。足と息を合わせろ。


 水は、揺れると勝手に大きく揺れる。抑えようとすると余計に揺れる。歩幅と息を一定にして、同じ速さで進むと、そのうち揺れが止まる。


 覚えるのに、何日もかかった。覚えてしまうと、こぼさなくなった。



 あれは、自分で拍を作る話だった。


 速さは自分で決めていい。決めた速さを守ればいい。


 行進は、速さが向こうから来る。



 この日、カイは足を見なかった。


 足は号令に合わないので、合わせるのをやめた。


 合わせたのは、息である。


 号令の一・二で吸って、三・四で吐く。それだけをやった。歩数は数えなかった。前の男との間も測らなかった。列が真っ直ぐかどうかも見なかった。


 息だけを、号令に合わせた。



 足が、勝手についてきた。



 その日は、止められなかった。



 終わってから、カイはしばらく立っていた。


 何が起きたのかを、あとから並べようとした。並べようとすると、また分からなくなりそうだったので、やめた。


 やめる、ということが、この日はできた。



 班の連中は、何も言わなかった。


 言わないまま、次の日も止められなかった。


 三日目に、ヤナが「治ったな」と言った。


 治ったのだと、カイも思った。



 ソウの言った歌が、何をするものだったのかは、そのあとで分かった。


 歌は、拍を持っている。歌っているあいだ、拍を作る仕事は歌がやってくれる。だから考えなくて済む。


 カイには、歌がなかった。


 かわりに、息があった。



 教えたのは、キビである。


 十年前に、水場までの道で言った。


 あの男はいま、所払いで上海にいない。どこにいるのかも知らない。

本作のネタバレになりますが、全体を短編にしました。よかったらご覧ください。


歴史は髪の毛でできている『俺の髪で兄さんのカツラを作ったら、国が二つに分かれた件について』

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