第四章 三人と地下室
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小説とあわせて、ぜひビジュアルでも『心技戦隊ドライブレンジャー』をお楽しみください。
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床扉の下にあったのは、倉庫ではなかった。白い壁、金属棚、太いケーブル、複数のモニター、見慣れない測定器。店の落ち着いた内装とは似ても似つかない無機質な通路が建物の地下へ延び、ガラス越しには研究施設らしい部屋がいくつも並んでいる。
空気まで地上とは違って感じられた。酒や香水の匂いが混ざっていたラウンジとは違い、ここには金属と消毒薬、それに冷却装置から流れ出す乾いた空気の匂いがある。天井の白い照明は容赦なく三人の顔色を照らし、赤井の肩から滲む血も、黒井の頬に残った爪痕も、みるくが強がるために固く結んでいる唇も隠してくれない。上ではまだ何人が逃げられたのか分からず、警察や救急へ連絡が届いたのかも分からない。その不確かさが、閉じた地下通路の静けさの中でかえって重く感じられた。
「何なんですか、ここ。お店の地下にしては、さすがに設備の量がおかしくないですか?」
赤井が周囲を見回すと、みるくは乱れた髪を直しながら大きくため息をついた。
「オーナーの趣味と仕事の境目が消滅した結果よ。竿賀大。白衣を着た研究馬鹿で、数字と機械は大好き、人間の気持ちは『データにならないから後で』って扱うタイプ。私は給料さえ払ってくれれば人格までは求めないことにしてるけど、今日みたいな日に地下へ逃げ込む羽目になるとは思わなかった」
「ずいぶんな評価だな。そんな奴の店でよく働けるな」
「給料がいいからよ。人柄で家賃は払えないでしょ。逆に聞くけど、黒井だっけ? 仕事を選ぶ時、社長の人格だけ見て決めるの?」
「それだけじゃ決めねえけど、限度はある」
「私は限度より振込額を見る方なの。価値観が違うのね」
言い切るみるくを見て、赤井は苦笑した。みるくは強気に振る舞っているが、制服の袖口を直す指先はまだ震えていた。本人もそれに気づいているらしく、両手を強く握って震えを隠す。
「桃野さんも、怖いんですよね」
「当たり前でしょ。怖いのも嫌、怪我するのも嫌、仕事場が壊れるのも嫌、そのせいで今日の売上が飛ぶのも嫌。私は嫌なことを『仕方ない』で受け入れられるほど人格できてないの。むしろ、私のものを勝手に壊す奴は全員嫌い」
「店、桃野さんのものじゃないですよね」
「私の給料が発生する場所なんだから、私の利益には関係あるのよ。そういう細かいところを気にするから赤井は疲れるんじゃない?」
「会って十分くらいで性格分析されるとは思いませんでした」
「分かりやすい顔してるから」
黒井が小さく笑うと、みるくは不機嫌そうに睨んだ。
「何よ。人の顔を見て勝手に笑うくらいなら、言いたいことがあるなら口に出しなさいよ」
「いや、お前、人の性格悪いって言われる理由を自分から積み上げていくタイプだなと思って」
「悪くて結構。いい人で死ぬくらいなら、性格悪くても生きて帰る方がいいわ。ついでに言えば、善人扱いされたところで給料も上がらないし、怪我の治りも早くならないから」
赤井は呆れながらも、みるくが本当に何も感じていないわけではないことには気づいていた。彼女は会話の途中でも何度も地上へ続く階段を振り返り、そのたびに指先を握り直している。黒井も冗談を返しながら、通路の曲がり角とガラス扉の位置を目で測っていた。三人とも怖い。ただ、赤井は恐怖を胸の中へ抱え込み、黒井は情報へ変え、みるくは苛立ちと損得勘定へ変えている。その違いが、知り合って間もない三人の輪郭を少しずつはっきりさせていた。
その言葉が途切れた直後、上の方から金属が擦れる音がし、それまで互いの性格を探るように言い合っていた三人の表情が同時に固まった。
「……ねえ。床の扉、誰が閉めた?」
みるくの問いに、赤井は黒井を見た。黒井も赤井を見る。二人の沈黙を見て、みるくの眉間に深い皺が寄った。
「まさか、誰も閉めてないの?」
「俺は最後に赤井が降りたと思ってた」
「僕は黒井さんが後ろにいると思っていました」
「私は二人とも客なんだから、せめて逃げる時くらい役に立つと思ってたんだけど。期待した私が馬鹿だったわ」
「僕たちのミスなのは認めますけど、そこまで容赦なく言わなくてもいいじゃないですか」
「だって事実でしょ。三人いて、三人とも『誰かが閉めたと思った』で追手を招待したのよ。見事なくらい間抜けじゃない」
階段の上から猫耳の影が覗き、続いてギギの声が地下通路へ反響した。
「見つけたにゃ。尾にゃしども、地下へ逃げ込んでいたにゃん」
みるくは三人の中で最初に踵を返した。
「反省会は生き残ってから! 今度こそちゃんと走って!」
赤井と黒井も続く。背後で床へ着地する軽い音、銀色の爪が伸びる硬質な音が続き、追跡が再開された。




